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12 内覧会

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 次の休みの日に、私はまたラーズの店に向かった。そろそろ、家を紹介してもらわなければいけない。

 今日もラーズの店で店番していたのはアークだった。とても暇そうに、本を読んでいる。

「こんにちは、アークさん。ラーズさんはお仕事中ですか?」

「ああ、先生。いらっしゃい。曹長なら、すぐに来ると思いますよ。ちょっともめごとがあってね」

 エレッタはアークの読んでいる本をのぞき込んでみた。中身を見て眉を顰める。これは、共和国語ではないのか?

「アークさん、共和国にゆかりのある方なのですか?」

「いえ。ああ、この本ですか。今、勉強中なんです」
 アークは本をぱたりと閉じた。
「帝国の本はほとんどがタブレットでしか読めないでしょう。僕は光がなくてタブレットを使うのが苦手なんです。本を読むとなると共和国語ができないと不便なので」

「まぁ、お勉強熱心なのですね」

「仕事で必要なんです。仕方なく」
 なんてまじめな人なのだろう。教室の子供たちがこのくらいやる気があればいいのに。

「そういえば、学校で共和国語の講座もあるのですよ。ご存じでしたか?」
 私はため息をついている青年に勧める。

「知ってますよ。ユウ先生でしょ。きれいな女性ですよね。既婚者だけど」
 ちょっと残念そうなアークだった。

「ですよね。あの講座は、大きな生徒さんたちにとても人気なんですよ」
 というか、大きな生徒しかいないというべきなのか。彼女の授業に出る生徒たちの熱意はすごいものがある。

「エレッタ先生の授業も好評ですよ。わかりやすいって。今度、一度聴講してみようかなぁ」

「ダメだ。お前は絶対にいくなよ」
 不機嫌に割り込んできたのはラーズだった。ラーズは大きな体でアークの間に壁を作る。

「それはそうと、今日はどうした。なんでまたここに来たんだ?」

「いやぁ、居場所がないんですよ。しばらくここに滞在しようと思って」

 アークは後ろから大きな荷物を引っ張り出してみせた。
 ラーズの口がへの字に曲がる。

「神殿に行けよ、神殿に」

「僕は神殿が大嫌いなんで」

「第一砦に行けよ。あそこなら、フラウちゃんもいるだろ」

「あそこは身の危険を感じるんですよ。それに引き換え、ここは安全が確保されているから」

「あの、フラウちゃんって、今、いわれました?」
 私は二人の会話に割って入る。

「ええ。フラウちゃん、あー、フランカ・レオン総督のことですよ。僕たちは親しみを込めてフラウ総督とよんでいます。特に、曹長はフラウのファンクラブ第一号……」

 ラーズは無言でアークの荷物をつかんで、外に投げ捨てた。

「ああ、なんてことをするんですか。曹長!」

 アークが慌てて荷物を取りに行ったところで、ラーズは扉をきっちり閉めて、鍵をかけた。

「すみません。変な奴が入り込んでいて」
 ラーズはエレッタに頭を下げた。

「あら、私は構いませんけれど。……いいのですか? 大切な部下なのでは?」

「問題ありません。元部下ですから」

 ラーズは椅子を引き寄せて。エレッタの前に座った。

「それで、エレッタさん、今日は家の下見ということでしたよね」

「あの、フラウちゃんというのは……」

「あー、あいつの言ったことは気にしないでください。我々はただ、フランカ総督を敬愛しているだけです」

「そうなんですか? ごめんなさい。わたし、そのフランカ総督という方、存じないのです」

「そうかもしれませんね。彼女の知名度はここ辺境に限られてますから」

「彼女? 女性なのですね」
 確かにフランカは女性名だが、まさか本当に女総督とは思わなかった。

「ええ。彼女ほど素晴らしい女性はいないですよ」
 ラーズは目を輝かせて、いかに彼女が素晴らしいかの説明を始めた。
 まるで一流の歌姫か女優に熱を上げているファンたちみたい。弟も人気の歌手に似たような反応をしていたっけ。そわそわと落ち着きのない言動を逆に私はほほえましく思う。

「フランカ総督は、おきれいな方なのですね」

「き、きれいというか、かわいいというか……」
 ふいにラーズは言葉を切った。
「あー。申し訳ない。ついつい熱弁してしまいました。そろそろ、家のことを話しませんか」

 ラーズは顔を赤くして、目を合わせようとしない。

「そうです。今日はそのことを話に来たのでした。はい、良いところを紹介していただければ」

「いくつか物件を見繕ってあります。かなりいいところを準備、いえ、見つけておきました。きっと気に入っていただけると思います。そ、それで、その、もしよければ、俺が案内を……ど、どうでしょう」

 そんなに暑くないはずなのだが、ラーズは汗を拭いた。

「す、すみません。仕事でちょっと力仕事をしていました」

 お茶を運んできた従業員が下を向いて、手を震わせる。

「まぁ、そんなご親切に。いいのですか? お仕事は?」

「ま、まぁ。問題ありません」

「ありがとうございます。もし、紹介していただけるのなら、ありがたいです。いつまでも、神殿にご厄介になるのも心苦しかったのですよ」

 ラーズはゆであがった顔を手拭いでふいた。

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