【短編アンソロジー】去りゆく影たち

タカハシU太

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わたしたちのトレジャーハント

【人生に迷子になった二人は、今日も河原で宝を探す】



 学校なんか行きたくない。だけど、家にもいられない。
 仕方がないから、私は制服姿のまま、日中は河原で時間をやり過ごすことにした。土手の斜面に座り、教科書を開いてお勉強。お弁当もある。
 今はちょうどいい季節だが、これから雨や暑さも待ち構えている。そうなったら、図書館にでも行くか、どうしようか。

 そのおじさんの存在は、何日か前から気づいていた。眼下の河川敷で、毎日地面を見回しながらウロウロしているのだ。
 最初は工事関係か、役所の人かと思った。くたびれたスーツ姿だったから。草木をかき分けるようにしていたので、植物を調査しているのかなとも。
 だけど、革靴で歩き回るのはヘンだ。ジョギングする人や、犬の散歩をする人などには無関心。私が見ていることさえも。
 ただただ、何かを見つけようとしている。
「あの……何か探し物ですか?」 
 おじさんが斜面の草むらに目を落としながら近い距離までやってきていたので、思わず声をかけてしまった。
「十億円だ! 当選した宝くじをここで落とした!」
 えっ……! 私も立ち上がり、辺りを見回してしまった。
「見つけてくれたら、君に半分あげる!」
 よく分からないまま、私も捜索のお手伝いをすることになってしまった。暇だったし、体も動かしたかったから。
「向こうはどうですか?」
「昨日、探した!」
「でも、風で飛ばされているかもしれませんよ。もう一度、確かめたほうが」
 私にうながされて、一緒にグランド付近まで探しに出かけた。
 何をやっているのだろう、私は。

 翌日、車道側から土手を上ってきたおじさんは、待ち構えていた私を見てびっくりした。
 私は上下、学校ジャージを着ていた。運動靴に軍手と、準備ばっちりである。
「さあ、始めましょう!」
 おじさんと並びながら茂みをかき分ける。
「十億見つかったら、何に使うつもりですか?」
「五億だ。半分は君のものだから。君なら、どうする?」
「どうしましょうね……うふふ」
 お互いに地面を見ながら、たわいもない会話が続いた。
 お昼は土手の斜面で取った。おじさんは持ってきていたおにぎりを食べ始めた。市販のものではないから、家族か自分が握ったのか。
 私は自分のお弁当箱を差しだした。
「多めに作ったので、よかったらどうぞ」
 おかずの容器を二人のあいだに置くと、おじさんは爪楊枝を使って口に入れた。
「うん、うまい! こっちもいただこうかな」
 おじさん、食べすぎ。私の分が……ま、いっか。
「君はいつもここにいるね」
 私はどう返事したらいいのか分からず、暗い顔になってうつむいた。
「いいんじゃないか。人生は長い。のんびりいこう」
 おじさんは腰を上げ、さっさと探索を再開した。元気よく動いている姿がわざとらしく、私はほほ笑ましく眺めていた。

「そこのあなた」
 振り返ると、土手の上に疲れた表情の女性が立っていた。両手にはスーパーの買い物袋。
「宝くじなんてないわよ」
 顔色ひとつ変えず、淡々と続けた。
「そもそも宝くじさえ買ってない。去年、会社をリストラされてからあんなふうになったの。毎日毎日、日が暮れるまで」
 女性の視線は遠くで探しているおじさんへと向けられていた。
「何人もの人があなたみたいに手伝っていったけど……無駄だから」
 女性は重い足取りで歩き去っていった。河辺のおじさんは、私と女性のやりとりに気づいていたようで、固まっている。
 私のスマホがいきなり鳴りだした。画面を確認する。母からだ。
 鳴り続けるスマホの電源をオフにして、鞄にしまった。

 おじさんは必死に探しているフリをしていた。その目の前に私が立ちはだかった。おじさんは目も合わせられず、動きを止める。何か言おうとしているが、言葉が出てこない。
 先に私が発した。
「さあ、やるかな!」
 私は中腰になって、地面を見回し始めた。おじさんはまだ突っ立っていた。
「ほら、さぼってないで!」
 ハッパをかけられ、おじさんは笑顔になって一緒に探し始めた。
 宝探しはまだまだ続く。

               (了)
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