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第2章 グレタへ走れ
第9話 城塞都市グレタ
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生まれて初めて見る大きな町、城塞都市。
ロウドはワクワクしながら、門をくぐった。
門からは、大通りが真っ直ぐに伸びており、町の中心にある太陽神の大聖堂前の中央広場まで続いていた。
町の建物は、二階建てがやっとの村の建物とは違い、三階建てや四階建てのモノなどもある。
周りを城壁で囲まれているために敷地が限られているので、上に伸ばさざるを得ないのだろう。
大聖堂はそびえ立つ双塔を備えた立派なモノで、こじんまりとした村の神殿しか見たことのないロウドからすれば、遠目から見ただけでも畏怖に近い感情すら湧き上がる荘厳かつ壮麗なモノであった。
大通りの両脇には様々な店が軒を並べ、店員が威勢良く声を張り上げている。
店などと言えば、領内の村にあった宿屋と酒場、そして雑貨屋ぐらいしか見たことのないロウドは、その種々雑多な店に目を奪われた。
武器屋、防具屋、薬剤屋、金銀の細工物などを売っている店、ロウドが見たことも無い食べ物を売っている店、上流階級の服を仕立てる仕立屋、鍋釜を直す鋳掛け屋、等々。
一応貴族であるため、外に物を買いに行くということは無く、通いの商人が館に来るのが当たり前だったロウドにとって、この大通りに並んだ店の数々は状況も忘れてウキウキするものだった(先程の娼館の時もかなりアレだったが)。
それらを見ていて、ロウドが不思議に思ったのは、皿に乗った湯気の立つ料理を描いた看板だった。
エールジョッキとカトラリー(ナイフやフォークなどの物)を描いた酒場の看板とは違うソレに疑問を感じて、魔動車の御者台にいるヴァルに聞いてみる。
「あのお店はなんですか?」
ロウドの指し示した看板を見て、
「あれは食堂だ。料理を食わせる店だ」
と答えるヴァル。
「それは酒場とは違うんですか?」
酒場でも客に料理を出すが、それとは違うのだろうか。
そんなロウドの疑問に、
「食堂ってのはな、料理人が腕を振るって作った凝った料理を出すお店なんだ。酒はオマケなんだよ。ミスティファーやイスカリオスなんかは良く行くな。俺は酒場の方がいいね」
と説明するヴァル。
「へ~。流石、大きな町だけあって色んなお店があるなぁ」
感心するロウド。
そんな様子を車内から見ながら、
「笑える。あのお坊ちゃん、キョロキョロしてお上りさん、丸出しだぜ」
と、コーンズが笑っていた。
「コーンズ、笑っちゃ悪いよ。彼はこんな町は初めてなんだろうから」
と言いながらも、イスカリオスも微妙に口元がひくついている。
「貴方たちねえ、性格悪いわよ」
ミスティファーが二人を窘める。
まあ、そんな彼女もはしゃぐ子供を見るような目で、ロウドを見ているわけだが。
そんな風に生暖かい目で見られているとは知らず、キョロキョロしているロウドに声を掛ける者がいた。
「あれ? ファグナー様んとこのロウド坊ちゃんじゃないですか!」
すれ違ったロバに牽かせた幌付き荷車から、口髭を生やした中年男が顔を出していた。
「あ、シモンさん!」
その男は、ファグナー邸に良く物を売りに来ていた商人のシモンだった。
「驚いた。こんな所でロウド坊ちゃんに会うとは。どうなさったんですか?」
「エドワード兄さんが家を継いだからね。僕は遍歴の旅に出たんだ」
「あ~、なるほど。そういうことですか」
納得した様子で頷くシモン。
シモンも色々な貴族と繋がりのある交易商人であるから、後継ぎになれなかった弟たちに居場所が無いのは重々承知していた。
「そういうシモンさんは、これから何処へ?」
「私は南のバルトに買い付けに行くところです。あそこは王国一の港町ですからね。色々と他の国から来た珍しい物があるんですよ」
その言葉を聞いて、父のロバートがシモンから外国産だという色鮮やかな絨毯を買っていたのを思い出す。
そして浮かれて忘れていた状況を思い出して忠告をすることにした。
愛馬を荷車に寄せ、シモンの耳元で小声で囁く。
「シモンさん、外に出たなら急いで下さい。できれば野営もせずに南へ向かって」
ロウドの張り詰めた表情を見て冗談の類いではないと察したシモンは、
「ヤバい状況なんですね?」
と聞き返した。
「詳しいことは言えませんが、この町が襲われる恐れがあります」
目を見開くシモン。
しばし硬直した後、
「情報感謝します。ロウド坊ちゃんはどうするんですか?」
と、ロウドの目を真っ正面から見据えて言った。
逃げるなら一緒に逃げようと言ってくれているのだ。
そんな思いを感じ取りながらも、
「僕はここに残ります。その為にこの町に来たんだから。ありがとう、シモンさん」
と残って戦うことを伝えるロウド。
「そうですか……では、ご武運を。また、何処かで会える日を楽しみにしております」
ロウドの顔を見て翻意は無理と感じたか、それ以上は言わず頭を下げ、御者に『急げ』と指示を出すシモン。
門の方へと向かう顔見知りの乗ったロバ荷車を見送り、巻き込まれないことを祈るロウド。
「話が済んだなら、急ぐぞ」
黙って見ていたヴァルが、声を掛ける。
「は、はい!」
目的の冒険者組合は、中央広場に面していた。
他にも、町を運営する役人のいる市庁舎や、商人の集う商館、職人たちの組合の建物、そして先程も言ったように太陽神の大聖堂といったモノが中央広場に面しており、正に城塞都市の中心と言えた。
魔動車は建物前に停め、ロウドの愛馬サイクロンは脇の厩に預けて、三階建ての建物内に入る。
一階は大ホールになっていた。
様々な武装、様々な年齢の冒険者がひしめき合っており、壁には仕事の依頼書が幾つも張ってある。
他の冒険者の間をすり抜けて受付カウンターへと向かう〈自由なる翼〉一行。周りをキョロキョロしながら尾いていくロウド。
カウンターにつき、業務用スマイルを浮かべる受付嬢に、
「重要な話がある。支部長に取り次いでくれ」
と前置きもなく本題に入るヴァル。
スマイルを消して顔を引き攣らせなから、
「失礼ですが、冒険者なら身分証をお願いします」
と、冒険者組合が発行している身分証の提示を求める受付嬢。
誰とも分からない者を支部長に取り次ぐことなどできないからだ。
硬革鎧の首元から、紐で涙滴型の七色に光る石を下げたペンダントを取り出すヴァル。
その涙滴型の石を、受付嬢がカウンター下から取り出した水晶玉に当てた。
この涙滴型の石は山人が作った魔道具で、冒険者の個人情報が記録されている。
それを同じく魔道具である水晶玉に当たると、水晶玉内に情報が映るのだ。
水晶玉に映されたヴァルの情報を見て、驚愕する受付嬢。
「〈自由なる翼〉!」
受付嬢の悲鳴に近い声を聞いて、ホール内の冒険者の目が一行に向けられる。
「〈自由なる翼〉って、確か大鬼殺しの息子が率いるパーティだろ? もうすぐ、銀等級に昇格するっていう……」
「てことは、アイツが〈大鬼殺し二代目〉のヴァルか」
一行を見ながら、ホールの端々で冒険者たちがヒソヒソ話をする。
それを聞き、強いとは思っていたが銀等級昇格寸前だったとは、と改めて感嘆の思いをもって〈自由なる翼〉の面々を見るロウド。
冒険者にも等級がある。
まず最初に、登録したては石等級。路傍の石である。
そこから実績を重ねていくと、一端の冒険者扱いされて銅等級に昇格する。
アーサーたちは、この等級だった。
でそこから更に実績を重ねて名が知れ渡るようになると、銀等級である。
この等級になると、二つ名を以て呼ばれるようになり、名指しで依頼が来たりするし、吟遊詩人にも歌われたりする。
金等級は、国家を代表する冒険者だ。
ヴァルの両親である大鬼殺しヴォーラス、月の戦乙女リリアナ、それと共に魔神を討ち果たした太陽神の神官の太陽の申し子アベル、グレイズ王国の騎士であった鉄壁の騎士カッシュが、この等級である。
ヴォーラスとリリアナは冒険者を引退。
アベルは法王庁に入り、次期法王と噂されている枢機卿に。
カッシュはグレイズ王国の現王立騎士団長。
となっているので、今現在グレイズ王国に金等級の冒険者はいない。
よって、銀等級が事実上の最高位と言える。
「も、申し訳ありません! ただ今、支部長にお取り次ぎいたします!」
職員の一人が慌てて階段を登っていく。支部長に報告に行ったのだろう。
しばらく他の冒険者の不躾な視線に耐える一行。
「なあ、〈自由なる翼〉にあんな鎧の奴いたか?」
「新しいメンバーか? あんな鎧着てんだから、相当腕が立つんだろうな」
どうやらロウドのことを新メンバーだと思ってるらしい。
また、この身の丈に合ってない鎧のせいで過大評価されているようだ。
有象無象の冒険者の羨望と嫉妬の視線がロウドに突き刺さる。
『御免なさい、僕はそんなに立派な者じゃないんです。そんな目で見ないで』
恥ずかしくて泣きそうになるロウド。
この羞恥プレイは、職員が呼びに来るまで続くのであった。
* * *
日は落ちた。我らの時間だ。
魔族の軍勢が、夜の帳の中、意気揚々とグレタへ向けて進軍する。
小鬼、大鬼、巨人などの魔族の他、魔狼、剣歯虎、梟熊などの魔獣が群れをなしている。
その軍の上空には鷲翼獅子に騎乗した黒い鎧の騎士が四人いた。
黒騎士たちは眼下の魔軍を見下ろしながら、ほくそ笑んでいた。
「これだけの軍勢なら、聖堂騎士団など一捻りに違いない」
「そうだな。憎き太陽神の信徒を容赦なく叩き潰そうぞ」
そんな風に勢いづく同僚に適当に相槌を打ちながら、リーズは次の戦いに思いを馳せていた。
「心を沸き立たせる戦いになるだろうか。そして、あのロウドとかいう騎士は、どれだけ俺を楽しませてくれるのか」
リーズはグレタ、そして聖堂騎士団グレイズ支部のある方角を見ながら、期待に身を焦がす。
「お、見えてきたぞ! 平人たちの町が!」
先頭を飛んでいた黒騎士が声を上げた。
その声に釣られて、リーズを含む他の三人も前方に目をこらす。
城壁に囲まれた平人の町と、その後ろの丘の上に建つ城が見える。
「なあ、聖堂騎士団の城はあの町の先なのだろう? 無駄な消耗を避けるためにも、無視していいんじゃないか?」
リーズは同僚に提案した。
今回の作戦目標は聖堂騎士団グレイズ支部だ。守備隊や冒険者もいるであろう町を襲って無駄な損耗をするべきではない。
そう考えての言葉であったが、同僚からは反対の意見しか出なかった。
「何を言う、リーズ。目の前に滅ぼすべき光の神々の信徒の町があるのに、なにゆえ見過ごさねばならん!」
「そうだ! リーズ、臆したか?」
「お前の意見も分からなくはないが、平人の町を血祭りに上げれば、頭の悪い小鬼や大鬼どもの士気が上がろう」
同僚三人の反対を受けて、リーズは自分の意見を取り下げた。
「分かった。確かにあの町を血祭りに上げれば、臆病な小鬼どもも、その気になるか(あの町に、ロウドがいればいいがな)」
第五十三次人魔戦役の発端となるグレタ攻防戦は、間近に迫っていた。
城塞都市グレタ 終了
ロウドはワクワクしながら、門をくぐった。
門からは、大通りが真っ直ぐに伸びており、町の中心にある太陽神の大聖堂前の中央広場まで続いていた。
町の建物は、二階建てがやっとの村の建物とは違い、三階建てや四階建てのモノなどもある。
周りを城壁で囲まれているために敷地が限られているので、上に伸ばさざるを得ないのだろう。
大聖堂はそびえ立つ双塔を備えた立派なモノで、こじんまりとした村の神殿しか見たことのないロウドからすれば、遠目から見ただけでも畏怖に近い感情すら湧き上がる荘厳かつ壮麗なモノであった。
大通りの両脇には様々な店が軒を並べ、店員が威勢良く声を張り上げている。
店などと言えば、領内の村にあった宿屋と酒場、そして雑貨屋ぐらいしか見たことのないロウドは、その種々雑多な店に目を奪われた。
武器屋、防具屋、薬剤屋、金銀の細工物などを売っている店、ロウドが見たことも無い食べ物を売っている店、上流階級の服を仕立てる仕立屋、鍋釜を直す鋳掛け屋、等々。
一応貴族であるため、外に物を買いに行くということは無く、通いの商人が館に来るのが当たり前だったロウドにとって、この大通りに並んだ店の数々は状況も忘れてウキウキするものだった(先程の娼館の時もかなりアレだったが)。
それらを見ていて、ロウドが不思議に思ったのは、皿に乗った湯気の立つ料理を描いた看板だった。
エールジョッキとカトラリー(ナイフやフォークなどの物)を描いた酒場の看板とは違うソレに疑問を感じて、魔動車の御者台にいるヴァルに聞いてみる。
「あのお店はなんですか?」
ロウドの指し示した看板を見て、
「あれは食堂だ。料理を食わせる店だ」
と答えるヴァル。
「それは酒場とは違うんですか?」
酒場でも客に料理を出すが、それとは違うのだろうか。
そんなロウドの疑問に、
「食堂ってのはな、料理人が腕を振るって作った凝った料理を出すお店なんだ。酒はオマケなんだよ。ミスティファーやイスカリオスなんかは良く行くな。俺は酒場の方がいいね」
と説明するヴァル。
「へ~。流石、大きな町だけあって色んなお店があるなぁ」
感心するロウド。
そんな様子を車内から見ながら、
「笑える。あのお坊ちゃん、キョロキョロしてお上りさん、丸出しだぜ」
と、コーンズが笑っていた。
「コーンズ、笑っちゃ悪いよ。彼はこんな町は初めてなんだろうから」
と言いながらも、イスカリオスも微妙に口元がひくついている。
「貴方たちねえ、性格悪いわよ」
ミスティファーが二人を窘める。
まあ、そんな彼女もはしゃぐ子供を見るような目で、ロウドを見ているわけだが。
そんな風に生暖かい目で見られているとは知らず、キョロキョロしているロウドに声を掛ける者がいた。
「あれ? ファグナー様んとこのロウド坊ちゃんじゃないですか!」
すれ違ったロバに牽かせた幌付き荷車から、口髭を生やした中年男が顔を出していた。
「あ、シモンさん!」
その男は、ファグナー邸に良く物を売りに来ていた商人のシモンだった。
「驚いた。こんな所でロウド坊ちゃんに会うとは。どうなさったんですか?」
「エドワード兄さんが家を継いだからね。僕は遍歴の旅に出たんだ」
「あ~、なるほど。そういうことですか」
納得した様子で頷くシモン。
シモンも色々な貴族と繋がりのある交易商人であるから、後継ぎになれなかった弟たちに居場所が無いのは重々承知していた。
「そういうシモンさんは、これから何処へ?」
「私は南のバルトに買い付けに行くところです。あそこは王国一の港町ですからね。色々と他の国から来た珍しい物があるんですよ」
その言葉を聞いて、父のロバートがシモンから外国産だという色鮮やかな絨毯を買っていたのを思い出す。
そして浮かれて忘れていた状況を思い出して忠告をすることにした。
愛馬を荷車に寄せ、シモンの耳元で小声で囁く。
「シモンさん、外に出たなら急いで下さい。できれば野営もせずに南へ向かって」
ロウドの張り詰めた表情を見て冗談の類いではないと察したシモンは、
「ヤバい状況なんですね?」
と聞き返した。
「詳しいことは言えませんが、この町が襲われる恐れがあります」
目を見開くシモン。
しばし硬直した後、
「情報感謝します。ロウド坊ちゃんはどうするんですか?」
と、ロウドの目を真っ正面から見据えて言った。
逃げるなら一緒に逃げようと言ってくれているのだ。
そんな思いを感じ取りながらも、
「僕はここに残ります。その為にこの町に来たんだから。ありがとう、シモンさん」
と残って戦うことを伝えるロウド。
「そうですか……では、ご武運を。また、何処かで会える日を楽しみにしております」
ロウドの顔を見て翻意は無理と感じたか、それ以上は言わず頭を下げ、御者に『急げ』と指示を出すシモン。
門の方へと向かう顔見知りの乗ったロバ荷車を見送り、巻き込まれないことを祈るロウド。
「話が済んだなら、急ぐぞ」
黙って見ていたヴァルが、声を掛ける。
「は、はい!」
目的の冒険者組合は、中央広場に面していた。
他にも、町を運営する役人のいる市庁舎や、商人の集う商館、職人たちの組合の建物、そして先程も言ったように太陽神の大聖堂といったモノが中央広場に面しており、正に城塞都市の中心と言えた。
魔動車は建物前に停め、ロウドの愛馬サイクロンは脇の厩に預けて、三階建ての建物内に入る。
一階は大ホールになっていた。
様々な武装、様々な年齢の冒険者がひしめき合っており、壁には仕事の依頼書が幾つも張ってある。
他の冒険者の間をすり抜けて受付カウンターへと向かう〈自由なる翼〉一行。周りをキョロキョロしながら尾いていくロウド。
カウンターにつき、業務用スマイルを浮かべる受付嬢に、
「重要な話がある。支部長に取り次いでくれ」
と前置きもなく本題に入るヴァル。
スマイルを消して顔を引き攣らせなから、
「失礼ですが、冒険者なら身分証をお願いします」
と、冒険者組合が発行している身分証の提示を求める受付嬢。
誰とも分からない者を支部長に取り次ぐことなどできないからだ。
硬革鎧の首元から、紐で涙滴型の七色に光る石を下げたペンダントを取り出すヴァル。
その涙滴型の石を、受付嬢がカウンター下から取り出した水晶玉に当てた。
この涙滴型の石は山人が作った魔道具で、冒険者の個人情報が記録されている。
それを同じく魔道具である水晶玉に当たると、水晶玉内に情報が映るのだ。
水晶玉に映されたヴァルの情報を見て、驚愕する受付嬢。
「〈自由なる翼〉!」
受付嬢の悲鳴に近い声を聞いて、ホール内の冒険者の目が一行に向けられる。
「〈自由なる翼〉って、確か大鬼殺しの息子が率いるパーティだろ? もうすぐ、銀等級に昇格するっていう……」
「てことは、アイツが〈大鬼殺し二代目〉のヴァルか」
一行を見ながら、ホールの端々で冒険者たちがヒソヒソ話をする。
それを聞き、強いとは思っていたが銀等級昇格寸前だったとは、と改めて感嘆の思いをもって〈自由なる翼〉の面々を見るロウド。
冒険者にも等級がある。
まず最初に、登録したては石等級。路傍の石である。
そこから実績を重ねていくと、一端の冒険者扱いされて銅等級に昇格する。
アーサーたちは、この等級だった。
でそこから更に実績を重ねて名が知れ渡るようになると、銀等級である。
この等級になると、二つ名を以て呼ばれるようになり、名指しで依頼が来たりするし、吟遊詩人にも歌われたりする。
金等級は、国家を代表する冒険者だ。
ヴァルの両親である大鬼殺しヴォーラス、月の戦乙女リリアナ、それと共に魔神を討ち果たした太陽神の神官の太陽の申し子アベル、グレイズ王国の騎士であった鉄壁の騎士カッシュが、この等級である。
ヴォーラスとリリアナは冒険者を引退。
アベルは法王庁に入り、次期法王と噂されている枢機卿に。
カッシュはグレイズ王国の現王立騎士団長。
となっているので、今現在グレイズ王国に金等級の冒険者はいない。
よって、銀等級が事実上の最高位と言える。
「も、申し訳ありません! ただ今、支部長にお取り次ぎいたします!」
職員の一人が慌てて階段を登っていく。支部長に報告に行ったのだろう。
しばらく他の冒険者の不躾な視線に耐える一行。
「なあ、〈自由なる翼〉にあんな鎧の奴いたか?」
「新しいメンバーか? あんな鎧着てんだから、相当腕が立つんだろうな」
どうやらロウドのことを新メンバーだと思ってるらしい。
また、この身の丈に合ってない鎧のせいで過大評価されているようだ。
有象無象の冒険者の羨望と嫉妬の視線がロウドに突き刺さる。
『御免なさい、僕はそんなに立派な者じゃないんです。そんな目で見ないで』
恥ずかしくて泣きそうになるロウド。
この羞恥プレイは、職員が呼びに来るまで続くのであった。
* * *
日は落ちた。我らの時間だ。
魔族の軍勢が、夜の帳の中、意気揚々とグレタへ向けて進軍する。
小鬼、大鬼、巨人などの魔族の他、魔狼、剣歯虎、梟熊などの魔獣が群れをなしている。
その軍の上空には鷲翼獅子に騎乗した黒い鎧の騎士が四人いた。
黒騎士たちは眼下の魔軍を見下ろしながら、ほくそ笑んでいた。
「これだけの軍勢なら、聖堂騎士団など一捻りに違いない」
「そうだな。憎き太陽神の信徒を容赦なく叩き潰そうぞ」
そんな風に勢いづく同僚に適当に相槌を打ちながら、リーズは次の戦いに思いを馳せていた。
「心を沸き立たせる戦いになるだろうか。そして、あのロウドとかいう騎士は、どれだけ俺を楽しませてくれるのか」
リーズはグレタ、そして聖堂騎士団グレイズ支部のある方角を見ながら、期待に身を焦がす。
「お、見えてきたぞ! 平人たちの町が!」
先頭を飛んでいた黒騎士が声を上げた。
その声に釣られて、リーズを含む他の三人も前方に目をこらす。
城壁に囲まれた平人の町と、その後ろの丘の上に建つ城が見える。
「なあ、聖堂騎士団の城はあの町の先なのだろう? 無駄な消耗を避けるためにも、無視していいんじゃないか?」
リーズは同僚に提案した。
今回の作戦目標は聖堂騎士団グレイズ支部だ。守備隊や冒険者もいるであろう町を襲って無駄な損耗をするべきではない。
そう考えての言葉であったが、同僚からは反対の意見しか出なかった。
「何を言う、リーズ。目の前に滅ぼすべき光の神々の信徒の町があるのに、なにゆえ見過ごさねばならん!」
「そうだ! リーズ、臆したか?」
「お前の意見も分からなくはないが、平人の町を血祭りに上げれば、頭の悪い小鬼や大鬼どもの士気が上がろう」
同僚三人の反対を受けて、リーズは自分の意見を取り下げた。
「分かった。確かにあの町を血祭りに上げれば、臆病な小鬼どもも、その気になるか(あの町に、ロウドがいればいいがな)」
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