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27 穴

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「曹長」
誰かの声がする。でも、目が眩んで、前が見えない。
 
「馬鹿野郎。いきなり照らすんじゃねぇ」
とラーズもまぶしそうに目をかばいながら、前方に怒鳴った。 

「あ、失礼しました」 
明かりがずらされる。

「なんだ?」

 「跡を見つけました。子供の足跡と、手掛かりです」 
ラーズは手元のタブレットで位置を確認する。
 
「どのあたりだ?」

「ここです」
彼はラーズ商会の職員だった。私たちが持っているのと同じようなタブレットで地図をラーズに見せている。
 
「ここは……まずいな、ひょっとして」
 ラーズは足早に職員が来た方に向かう。
私と職員は慌ててラーズを追いかけた。

 すぐ、また明かりのある通路に戻った。通った覚えのない通路だ。ぐるりと回るようにつながっているのだろう。

 ついた場所は地下水の流れる広い場所だった。遺跡なのか、自然の洞窟なのか私には判別がつかない。水が流れていない隅のほうに人が集まって何か話し合っていた。

 ラーズの姿に気が付いたのか、何人かがこちらを向いて迎え入れる。 

「それで?」

「ここです。見てください」
 男の一人がちぎれた布を差し出す。 

「あ、それは……」学校の印の入った手拭いだった。 

「子供たちの持ち物に、間違いないな」 

「ええ。あの子たちのものだと思います。学校で支給されたものだから」 

「ここに引っかかっていた。正確には結び付けられていた」
 
指さされた先には、飛び出した杭があった。その先には小さな穴が開いている。子供ならどうにか通り抜けられるほどの小さな穴だ。 

「まさかですけど」 

「たぶん、この先に進んだのだと思う」

 私は暗い穴をのぞいてみた。明かりを使っても中の様子はわからない。 

「この穴はしばらく進むと立坑になっている。命綱代わりに手拭いを結んだロープを使ったのだと思う。だが」

「この中で落ちたというのですか?」
 背筋が泡立つような感覚があった。 

「この地図にもここから先は記述がない。まさか、こんな小さな穴に入ることができる、わざわざはまりに行くバカがいるとは思っていなかった」
 一人くらい残っていてもいいようなものを、とラーズはこぼしている。

 めまいがする。最悪のことが頭をよぎる。ティカのバカ。母ちゃんにどんな言い訳をすればいいのかしら。
 
「子供たちは、怪我をしていないでしょうか」 
私の問いかけにラーズは首を振る。 

「記録ではそんなに深い穴ではなかったと思う。すぐにこの穴の調査をする」 

「機材を持ってきて、おろしますか?」 
穴の中をのぞき込んでいた男が尋ねる。

 「ああ。どのくらいの深さがあるのか、先がどうなっているのか、調べないとな。ここから先は生身では潜れねぇ。先生に呼び出しをかけて……」
 私も隙間をのぞき込んでみた。なるほど、子供なら通り抜けできるけれど、大人では無理だ。

私は裏山をよく探検していた。穴にもぐるのは得意だった。小さな隙間に隠れることも。
周りの子供たちがかくれんぼをする年ごろではなくなったので、すっかり忘れていたけれど。

「会長、私が中の様子を調べてきます」
自分でも信じられないようなことを私は提案していた。
周りの人たちが、動きを止めた。

「え、エレッタさ……先生が?」

「ええ。私なら、ここにもぐることができます。この先はどうなっているのか、記録はないのですか?」

「待て、危なすぎる。この先は……ほんの少しだけ行ったところに竪穴があると記録されている。竪穴の先は行き止まりだったらしい」

「では、穴を下りれば、子供たちがいると。そういうことですね」

「待てよ。本当にいくつもりなのか? 先生」
周りの人たちがとんでもないと首を振る。

「危ないよ。先生、穴潜りなんてしたこともないだろう?」
「もう少し待てば、調査用の機械が来るし……」

「でも、子供たちですよ。何かあったら……私、これでも教師です」

ラーズ会長が腕組みを説いた。

「わかった。どのみち、誰かが潜らなければいけないんだ。先生、いけるか?」

「ええ。任せてください」
やめて、私には無理……私は自分の中の小さな声を無視した。

やらなきゃ。やれるはずよ。

「じゃぁ、この装備をつけてくれ」 

ただでさえ、重装備だと思っていたのだけれど、それでは足りないらしい。 私は渡された装備に戸惑う。頑丈なベルトと、命綱。それに、ヘルメット。 

「ちょっといいか。ここをこうして……」
 少し私には大きいけれど、何とか調整して身に着けた。 

「あとこれを」
彼は耳にかける装身具を私に手渡した。 

「これは?」 

「光術がなくても通信できる機械だ。ここから先は光術が通じない可能性が高い。」 私はそれを耳に着ける。

 『聞こえるか?』 ラーズ会長のささやき声が耳元で響いた。 

「ええ、よく聞こえるわ」 

「ここからしばらく行くと立坑がある。一見、通路が続いているように見えるが落としになっていて、真っ逆さまだ。」
私の表情を見てラーズ会長は慌てて言葉を足した。 
「そんなに高さはない。子供ならたぶん大丈夫だ」
本当だろうか。私は疑いの目でラーズを見た。 
「問題はその先で傾斜になっている。滑り台といえばわかるか?その先は何もない部屋になっている」 

「ずいぶん、詳しいのですね」
 私が低い声で言うと、ラーズは目をそらした。 

「あー、昔、この穴にはまった奴がいた。」 

「そんな、危険な穴をふさいでおかなかったのですか?ここは、初心者用の施設でしょう?」
子供たちが危険な目にあっていると思うと、言葉がきつくなる。
 
「……まさか、子供がここに来るとは思っていなかったんだ。ここで訓練するのは、大人ばかりだから、な」
 
いろいろと突っ込みたいところがあるけれど、そんなことを言ってもいられない。穴に落ちてしまったらしい子供たちのことが心配だ。 
私は穴に首を突っ込んだ。

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