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その日は起きた時から変だった。
「誰もいないのか」
いつもなら朝は専属の侍女が起こしに来る。
部屋の隅には専属護衛のウォルドが控えており、侍女の開けたカーテンの向こうから朝日が差し込んでいるのだ。
だが今日は部屋が暗かった。
まだ夜なのかと時計を見ると、起床の時間を過ぎている。カーテンの隙間から光が差し込んでいた。
「ウォルド」
子どもの頃からいつも傍に控えていた専属護衛の名前を呼ぶが、一向に返事がない。
どういうことだとイソベルは眉を顰めた。心の隅からじわじわと不安が湧き上がってくるのには見ないフリをした。
「おはようございます」
護衛を呼ぶイソベルの声に応えるようにドアが開き、見覚えのない糸目の侍従が朝の支度の準備をして入室してきた。
「誰だ、お前は」
「テレンス伯爵家の者でございます。本日より殿下付となりました」
「母上の実家の?」
王宮に貴族家の家の者がいることを不思議に思ったが、それよりも護衛の不在が気になる。
「まあいい、ウォルドはどうした」
「ウォルドを含めたメルルーナ公爵家の人員は昨日付で全て退職いたしました」
「なにを言っている。ウォルドは王宮の者だろう」
「いいえ。メルルーナ公爵家が殿下におつけになった者でございます」
「いつもの侍女は? 侍従たちは!?」
「すべてメルルーナ公爵家配下の者たちでございます。全員昨日付で退職いたしました」
「なにを勝手なことを! どういうことだ!?」
「メルルーナ公爵令嬢との婚約がなくなりましたので、公爵家ゆかりの者は皆引き上げたのです」
「だから! なぜ! 俺の側付きが公爵家の者なんだ! 王宮の人員のはずだろう!!!」
イライラする。イソベルが思わず声をあげると、侍従はハテ、と首を傾げた。
「殿下はお忘れでしょうか。メルルーナ公爵令嬢との婚約前、殿下につけられた人員は全て事故で亡くなりました。それ以来、王宮から人員の派遣がありませんでしたので、婚約を機にメルルーナ公爵家が殿下の側仕えを手配していたのです。
あの頃はテレンス伯爵家も家内が乱れておりお力添えすることが出来ませんでしたが、この度、婚約がなくなったことで公爵家が人員を引き上げるという話を聞きまして、テレンス伯爵より殿下をお守りするようにと、わたくしどもが派遣されました」
誇らしげに笑みを浮かべる侍従を愕然と見ながら、イソベルは堅く閉ざしたはずだった記憶の底の扉が開くのを感じた。
そうだ。むかし、おれのまわりで、みんなしんだ。
「う、」
「どうなさいました」
ひどく頭が痛み、イソベルが頭を押さえると、侍従は手にした荷物を下し、イソベルに近寄ってきた。
「来るな! ウォルド! ウォルドを呼べ!!」
「ですからウォルドは退職を…あぁ! もしかしてウォルドとはウォルド・バーティス卿の事でしょうか。
メルルーナ公爵家最強の騎士と名高いウォルド卿でしたら、アマーリエ・メルルーナ嬢に剣を捧げていると評判の騎士です。メルルーナ公爵令嬢に婚約破棄を言い渡された殿下の元にはどうあっても戻ってこないかと思われますが」
「う、嘘、嘘だ」
ねむれないのですか、でんか。でしたら、うぉるどをかしてあげますね。うぉるどはつよいから、かならずでんかを、まもってくれます。だいじょうぶ。あんしんして、ねむってください。
稚い幼女の、労りに満ちた声が思い出される。
「嘘だ。うわぁーーーーーー!!!!!」
イソベルは頭を押さえて声を上げた。
「誰もいないのか」
いつもなら朝は専属の侍女が起こしに来る。
部屋の隅には専属護衛のウォルドが控えており、侍女の開けたカーテンの向こうから朝日が差し込んでいるのだ。
だが今日は部屋が暗かった。
まだ夜なのかと時計を見ると、起床の時間を過ぎている。カーテンの隙間から光が差し込んでいた。
「ウォルド」
子どもの頃からいつも傍に控えていた専属護衛の名前を呼ぶが、一向に返事がない。
どういうことだとイソベルは眉を顰めた。心の隅からじわじわと不安が湧き上がってくるのには見ないフリをした。
「おはようございます」
護衛を呼ぶイソベルの声に応えるようにドアが開き、見覚えのない糸目の侍従が朝の支度の準備をして入室してきた。
「誰だ、お前は」
「テレンス伯爵家の者でございます。本日より殿下付となりました」
「母上の実家の?」
王宮に貴族家の家の者がいることを不思議に思ったが、それよりも護衛の不在が気になる。
「まあいい、ウォルドはどうした」
「ウォルドを含めたメルルーナ公爵家の人員は昨日付で全て退職いたしました」
「なにを言っている。ウォルドは王宮の者だろう」
「いいえ。メルルーナ公爵家が殿下におつけになった者でございます」
「いつもの侍女は? 侍従たちは!?」
「すべてメルルーナ公爵家配下の者たちでございます。全員昨日付で退職いたしました」
「なにを勝手なことを! どういうことだ!?」
「メルルーナ公爵令嬢との婚約がなくなりましたので、公爵家ゆかりの者は皆引き上げたのです」
「だから! なぜ! 俺の側付きが公爵家の者なんだ! 王宮の人員のはずだろう!!!」
イライラする。イソベルが思わず声をあげると、侍従はハテ、と首を傾げた。
「殿下はお忘れでしょうか。メルルーナ公爵令嬢との婚約前、殿下につけられた人員は全て事故で亡くなりました。それ以来、王宮から人員の派遣がありませんでしたので、婚約を機にメルルーナ公爵家が殿下の側仕えを手配していたのです。
あの頃はテレンス伯爵家も家内が乱れておりお力添えすることが出来ませんでしたが、この度、婚約がなくなったことで公爵家が人員を引き上げるという話を聞きまして、テレンス伯爵より殿下をお守りするようにと、わたくしどもが派遣されました」
誇らしげに笑みを浮かべる侍従を愕然と見ながら、イソベルは堅く閉ざしたはずだった記憶の底の扉が開くのを感じた。
そうだ。むかし、おれのまわりで、みんなしんだ。
「う、」
「どうなさいました」
ひどく頭が痛み、イソベルが頭を押さえると、侍従は手にした荷物を下し、イソベルに近寄ってきた。
「来るな! ウォルド! ウォルドを呼べ!!」
「ですからウォルドは退職を…あぁ! もしかしてウォルドとはウォルド・バーティス卿の事でしょうか。
メルルーナ公爵家最強の騎士と名高いウォルド卿でしたら、アマーリエ・メルルーナ嬢に剣を捧げていると評判の騎士です。メルルーナ公爵令嬢に婚約破棄を言い渡された殿下の元にはどうあっても戻ってこないかと思われますが」
「う、嘘、嘘だ」
ねむれないのですか、でんか。でしたら、うぉるどをかしてあげますね。うぉるどはつよいから、かならずでんかを、まもってくれます。だいじょうぶ。あんしんして、ねむってください。
稚い幼女の、労りに満ちた声が思い出される。
「嘘だ。うわぁーーーーーー!!!!!」
イソベルは頭を押さえて声を上げた。
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