5 / 35
5
「これはこれは、偉大なる陛下。この度は大いなる栄誉をいただきありがとうございます」
王宮に上がったメルルーナ公爵は、なぜか王の私室へ通された。
第一王子のやらかしは学園の卒業パーティで行われた。
すでに噂は野火のように広がっていることだろう。
本来なら謁見室か会議室で重臣と対応を諮るところだが、私室に通すということは内々に済まそうとしているな、相変わらずズルい方だ、と公爵は呆れた。
「そう皮肉を言うな。息子の過ちも儂の過ちも分かっている。申し訳なかった」
そういって王は公爵に頭を下げた。
私室に侍従も警護も置いていなかったのはこのためか。
王が臣下に頭を下げるなどありえない。本来なら。だが少しでも公爵家からの非難を躱すため、先制して頭を下げたのだろう。
娘が第一王子の婚約者にと願われてから十数年、婚約を白紙とする話をする度に頭を下げられて来たのだから、いまさらなんの感慨もわかなかったが。
「分かっておられるなら話は早い。殿下は婚約破棄を叩きつけてこられたが、かねてからの約束通り婚約は白紙としてもらいます。また、殿下に付けていた人員は全て引き上げます」
慰謝料、迷惑料などなどの当たり前の話はしなかった。
「待ってくれ。それでは息子は殺されてしまう」
王が公爵家の後見を望んだのは、王妃の息子である第一王子が側妃に暗殺されようとしていたからだ。
いままでは公爵家から送られた人員が第一王子の周りを固め鉄壁の布陣を敷いていたから無事だったが、それを引き上げられては王子の命が危うい。
「王妃様のご実家を頼ればよろしい。本来なら王妃様のご実家が担うことでしょう」
王妃の実家は伯爵家だ。側妃の実家は力のある侯爵家。王妃の実家の盾など侯爵家の鉾の前にはぺっらぺらの紙のようなものだろう。
「婚約の白紙は受け入れる。だが、どうか後見だけは、」
「殿下は娘を無実の罪で捕縛しようとされたそうです」
息子の命乞いをする王が息を呑んだ。
「すでに殿下は我が家に剣を向けた。我が家も剣を抜くべきですかな」
それは内戦か、王子を謀殺するということが、いや公爵のことだ、議会を主導して王子を処刑台に送りかねない。
同情を買える段階などとうに過ぎていたのだと、王はやっと悟った。
「すまなかった。すべて受け入れよう」
宰相がいれば王のこのような迂闊な物言いは咎められただろうが、公爵は流した。
強欲に利を毟り取ることも出来るだろうが、そんな価値すらないだろう。
力のない王妃と力のある側妃。
十数年前は側妃から第一王子を守ってくれと頼まれたが、いまや王は、議会に議案を通すために側妃の力を借りている。
だというのに側妃の息子である第二王子を立太子する様子もないのだから、側妃陣営が第一王子を排除したいと思うのは自然の流れだ。
第一王子を諦めたからか、小柄ではない王が小さく見えた。
「殿下が出家なされば、命までは奪われないでしょう」
「しかしそれでは」
出家するということは、現世のすべての権利を放棄するということだ。王位継承権も。そうなれば側妃は第一王子の命くらいは目こぼしするだろう。
王室を出れば、立場上もう会うこともできない。王妃と第一王子を愛している王にとっては辛い選択だ。
「いや、そうだな」
側妃の徹底した殺意は、廃嫡して幽閉しても市井に落としても第一王子の命を刈るだろうが、出家ならば側妃の殺意も届かない。
神殿に入るとはそういうことだ。現世とは、隔離される。良くも悪くも。
力を落とした王を促し、侍従や役人を呼び婚約を白紙とする手続きをとると、公爵は足取りも軽く王宮を後にした。
王宮に上がったメルルーナ公爵は、なぜか王の私室へ通された。
第一王子のやらかしは学園の卒業パーティで行われた。
すでに噂は野火のように広がっていることだろう。
本来なら謁見室か会議室で重臣と対応を諮るところだが、私室に通すということは内々に済まそうとしているな、相変わらずズルい方だ、と公爵は呆れた。
「そう皮肉を言うな。息子の過ちも儂の過ちも分かっている。申し訳なかった」
そういって王は公爵に頭を下げた。
私室に侍従も警護も置いていなかったのはこのためか。
王が臣下に頭を下げるなどありえない。本来なら。だが少しでも公爵家からの非難を躱すため、先制して頭を下げたのだろう。
娘が第一王子の婚約者にと願われてから十数年、婚約を白紙とする話をする度に頭を下げられて来たのだから、いまさらなんの感慨もわかなかったが。
「分かっておられるなら話は早い。殿下は婚約破棄を叩きつけてこられたが、かねてからの約束通り婚約は白紙としてもらいます。また、殿下に付けていた人員は全て引き上げます」
慰謝料、迷惑料などなどの当たり前の話はしなかった。
「待ってくれ。それでは息子は殺されてしまう」
王が公爵家の後見を望んだのは、王妃の息子である第一王子が側妃に暗殺されようとしていたからだ。
いままでは公爵家から送られた人員が第一王子の周りを固め鉄壁の布陣を敷いていたから無事だったが、それを引き上げられては王子の命が危うい。
「王妃様のご実家を頼ればよろしい。本来なら王妃様のご実家が担うことでしょう」
王妃の実家は伯爵家だ。側妃の実家は力のある侯爵家。王妃の実家の盾など侯爵家の鉾の前にはぺっらぺらの紙のようなものだろう。
「婚約の白紙は受け入れる。だが、どうか後見だけは、」
「殿下は娘を無実の罪で捕縛しようとされたそうです」
息子の命乞いをする王が息を呑んだ。
「すでに殿下は我が家に剣を向けた。我が家も剣を抜くべきですかな」
それは内戦か、王子を謀殺するということが、いや公爵のことだ、議会を主導して王子を処刑台に送りかねない。
同情を買える段階などとうに過ぎていたのだと、王はやっと悟った。
「すまなかった。すべて受け入れよう」
宰相がいれば王のこのような迂闊な物言いは咎められただろうが、公爵は流した。
強欲に利を毟り取ることも出来るだろうが、そんな価値すらないだろう。
力のない王妃と力のある側妃。
十数年前は側妃から第一王子を守ってくれと頼まれたが、いまや王は、議会に議案を通すために側妃の力を借りている。
だというのに側妃の息子である第二王子を立太子する様子もないのだから、側妃陣営が第一王子を排除したいと思うのは自然の流れだ。
第一王子を諦めたからか、小柄ではない王が小さく見えた。
「殿下が出家なされば、命までは奪われないでしょう」
「しかしそれでは」
出家するということは、現世のすべての権利を放棄するということだ。王位継承権も。そうなれば側妃は第一王子の命くらいは目こぼしするだろう。
王室を出れば、立場上もう会うこともできない。王妃と第一王子を愛している王にとっては辛い選択だ。
「いや、そうだな」
側妃の徹底した殺意は、廃嫡して幽閉しても市井に落としても第一王子の命を刈るだろうが、出家ならば側妃の殺意も届かない。
神殿に入るとはそういうことだ。現世とは、隔離される。良くも悪くも。
力を落とした王を促し、侍従や役人を呼び婚約を白紙とする手続きをとると、公爵は足取りも軽く王宮を後にした。
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。
藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。
どうして、こんなことになってしまったんだろう……。
私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。
そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した……
はずだった。
目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全11話で完結になります。
〖完結〗役立たずの聖女なので、あなた達を救うつもりはありません。
藍川みいな
恋愛
ある日私は、銀貨一枚でスコフィールド伯爵に買われた。母は私を、喜んで売り飛ばした。
伯爵は私を養子にし、仕えている公爵のご子息の治療をするように命じた。私には不思議な力があり、それは聖女の力だった。
セイバン公爵家のご子息であるオルガ様は、魔物に負わされた傷がもとでずっと寝たきり。
そんなオルガ様の傷の治療をしたことで、セイバン公爵に息子と結婚して欲しいと言われ、私は婚約者となったのだが……オルガ様は、他の令嬢に心を奪われ、婚約破棄をされてしまった。彼の傷は、完治していないのに……
婚約破棄をされた私は、役立たずだと言われ、スコフィールド伯爵に邸を追い出される。
そんな私を、必要だと言ってくれる方に出会い、聖女の力がどんどん強くなって行く。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
【完結】全てを後悔しても、もう遅いですのよ。
アノマロカリス
恋愛
私の名前はレイラ・カストゥール侯爵令嬢で16歳。
この国である、レントグレマール王国の聖女を務めております。
生まれつき膨大な魔力を持って生まれた私は、侯爵家では異端の存在として扱われて来ました。
そんな私は少しでも両親の役に立って振り向いて欲しかったのですが…
両親は私に関心が無く、翌年に生まれたライラに全ての関心が行き…私はいない者として扱われました。
そして時が過ぎて…
私は聖女として王国で役に立っている頃、両親から見放された私ですが…
レントグレマール王国の第一王子のカリオス王子との婚姻が決まりました。
これで少しは両親も…と考えておりましたが、両親の取った行動は…私の代わりに溺愛する妹を王子と婚姻させる為に動き、私に捏造した濡れ衣を着せて婚約破棄をさせました。
私は…別にカリオス王子との婚姻を望んでいた訳ではありませんので別に怒ってはいないのですが、怒っているのは捏造された内容でした。
私が6歳の時のレントグレマール王国は、色々と厄災が付き纏っていたので快適な暮らしをさせる為に結界を張ったのですが…
そんな物は存在しないと言われました。
そうですか…それが答えなんですね?
なら、後悔なさって下さいね。
婚約破棄は嘘だった、ですか…?
基本二度寝
恋愛
「君とは婚約破棄をする!」
婚約者ははっきり宣言しました。
「…かしこまりました」
爵位の高い相手から望まれた婚約で、此方には拒否することはできませんでした。
そして、婚約の破棄も拒否はできませんでした。
※エイプリルフール過ぎてあげるヤツ
※少しだけ続けました
〖完結〗旦那様には本命がいるようですので、復讐してからお別れします。
藍川みいな
恋愛
憧れのセイバン・スコフィールド侯爵に嫁いだ伯爵令嬢のレイチェルは、良い妻になろうと努力していた。
だがセイバンには結婚前から付き合っていた女性がいて、レイチェルとの結婚はお金の為だった。
レイチェルには指一本触れることもなく、愛人の家に入り浸るセイバンと離縁を決意したレイチェルだったが、愛人からお金が必要だから離縁はしないでと言われる。
レイチェルは身勝手な愛人とセイバンに、反撃を開始するのだった。
設定はゆるゆるです。
本編10話で完結になります。
眠りから目覚めた王太子は
基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」
ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。
「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」
王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。
しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。
「…?揃いも揃ってどうしたのですか」
王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。
永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。