22 / 35
22
しおりを挟む
「ど、いう、事ですか」
震える声でユリアナは尋ねた。眼は壁に突き刺さった矢から離せない。
「だから、私は命を狙われているんだ」
「アマーリエ様に?」
ユリアナからすると、イソベルの関係者はアマーリエしかいない。
「違う」
すぐの否定も、アマーリエを庇っているようで気持ち悪かった。
「でも、前はこんなこと」
なぜイソベルはアマーリエを庇うのだろう。ユリアナは悲しくなって瞳に涙がにじんだ。あれだけ眼に張り付いていた矢から視線を逸らす事が出来た。
うるうるとした瞳でイソベルを見上げる。イソベルが本当の事を言ってくれるように、と。
「いままで無事だったのは、メルルーナ公爵家の庇護があったからだ」
そうしてイソベルは子どもの頃から命を狙われていること。それを案じた父がメルルーナ公爵家に庇護を願い、いままではメルルーナ公爵家に守られていたこと。
アマーリエとの婚約がなくなった事で、メルルーナ公爵家の庇護が外れたことを説明した。
「うそ、じゃ、ほんとうに」
どれもこれも初めて聞くことばかりで、ユリアナの心はいっぱいいっぱいになった。
「ああ。私は側妃に命を狙われている。王宮では、誰もが知っていることだ」
一方イソベルは、はっきりと言葉にすることで、胸の閊えがが取れた。やっと前に進むことが出来るような気さえする。
こんな気持ちにさせてくれたユリアナに感謝の気持ちを込めてほほ笑みかけると、ユリアナは壊れた人形のような奇妙な顔をしていた。
そんなこと聞かされて、わたし、大丈夫なの?
まだなんの約束もない状態で、王宮での秘密を聞かされ、大丈夫なのだろうかとユリアナは疑った。
だがすぐに思い直す。イソベルは王子だ。きっと彼が守ってくれる、と。
誰よりもイソベルこそが守ってもらいたがっていることに、当然ながらユリアナは気づかなかった。
「大丈夫、なんですか?」
勿論大丈夫ではない。さっきまでそれでイソベルは項垂れていたのだ。
だが好きな女に『大丈夫か』と聞かれたら見栄を張ってしまいたいのがイソベルという男だ。
「勿論大丈夫だ。メルルーナ公爵家には敵わなくともテレンス伯爵家から護衛が派遣されている」
さりげなく部下の就業意欲を削ぐのがイソベルという男だ。
いまは軽くトラウマになっているためかイソベルは名前を出さないが、ウォルド・バーディス卿といえば、二年前、王都で行われた剣技大会の御前試合で優勝した男だ。
そんな男と比べられてもな、というのが今は部屋の隅に控えているごつい騎士ことブレンドン・オースティンの心境である。あの大会でブレンドンはベスト8だった。
お茶でも飲もう、とイソベルはユリアナをテーブルに誘った。
食事には毒が盛られていたが、さっき糸目の侍従が淹れたお茶は問題なかった。
イソベルに合わせ、侍女が毒見役を二人つれてワゴンでティーセットを運んでくる。
侍女ではない、侍従でもない普段見慣れない毒見役を見てユリアナは不思議そうな顔をした。
王宮のイソベルの部屋でお茶をするのは初めてではないが、いつも手際よく魔法のようにお茶の用意が整っていたのに、今日はどうしたのだろう。
いつもはメルルーナ公爵家の侍女が魔法のような手際でお茶の席を整えていたが、いまイソベルの側に仕えるのはテレンス伯爵家の侍女だ。その違いがユリアナには分からない。
侍女が淹れたお茶に手を伸ばそうとしたユリアナをイソベルが止めた。
毒見役が紅茶からひと匙掬い、毒見をする。
イソベルからすればたった一日で見慣れた光景だ。
毒見役が血を吐いて倒れた。
「きゃーーーーーーっ」
イソベルからすれば見慣れた光景だが、ユリアナは人が血を吐いて倒れるのを初めて見た。
「え? え? どういうことですか!?」
だから言っただろう、とイソベルは儚い笑みを浮かべた。
「私は命を狙われている」
「む、ムリ!」
ユリアナは叫んだ。
「私、無理です!!!!」
ごまかしていたが、さっき矢が飛んできた時点でユリアナはいっぱいいっぱいだった。
第一王子を略奪した泥棒猫だろうとユリアナは貴族のご令嬢だ。いや実は男爵の不貞の結果出来た庶子で学園に入る二年前までは庶民として暮らしていたのだが、暴力や流血沙汰とは無縁に暮らしてきた。
第一王子の貰い事故で死ぬのはご免だった。
「ごめんなさい、イソベル様! 私、帰ります!!」
ユリアナは止めようとしたイソベルの手を振り切ると、一目散に王宮を後にした。
「ユリアナ・・・」
ユリアナに伸ばしたイソベルの手は届かない。
「俺を愛してくれる人は誰もいないのか」
一人残されたイソベルはがっくりと項垂れた。
震える声でユリアナは尋ねた。眼は壁に突き刺さった矢から離せない。
「だから、私は命を狙われているんだ」
「アマーリエ様に?」
ユリアナからすると、イソベルの関係者はアマーリエしかいない。
「違う」
すぐの否定も、アマーリエを庇っているようで気持ち悪かった。
「でも、前はこんなこと」
なぜイソベルはアマーリエを庇うのだろう。ユリアナは悲しくなって瞳に涙がにじんだ。あれだけ眼に張り付いていた矢から視線を逸らす事が出来た。
うるうるとした瞳でイソベルを見上げる。イソベルが本当の事を言ってくれるように、と。
「いままで無事だったのは、メルルーナ公爵家の庇護があったからだ」
そうしてイソベルは子どもの頃から命を狙われていること。それを案じた父がメルルーナ公爵家に庇護を願い、いままではメルルーナ公爵家に守られていたこと。
アマーリエとの婚約がなくなった事で、メルルーナ公爵家の庇護が外れたことを説明した。
「うそ、じゃ、ほんとうに」
どれもこれも初めて聞くことばかりで、ユリアナの心はいっぱいいっぱいになった。
「ああ。私は側妃に命を狙われている。王宮では、誰もが知っていることだ」
一方イソベルは、はっきりと言葉にすることで、胸の閊えがが取れた。やっと前に進むことが出来るような気さえする。
こんな気持ちにさせてくれたユリアナに感謝の気持ちを込めてほほ笑みかけると、ユリアナは壊れた人形のような奇妙な顔をしていた。
そんなこと聞かされて、わたし、大丈夫なの?
まだなんの約束もない状態で、王宮での秘密を聞かされ、大丈夫なのだろうかとユリアナは疑った。
だがすぐに思い直す。イソベルは王子だ。きっと彼が守ってくれる、と。
誰よりもイソベルこそが守ってもらいたがっていることに、当然ながらユリアナは気づかなかった。
「大丈夫、なんですか?」
勿論大丈夫ではない。さっきまでそれでイソベルは項垂れていたのだ。
だが好きな女に『大丈夫か』と聞かれたら見栄を張ってしまいたいのがイソベルという男だ。
「勿論大丈夫だ。メルルーナ公爵家には敵わなくともテレンス伯爵家から護衛が派遣されている」
さりげなく部下の就業意欲を削ぐのがイソベルという男だ。
いまは軽くトラウマになっているためかイソベルは名前を出さないが、ウォルド・バーディス卿といえば、二年前、王都で行われた剣技大会の御前試合で優勝した男だ。
そんな男と比べられてもな、というのが今は部屋の隅に控えているごつい騎士ことブレンドン・オースティンの心境である。あの大会でブレンドンはベスト8だった。
お茶でも飲もう、とイソベルはユリアナをテーブルに誘った。
食事には毒が盛られていたが、さっき糸目の侍従が淹れたお茶は問題なかった。
イソベルに合わせ、侍女が毒見役を二人つれてワゴンでティーセットを運んでくる。
侍女ではない、侍従でもない普段見慣れない毒見役を見てユリアナは不思議そうな顔をした。
王宮のイソベルの部屋でお茶をするのは初めてではないが、いつも手際よく魔法のようにお茶の用意が整っていたのに、今日はどうしたのだろう。
いつもはメルルーナ公爵家の侍女が魔法のような手際でお茶の席を整えていたが、いまイソベルの側に仕えるのはテレンス伯爵家の侍女だ。その違いがユリアナには分からない。
侍女が淹れたお茶に手を伸ばそうとしたユリアナをイソベルが止めた。
毒見役が紅茶からひと匙掬い、毒見をする。
イソベルからすればたった一日で見慣れた光景だ。
毒見役が血を吐いて倒れた。
「きゃーーーーーーっ」
イソベルからすれば見慣れた光景だが、ユリアナは人が血を吐いて倒れるのを初めて見た。
「え? え? どういうことですか!?」
だから言っただろう、とイソベルは儚い笑みを浮かべた。
「私は命を狙われている」
「む、ムリ!」
ユリアナは叫んだ。
「私、無理です!!!!」
ごまかしていたが、さっき矢が飛んできた時点でユリアナはいっぱいいっぱいだった。
第一王子を略奪した泥棒猫だろうとユリアナは貴族のご令嬢だ。いや実は男爵の不貞の結果出来た庶子で学園に入る二年前までは庶民として暮らしていたのだが、暴力や流血沙汰とは無縁に暮らしてきた。
第一王子の貰い事故で死ぬのはご免だった。
「ごめんなさい、イソベル様! 私、帰ります!!」
ユリアナは止めようとしたイソベルの手を振り切ると、一目散に王宮を後にした。
「ユリアナ・・・」
ユリアナに伸ばしたイソベルの手は届かない。
「俺を愛してくれる人は誰もいないのか」
一人残されたイソベルはがっくりと項垂れた。
1,907
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
〖完結〗醜いと虐げられて来た令嬢~本当は美しかった~
藍川みいな
恋愛
「お前は醜い。」ずっとそう言われてきたメリッサは、ずっと部屋に閉じこもっていた。
幼い頃から母や妹に、醜いと言われ続け、父テイラー侯爵はメリッサを見ようともしなかった。
心の支えは毎日食事を運んでくれるティナだけだったが、サマーの命令で優しいふりをしていただけだった。
何もかも信じられなくなったメリッサは邸を出る。邸を出たメリッサを助けてくれたのは…
設定はゆるゆるです。
本編8話+番外編2話で完結です。
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】
繭
恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。
果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?
馬鹿王子は落ちぶれました。 〜婚約破棄した公爵令嬢は有能すぎた〜
mimiaizu
恋愛
マグーマ・ティレックス――かつて第一王子にして王太子マグーマ・ツインローズと呼ばれた男は、己の人生に絶望した。王族に生まれ、いずれは国王になるはずだったのに、男爵にまで成り下がったのだ。彼は思う。
「俺はどこで間違えた?」
これは悪役令嬢やヒロインがメインの物語ではない。ざまぁされる男がメインの物語である。
※『【短編】婚約破棄してきた王太子が行方不明!? ~いいえ。王太子が婚約破棄されました~』『王太子殿下は豹変しました!? 〜第二王子殿下の心は過労で病んでいます〜』の敵側の王子の物語です。これらを見てくだされば分かりやすいです。
婚約破棄されました。
まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。
本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。
ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。
習作なので短めの話となります。
恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。
ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。
Copyright©︎2020-まるねこ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる