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第三話「婚約者(仮)との朝食と、“思い出の箱”」
しおりを挟む翌朝。
俺は目覚ましが鳴る前に、目を覚ました。高級感あるこの部屋も、ようやく少し慣れてきた……気がする。
隣を見ると――いない。
昨夜、さすがに「一緒のベッドはちょっと無理」って言ったら、ひよりは「ふふ、昔は腕枕して寝てたのに」なんて爆弾を落としてから、素直に隣の部屋へ移動してくれた。俺が真っ赤になったのは言うまでもない。
リビングに行くと、エプロン姿のひよりが朝食を準備していた。
白いシャツに紺のスカート。シンプルなのに、妙に眩しい。
「おはようございます、律さん。パン派でしたよね?」
「あ、ああ……ありがとう」
食卓には、バターたっぷりのクロワッサン、スクランブルエッグ、サラダ、スープ。下手なカフェよりレベル高くないか……?
「朝からこんなに……」
「いつもこれくらいでしたよ。律さん、朝弱いから、食べやすいように考えてたんです」
「……そ、そうなんだ」
俺は椅子に座って、トーストをかじる。うまい。めちゃくちゃうまい。けど、それ以上に――
この時間が、なぜか落ち着く。
たった二日しか一緒に過ごしてないのに、この空間に「懐かしさ」を感じる自分がいる。
「ねえ、律さん」
ひよりが、少しだけ表情を引き締めて口を開いた。
「思い出せないって、つらいですか?」
「……ああ、まあ」
「それなら……これ、見てみませんか?」
彼女は食卓の横の棚から、小さな木箱を持ってきた。リボンで留められていて、鍵はついていない。
「“思い出の箱”です。律さんと作ったんです。一緒に行った場所で買ったものとか、プリクラとか、手紙とか……」
「……見ていいの?」
「もちろん。全部、律さんとの思い出ですから」
彼女は俺の手の中に、そっと箱を乗せた。
――カチリ。
蓋を開けると、ふわっと、懐かしい香りがした。中には、いろんな小物が丁寧に並べられていた。
ペアキーホルダー。遊園地のチケットの半券。手作りのしおり。俺の字で書かれた短いメモ。
「“冷えピタは冷凍庫じゃなくて冷蔵庫。氷点下はアカン”……なにこれ」
「ふふ。律さんが風邪ひいたとき、冷凍庫からガチガチの冷えピタ出してきたんですよ。笑いすぎて泣きました」
「……ほんとに、俺、そんなことしたのか」
「はい。バカみたいでしたけど、かわいかったです」
――くそ、心が揺れる。
こんなにリアルな記憶の痕跡。しかも、どれも全部、俺自身がそこにいたように思えてくる。
「これ……全部、本当なんだな」
「ええ。本当です」
そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
ひよりが少し驚いたように顔を上げる。
「……あれ、誰か来る予定なんて――」
彼女が玄関に向かい、インターホンをチェックする。次の瞬間、表情が固まった。
「……えっ……なんで……?」
「どうした?」
俺が近づくと、モニターに映っていたのは――
「律の“元カノ”」と名乗る女性だった。
(続く)
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