白紙にする約束だった婚約を破棄されました

あお

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「イソベルの後ろ盾に、戻っていただけませんか」

 茶の席に着き、紅茶に手を伸ばすことなく王妃が本題に入った。それだけ切羽詰まっているのだろう。

 第一王子の周りで再び人が死に始めたという話は公爵も聞いている。

 当たり前だ。この十数年間ずっと側妃の殺意は仕事をし続けていたのだから。メルルーナ公爵家という盾がなくなればこうなるのは分かり切っていた。

「断る」

 そのことに同情はしない。そもそも、これは王位継承争い。王室の問題だ。中立派であるメルルーナ公爵家には関係がない。

「なぜ、我が家の好意にあぐらをかき、恩を仇で返すような真似をした王子の後ろ盾に戻ると思われるのかが疑問ですな」

「それは…申し訳ない事だと思っています。わたくしから謝罪いたします。息子にもよく言って聞かせますので」

 まるで市井にいる普通の母親のような言い訳だ。彼女も王妃教育を受けているが、側妃の存在に心を折られてからすっかりなりを潜めている。

「いままでは言ってこなかったのですか」

「いえ、そんな事は」

 最後まで聞かずに言葉を切る。何度も同じような問答をしているので時間の無駄だ。
 いままではまだ成人前だから長い目で見てほしい、と懇願されたが、第一王子もすでに成人している。

「知っていてあの仕打ちだ。いまさら何を言ってもあの性格は変わらないでしょう」

 分別のなさは、変わらない。

「いえ、いえ! 息子も身にしみていると思います。今度こそは」

 言い訳している王妃が一番息子のことを分かっているのではないだろうか。そう思えるほど中身のない言い訳が続く。

 それを公爵は鼻で笑った。

「心を入れ替えると?

 いいえ、結構。我が家としては

 『二度と顔も見たくない』

 意味はお分かりですか?」

 王国の貴族が王子の顔を見ないですむ理由などそう多くはない。メルルーナ公爵は、少なくとも廃嫡しろ、と言っているのだ。

 もちろん謀殺されてもかまわない。

 むしろいまの状況を歓迎さえしているのに、盾に戻ることなどあるはずがないだろう。

 とまで考えていなかったが、王妃はそう汲み取った。

「そんな…。それでは、あの子は」

「陛下とよくお話されるのがいいでしょう。王妃殿下はご自覚がないようですが、王位継承争いは十数年前に始まっていた。ご子息の命だけを大事に思うなら、継承権を放棄すべきでしたな」

 そうでないのだから殺される覚悟があったのだろう、と公爵は嘲笑う。

 そんなつもりはなかった。だって第一王子だから、嫡子だから、王になるのは当然で。

 継承権を放棄したら、第一王子には王室での居場所がなくなってしまう。

「継承権のない王子でも、王室に貢献する道はいくらでもありました。
 貴方方の怠慢が、今日を招いたのですよ」

 もはや道はない。

 そんな事はメルルーナ公爵家が許さない。

 なにもしなくても第一王子の行く末は明るくないだろうが、仮に生き延びたとしたらメルルーナ公爵家がとどめを刺すだろう。




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