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「メルルーナ公爵」
騎士団に寄った帰り、メルルーナ公爵は王妃に呼び止められた。
王宮といってもこの辺りは端の方だ。王族の、ましてや王妃がいるような場所ではない。
態度にも表情にも出さなかったが、メルルーナ公爵は、なにしてんだ、こいつ、と思った。
そもそもが王妃が側妃に対抗して王宮を掌握していれば、アマーリエの婚約などあり得なかったのだ。公爵の中で王妃の評価はかなり低いものだった。
それにしても横紙破りが激しいな。
本来であれば、王妃が公爵に用があったとしても、侍女をつかわして案内させるなどの手順を踏むべきところだ。だが、侍女ではいまの公爵を止めることは出来ないだろうと察し、本人がお出ましになったのだろう。
それだけの熱意があるのは分かったが、用件は察せられたので不快感が増す。
「話があります」
「こちらにはありませんが、まあいいでしょう」
ぞんざいな公爵の態度に、王妃は悔しそうに唇を噛む。
志尊の存在なのだ。本来であれば。しかし十数年に及ぶ不義理の結果、公爵の中で王妃の価値は大暴落していた。不要とまでは言わないが、どうでもいい。今回のように余計なことをすればイラっとくるが、引導を渡すにはちょうどいいだろう。
王妃の合図で控えていた侍女が先に立ち、近くの部屋へと案内される。
部屋の中では侍女たちがお茶の用意を整えていた。
イソベルの不幸の一因は、力の弱い王妃の第一王子として生まれたことだ。
そして王妃の不幸の一因は、実家が力を落としたことだろう。
いまでは力の弱い王妃と言われているが、元から力の弱い王妃であったわけではない。
いまの王が王太子だった時代、婚約者に選ばれたのは王派閥の力のある重臣の娘だったからだ。
当時の王妃の実家、テレンス伯爵家は裕福だった。豊かな領地を持つ建国から続く名家であり、王派閥の筆頭ではないもののそれに続く家門として派閥内でも王宮でも存在感を露わにしていた。
事実、娘が王太子の婚約者となった後、テレンス伯爵家は王太子派閥の筆頭を務め、王太子を王へと導いた。
王妃も儚げな美貌を王に愛され、結婚してすぐに男児を授かった。
王の嫡子、王国の後継者の誕生に王国中が沸き、王と王妃を讃えた。
この時期が、王妃の幸福の絶頂期であった。
その二年後、王国を未曽有の凶作が襲う。
不幸の始まりであった。
豊かな穀倉地帯を領地に持つテレンス伯爵家は大打撃を受け、収入を農地に頼る旧来依然とした王派閥の面々も窮地に陥った。
一方で貿易など農地に頼らない収入の多い貴族派閥は勢いを増した。
派閥の力が弱まれば王の力も弱まる。そんな時、王に力を貸したのが、貴族派筆頭オルコット侯爵家だった。
侯爵には凛とした美貌を持つ娘がおり、当然のように側妃となった。
このタイミングで側妃となったオルコット侯爵令嬢に最初は危機感を抱いていたテレンス伯爵と王妃だったが、輿入れ当初、側妃は王にも王妃にも従順な態度を見せていた。
潮目が変わったのは、一年後、側妃が第二王子を生んでから。
当時の王宮はオルコット侯爵家に頼りきりだった。当然のように、側妃は王宮の奥向きを掌握していた。
まず王妃が毒で倒れた。そして王妃を見舞ったテレンス伯爵が馬車事故で帰らぬ人となった。
そして王妃が一命をとりとめ、なんとか身体を起こせるようになった頃、側妃の第一王子に対する暗殺が始まった。
王妃は恐れおののき、王妃と側妃の格付けが決まった。
オルコット侯爵家が上手だったのか、平和ボケしたテレンス伯爵家が弱かったのか。
公爵は後者だと思っている。
騎士団に寄った帰り、メルルーナ公爵は王妃に呼び止められた。
王宮といってもこの辺りは端の方だ。王族の、ましてや王妃がいるような場所ではない。
態度にも表情にも出さなかったが、メルルーナ公爵は、なにしてんだ、こいつ、と思った。
そもそもが王妃が側妃に対抗して王宮を掌握していれば、アマーリエの婚約などあり得なかったのだ。公爵の中で王妃の評価はかなり低いものだった。
それにしても横紙破りが激しいな。
本来であれば、王妃が公爵に用があったとしても、侍女をつかわして案内させるなどの手順を踏むべきところだ。だが、侍女ではいまの公爵を止めることは出来ないだろうと察し、本人がお出ましになったのだろう。
それだけの熱意があるのは分かったが、用件は察せられたので不快感が増す。
「話があります」
「こちらにはありませんが、まあいいでしょう」
ぞんざいな公爵の態度に、王妃は悔しそうに唇を噛む。
志尊の存在なのだ。本来であれば。しかし十数年に及ぶ不義理の結果、公爵の中で王妃の価値は大暴落していた。不要とまでは言わないが、どうでもいい。今回のように余計なことをすればイラっとくるが、引導を渡すにはちょうどいいだろう。
王妃の合図で控えていた侍女が先に立ち、近くの部屋へと案内される。
部屋の中では侍女たちがお茶の用意を整えていた。
イソベルの不幸の一因は、力の弱い王妃の第一王子として生まれたことだ。
そして王妃の不幸の一因は、実家が力を落としたことだろう。
いまでは力の弱い王妃と言われているが、元から力の弱い王妃であったわけではない。
いまの王が王太子だった時代、婚約者に選ばれたのは王派閥の力のある重臣の娘だったからだ。
当時の王妃の実家、テレンス伯爵家は裕福だった。豊かな領地を持つ建国から続く名家であり、王派閥の筆頭ではないもののそれに続く家門として派閥内でも王宮でも存在感を露わにしていた。
事実、娘が王太子の婚約者となった後、テレンス伯爵家は王太子派閥の筆頭を務め、王太子を王へと導いた。
王妃も儚げな美貌を王に愛され、結婚してすぐに男児を授かった。
王の嫡子、王国の後継者の誕生に王国中が沸き、王と王妃を讃えた。
この時期が、王妃の幸福の絶頂期であった。
その二年後、王国を未曽有の凶作が襲う。
不幸の始まりであった。
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まず王妃が毒で倒れた。そして王妃を見舞ったテレンス伯爵が馬車事故で帰らぬ人となった。
そして王妃が一命をとりとめ、なんとか身体を起こせるようになった頃、側妃の第一王子に対する暗殺が始まった。
王妃は恐れおののき、王妃と側妃の格付けが決まった。
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公爵は後者だと思っている。
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