兄が変態すぎたので家出して逃げ込んだ先はまたしても変態比率が高かったようでどうやら僕の救いはお嬢様だけなようです。

アララギ

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第二話 新聞紙とひったくりと少女

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「うう、夜風が身にしみる」
 
 気がつくとあたりはすっかり暗くなっていた。
  さっきまでは賑やかだった子供たちの声もなく、公園はしんっ、と静まり返っている。

「おなかも空いたけど、お金も………全然ないし」

 ポケットに入っていた小銭入れの中には百円玉が一枚と十円玉が三枚、一円玉が二枚。

 これではホテルどころかファミレスのドリンクバーで夜を越すこともできない。

  友達の家にでも泊めてもらおうとも考えたが、こんな時間にいきなり訪ねて泊めてほしいと言いに行けるような度胸はなく、アポを取ろうにも、携帯をおいてきてしまっているので連絡もとれない。
 公衆電話を見つけたところで携帯番号、友達のなんか覚えてるはずもない。

「とりあえず、今日は野宿、かな」

 初体験だわーいっ!!
 
 …………なんて気楽な性格になれればどれだけいいだろう。

「だとすると、やっぱり新聞紙かな、布団」

 前にテレビで見た路上で暮らす人々のドキュメンタリーを思い出した。
  
 テレビの中ではダンボールや新聞紙を使って橋の下や駅前で寝起きしていた。
 新聞紙ぐらいなら今の手持ちでもきっと足りるはずだ。それを被ってこの公園のベンチで取りあえず夜を明かそう。
 
 そう決めて、気を取り直して立ち上がると一度公園を出た。
  
 そのまましばらく歩いていまだ明るい街中へと出る。

(コンビニに新聞紙って置いてあったよね)

 ふと思い出して周りを見渡す。
 
 目的の場所はすぐに見つかった。少し行った先に二軒もある。

 新聞紙はコンビニに入ってすぐそばにたくさんの種類が立てかけられていた。

「えっと、これでいいか」

 できるだけ厚そうで安い新聞を手に取る。

「百二十円になりますー、ありがとうございましたー」

「………」

「あのー? お客様?」

「え? あ、はいっ!」

 思わず美味しそうな肉まんやおでんに見入っていた。

 慌てて視線をそらすと新聞紙を受け取る。
  
 これ以上はここにいるのはまずい、腹の虫がなる。
  
 急ぎ足で外に出るとコンビニ特有の電子音が鳴り響いた。

「新聞紙、買っちゃったな」

  今すぐ引き返して新聞紙の代わりにご飯を買いたい衝動に駆られる。

「いやいや、もう四月とはいえ、この状況で病気にでもなったら目も当てられないし」

 ブルブルと頭を振ってその衝動をこらえる。
 海人は小さな水たまりを避けてポールで出来たガードレールに腰を掛けた。

「なんか、遠くまで来ちゃったなぁ」

 見慣れぬ風景を見て、ポツリとつぶやく。

(明日はどうしようか。やっぱり何をするにしてもお金が必要だよな。なにか仕事見つけなきゃ。取りあえず飛び込みでも出来る日雇いのバイトを探さないと……、って、そんなの運よく見つかるかな。取りあえず、明日は土曜日だし、だれか友達の家を訪ねることにして……)

 明日への不安が次々頭に浮かんでは消え、考えれば考えるほど先行きは不透明になっていく。

「とりあえず今はあの公園に戻るか」

 トッ、と立ち上がってもう一度軽く息を吐く。

  そのまま黙って空を見上げると、いつもより少しだけ大きな月が輝いていた。

「うん、きっとそのうちいいことあるよな」

  先行き不安なままだが、ウジウジしてても仕方がない。
 心の折れそうなマイナス思考は奥底に閉じ込めておくことにした。


  
「オラオラッ!! どけどけどけーっ!!」

「待ちなさいよっ!!」



「な、なんだ?」

 と、突然聞こえてきた大声に驚いて顔を向ける。

  視線の先ではやたらと柄の悪そうな男が何か抱えて走っている。その後方からはものすごい形相をした女の子が必死で後を追いかけていた。

「邪魔だ邪魔だっ、どけっつってんだろっハゲッ!!」

(あれ、もしかしなくてもひったくり?)

  最近は治安が悪いってよく聞くけど、夜とは言えこんなに人通りのある場所でそんな人を見るなんて本当に物騒になったなぁ。

「くっ、返してっ!! それは大切なものなのよっ!!」

「へへっ、誰が返すかバーカッ!!」

 男は少女の言葉に舌を出して中指を立てたポーズで返事をし、そのまま猛スピードで駆けてくる。

  って、え? なんかこっちの方に向かってきてるっ??

「誰かっ!! 誰かその男を捕まえてっ!!」

(ど、どうしよう、こっちにどんどん近づいてくる)

  えっと、止めたほうがいいんだよね? で、でもどうすれば……。

  と、追っていた方の女の子と視線があった。

「お願いっ!! 止めてっ!!」

「っ!!」

 本当に大切なものなのだろう、必死の感情が伝わってくる。

 男はすぐそこまで近づいてきていた。

「ギャハハハッ!! 誰が捕まるかよっ!!」

 歩幅と相手の息遣いから相手のリズムを測り取る。

  トッ、トッ、トッ、トッ、トッ!!

「あの、ごめんなさい」

「ああっ? うおわっ!?」

 目の前を通り過ぎようとした男に足をちょいっ、と引っ掛けた。

  勢いよく走っていた男はその場に踏みとどまれずに豪快に倒れこむ。

「ふぎゃべらばっ」

「あ、しまったっ!!」

 空中に男が持っていたものが放り出される。

 考えるよりも先に体が動いた。
 
 宙に待ったそれを飛びつくようにして受け止めると、

「ほっ、ってわああっ!?」

 バシャッ!! と、思いっきり水たまりの中に突っ込んだ。

「うう、いいことだってあるはずって思った矢先にこんなのか」

「ちっ、クソがっ!!」

 盛大にコケた男はわかりやすく悪態をつくと走り去っていく。

「あっ、ちょっと待ちなさいっ!!」

 追いついてきた女の子が大声を上げるが、男は既に近くの路地裏へと入り込んでいってしまった。

「ああっ、もうっ!! 逃げられたわっ!!」

 女の子が悔しそうに地団駄を踏んだ。

  憤然とした表情の浮かんだ少女は少し赤みのかかった綺麗な長い髪とそれとは対照的に透き通るような肌、キリッ、とつりあがった髪と同じ色の目はどこか意志の強さを感じさせる。

  学生らしき制服を乱して肩で息をしているのに、それでもどこか上品な雰囲気がにじみ出ていた。

「って、いけない。あなた、大丈夫!?」

「あ、えと、まぁ、なんとか」

 荷物を落とさないように気をつけながら立ち上がり、そう言って言葉を濁す。

  正直、全然大丈夫じゃないです、はい。

  荷物は両手で捧げ持っていたおかげで無事だが代わりに体はべシャベシャのドロドロだ。ついでにせっかく買った新聞も体の下敷きになってグシャグシャだ。

「なんとかってあなた………」

「それより、はい、これ」

「あ、その、ありがとう」

 水溜りの水で汚さないように気を付けながら、女の子に荷物を差し出す。

ふと、そこで気がついた。

「これ、ヴァイオリン?」

「ええ、そうよ」

 女の子はそれを受け取るとぎゅっ、と心の底から安堵の笑みを浮かべる。

「本当にありがとう。とても……とても大切なものだから」

 思った通り、よほど大切なものだったのだろう。
 その顔を見られただけでも体を投げ出した甲斐はあった。

「………」

「? えっと、私の顔になにかついてるかしら?」

「い、いや、なんでもな、へくちっ!!」

 ぶるりと体に寒気が走る。
 
 当たり前のように寒い、春とは言え夜だし、びしょ濡れだし。

「ご、ごめんなさいっ、私のせいでこんなことに……」

「大じょ、へくちっ、平気だか、へくちっ!!」

 い、いけない、くしゃみで言葉にまるで説得力がない。

「ああ、もうほらっ、全然大丈夫じゃないわよ」

 少女はポケットから品のいいハンカチを取り出すと差し出してきた。

「とりあえず気休め程度にしかならないでしょうけど、これ使って」

「あ、ありがとう」

 差し出されたハンカチを受け取ると、着たまま服を軽く絞ってから手先の水分を拭き取る。

「……ん? ちょっ!?」

 これ、かなり高級なハンカチだ。僕でも知ってるブランド物のロゴが入っている。

 刺繍の目は細かいし、手触りはいい。材質も申し分なさそうだ。

(いまさらだけどこんなハンカチで泥水拭うなんて……っ!!)

「こ、これ、本当につかっちゃっていいのっ!?」

「別に構わないわよ、そんなに高いものでもないもの」

 さらりと言って少女はポケットから携帯を取り出した。

「高いものじゃないって……」

 少なくとも一般市民な方々が手を出すのはためらうぐらいの値段はするんじゃないだろうか。

「あ、瑞江? ちょっと頼みたいことが……、って、そんなに怒らないでよ、お説教なら後にして。………そう、そこ、ほら、なんていったかしら、この前の―――……」

 電話越しに何か話し込んでいる少女をポーッと眺める。

 いったい何を話しているのだろう。

「さっ、これでいいわ」

 パタンと携帯を閉じるとこちらに向き直った。

「あ……、えっと……」

 何か言おうと思って口を開くが、何を言えばいいのかわからずにそのまま閉じる。

  そんなこちらの様子を向こうはどう受け取ったのか少女は軽く吹き出してから再度向き直った。

「私の名前はアリス、玖炎 アリスよ。あなた、名前は?」

「緋辻、海人。僕の名前は、緋辻 海人」

 それが、僕と彼女の、ちょっと情けないような最初の出会いだった。
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