白紙にする約束だった婚約を破棄されました

あお

文字の大きさ
21 / 35

21

「イソベル様!」
「ユリアナ!」

 部屋に入ってまず二人は抱き合った。

 昨日会ったばかりだが、もう何カ月も会っていなかった恋人同士のようだ。

 ユリアナの方は、昨日の首尾が気になるようで上目遣いでイソベルに疑問を投げかけている。

「イソベル様。婚約はどうなりましたか」

 ユリアナが聞いているのは、ユリアナとイソベルの婚約の事だ。

 卒業パーティの前、アマーリエと婚約破棄を決めたイソベルは、ユリアナに婚約しようと告げた。ユリアナはもちろん了承した。

 本来ならアマーリエを捕らえた後、二人の婚約を発表する流れになるはずだったが、アマーリエの退場後すぐに王宮の近衛兵がやってきてイソベルを王宮に連れ帰ったため発表出来なかったのだ。

 同じ馬車に乗ったユリアナは王宮前で放り出された。

「あぁ、アマーリエとの婚約破棄は成立した」

 本当は破棄ではなく白紙だが、謹慎をくらっていたイソベルはそこまでは知らない。

 王はイソベルの暴挙を受けて各方面への調整が忙しく、学園から引き揚げさせた時に怒りはしたが、その後詳しい説明をしていなかった。

「まあ、おめでとうございます」

 ユリアナはパぁっとはじけるような笑みを浮かべイソベルの両手を握った。

「うん、まぁそうだな」

 あまりおめでたくはないのだが、今の状況は人には言いにくい。

 だが、ユリアナなら受け止めてくれるだろうか。

 学園で、優秀なアマーリエを前に委縮してしまうイソベルの気持ちを受け止めてくれたユリアナなら。

 もちろん、イソベルはアマーリエの優秀さを妬んではいたが委縮などせずやりたい放題甘え放題だったが、イソベルにそんな現実を告げる者はいなかった。

 学園にいる『殿下』という存在はややこしいのだ。

 友として接してほしいと言われても、イソベルの性格上不敬があったらただではすまない。それが分かっていて『友』として接することなど誰もできなかった。

 それをイソベルもどこかで感じていたのだろう。

 そんな中、『友』として接してくれたユリアナとの関係はあっという間に深まった。

 婚約者からの忠告も、女生徒からの虐めもなかったが、二人は順調に愛を育んだ。

 その過程でアマーリエに虐められた事にしたのはご愛敬、恋のスパイスだ。

 結果としてユリアナはイソベルの愛を勝ち取り、アマーリエは婚約を破棄された。

 アマーリエとしては婚約がなくなるなら破棄も上等、ユリアナの存在など歯牙にもかけていなかっただけだが。

「実は、困った事が起きている」

 決死の思いでイソベルが胸の内を打ち明けると、ユリアナは顔を翳らせた。

「やっぱり、アマーリエ様がなにか、言ってきたのですか?」

 ユリアナにとって障害というのはアマーリエだけだったのだからついそう連想してしまうのも仕方ない。

「いや、アマーリエは関係ない」

 イソベルにとって、アマーリエは便利に使える女であったが、いまとなっては恐ろしくて関わり合いになりたくない女である。大人しい顔をして騙しやがって、くそぉ、とも思っている。

 アマーリエは騙してなんかいないが、きちんとアマーリエを見ていなかったイソベルは表面上の淑女っぽさだけをアマーリエの全てだと思い込んでいたため、騙されたと信じ込んだ。

「王室の問題だが。私は、命を狙われているんだ」

 恋愛小説を読んでいたら急にミステリー展開になって戸惑った、ような気持ちになったユリアナはすん、とした顔になったが、慌てて取り繕い笑顔を浮かべる。

「やだぁ。イソベルさまったら冗談が上手、」

 ひゅんっ、と音を立てて大きく開いた窓から矢が飛び込んできてユリアナの髪をかすり壁に突き刺さった。

「え?」

 理解が出来ない。

「え?」

 もう一度つぶやき、ユリアナは呆然と壁に刺さった矢を見つめた。





感想 57

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

素顔を知らない

基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。 聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。 ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。 王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。 王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。 国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

【完結】全てを後悔しても、もう遅いですのよ。

アノマロカリス
恋愛
私の名前はレイラ・カストゥール侯爵令嬢で16歳。 この国である、レントグレマール王国の聖女を務めております。 生まれつき膨大な魔力を持って生まれた私は、侯爵家では異端の存在として扱われて来ました。 そんな私は少しでも両親の役に立って振り向いて欲しかったのですが… 両親は私に関心が無く、翌年に生まれたライラに全ての関心が行き…私はいない者として扱われました。 そして時が過ぎて… 私は聖女として王国で役に立っている頃、両親から見放された私ですが… レントグレマール王国の第一王子のカリオス王子との婚姻が決まりました。 これで少しは両親も…と考えておりましたが、両親の取った行動は…私の代わりに溺愛する妹を王子と婚姻させる為に動き、私に捏造した濡れ衣を着せて婚約破棄をさせました。 私は…別にカリオス王子との婚姻を望んでいた訳ではありませんので別に怒ってはいないのですが、怒っているのは捏造された内容でした。 私が6歳の時のレントグレマール王国は、色々と厄災が付き纏っていたので快適な暮らしをさせる為に結界を張ったのですが… そんな物は存在しないと言われました。 そうですか…それが答えなんですね? なら、後悔なさって下さいね。

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。 格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。 正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。 だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。 「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。