12 / 35
12
「イソベルの後ろ盾に、戻っていただけませんか」
茶の席に着き、紅茶に手を伸ばすことなく王妃が本題に入った。それだけ切羽詰まっているのだろう。
第一王子の周りで再び人が死に始めたという話は公爵も聞いている。
当たり前だ。この十数年間ずっと側妃の殺意は仕事をし続けていたのだから。メルルーナ公爵家という盾がなくなればこうなるのは分かり切っていた。
「断る」
そのことに同情はしない。そもそも、これは王位継承争い。王室の問題だ。中立派であるメルルーナ公爵家には関係がない。
「なぜ、我が家の好意にあぐらをかき、恩を仇で返すような真似をした王子の後ろ盾に戻ると思われるのかが疑問ですな」
「それは…申し訳ない事だと思っています。わたくしから謝罪いたします。息子にもよく言って聞かせますので」
まるで市井にいる普通の母親のような言い訳だ。彼女も王妃教育を受けているが、側妃の存在に心を折られてからすっかりなりを潜めている。
「いままでは言ってこなかったのですか」
「いえ、そんな事は」
最後まで聞かずに言葉を切る。何度も同じような問答をしているので時間の無駄だ。
いままではまだ成人前だから長い目で見てほしい、と懇願されたが、第一王子もすでに成人している。
「知っていてあの仕打ちだ。いまさら何を言ってもあの性格は変わらないでしょう」
分別のなさは、変わらない。
「いえ、いえ! 息子も身にしみていると思います。今度こそは」
言い訳している王妃が一番息子のことを分かっているのではないだろうか。そう思えるほど中身のない言い訳が続く。
それを公爵は鼻で笑った。
「心を入れ替えると?
いいえ、結構。我が家としては
『二度と顔も見たくない』
意味はお分かりですか?」
王国の貴族が王子の顔を見ないですむ理由などそう多くはない。メルルーナ公爵は、少なくとも廃嫡しろ、と言っているのだ。
もちろん謀殺されてもかまわない。
むしろいまの状況を歓迎さえしているのに、盾に戻ることなどあるはずがないだろう。
とまで考えていなかったが、王妃はそう汲み取った。
「そんな…。それでは、あの子は」
「陛下とよくお話されるのがいいでしょう。王妃殿下はご自覚がないようですが、王位継承争いは十数年前に始まっていた。ご子息の命だけを大事に思うなら、継承権を放棄すべきでしたな」
そうでないのだから殺される覚悟があったのだろう、と公爵は嘲笑う。
そんなつもりはなかった。だって第一王子だから、嫡子だから、王になるのは当然で。
継承権を放棄したら、第一王子には王室での居場所がなくなってしまう。
「継承権のない王子でも、王室に貢献する道はいくらでもありました。
貴方方の怠慢が、今日を招いたのですよ」
もはや道はない。
そんな事はメルルーナ公爵家が許さない。
なにもしなくても第一王子の行く末は明るくないだろうが、仮に生き延びたとしたらメルルーナ公爵家がとどめを刺すだろう。
茶の席に着き、紅茶に手を伸ばすことなく王妃が本題に入った。それだけ切羽詰まっているのだろう。
第一王子の周りで再び人が死に始めたという話は公爵も聞いている。
当たり前だ。この十数年間ずっと側妃の殺意は仕事をし続けていたのだから。メルルーナ公爵家という盾がなくなればこうなるのは分かり切っていた。
「断る」
そのことに同情はしない。そもそも、これは王位継承争い。王室の問題だ。中立派であるメルルーナ公爵家には関係がない。
「なぜ、我が家の好意にあぐらをかき、恩を仇で返すような真似をした王子の後ろ盾に戻ると思われるのかが疑問ですな」
「それは…申し訳ない事だと思っています。わたくしから謝罪いたします。息子にもよく言って聞かせますので」
まるで市井にいる普通の母親のような言い訳だ。彼女も王妃教育を受けているが、側妃の存在に心を折られてからすっかりなりを潜めている。
「いままでは言ってこなかったのですか」
「いえ、そんな事は」
最後まで聞かずに言葉を切る。何度も同じような問答をしているので時間の無駄だ。
いままではまだ成人前だから長い目で見てほしい、と懇願されたが、第一王子もすでに成人している。
「知っていてあの仕打ちだ。いまさら何を言ってもあの性格は変わらないでしょう」
分別のなさは、変わらない。
「いえ、いえ! 息子も身にしみていると思います。今度こそは」
言い訳している王妃が一番息子のことを分かっているのではないだろうか。そう思えるほど中身のない言い訳が続く。
それを公爵は鼻で笑った。
「心を入れ替えると?
いいえ、結構。我が家としては
『二度と顔も見たくない』
意味はお分かりですか?」
王国の貴族が王子の顔を見ないですむ理由などそう多くはない。メルルーナ公爵は、少なくとも廃嫡しろ、と言っているのだ。
もちろん謀殺されてもかまわない。
むしろいまの状況を歓迎さえしているのに、盾に戻ることなどあるはずがないだろう。
とまで考えていなかったが、王妃はそう汲み取った。
「そんな…。それでは、あの子は」
「陛下とよくお話されるのがいいでしょう。王妃殿下はご自覚がないようですが、王位継承争いは十数年前に始まっていた。ご子息の命だけを大事に思うなら、継承権を放棄すべきでしたな」
そうでないのだから殺される覚悟があったのだろう、と公爵は嘲笑う。
そんなつもりはなかった。だって第一王子だから、嫡子だから、王になるのは当然で。
継承権を放棄したら、第一王子には王室での居場所がなくなってしまう。
「継承権のない王子でも、王室に貢献する道はいくらでもありました。
貴方方の怠慢が、今日を招いたのですよ」
もはや道はない。
そんな事はメルルーナ公爵家が許さない。
なにもしなくても第一王子の行く末は明るくないだろうが、仮に生き延びたとしたらメルルーナ公爵家がとどめを刺すだろう。
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。
藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。
どうして、こんなことになってしまったんだろう……。
私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。
そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した……
はずだった。
目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全11話で完結になります。
〖完結〗役立たずの聖女なので、あなた達を救うつもりはありません。
藍川みいな
恋愛
ある日私は、銀貨一枚でスコフィールド伯爵に買われた。母は私を、喜んで売り飛ばした。
伯爵は私を養子にし、仕えている公爵のご子息の治療をするように命じた。私には不思議な力があり、それは聖女の力だった。
セイバン公爵家のご子息であるオルガ様は、魔物に負わされた傷がもとでずっと寝たきり。
そんなオルガ様の傷の治療をしたことで、セイバン公爵に息子と結婚して欲しいと言われ、私は婚約者となったのだが……オルガ様は、他の令嬢に心を奪われ、婚約破棄をされてしまった。彼の傷は、完治していないのに……
婚約破棄をされた私は、役立たずだと言われ、スコフィールド伯爵に邸を追い出される。
そんな私を、必要だと言ってくれる方に出会い、聖女の力がどんどん強くなって行く。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
【完結】全てを後悔しても、もう遅いですのよ。
アノマロカリス
恋愛
私の名前はレイラ・カストゥール侯爵令嬢で16歳。
この国である、レントグレマール王国の聖女を務めております。
生まれつき膨大な魔力を持って生まれた私は、侯爵家では異端の存在として扱われて来ました。
そんな私は少しでも両親の役に立って振り向いて欲しかったのですが…
両親は私に関心が無く、翌年に生まれたライラに全ての関心が行き…私はいない者として扱われました。
そして時が過ぎて…
私は聖女として王国で役に立っている頃、両親から見放された私ですが…
レントグレマール王国の第一王子のカリオス王子との婚姻が決まりました。
これで少しは両親も…と考えておりましたが、両親の取った行動は…私の代わりに溺愛する妹を王子と婚姻させる為に動き、私に捏造した濡れ衣を着せて婚約破棄をさせました。
私は…別にカリオス王子との婚姻を望んでいた訳ではありませんので別に怒ってはいないのですが、怒っているのは捏造された内容でした。
私が6歳の時のレントグレマール王国は、色々と厄災が付き纏っていたので快適な暮らしをさせる為に結界を張ったのですが…
そんな物は存在しないと言われました。
そうですか…それが答えなんですね?
なら、後悔なさって下さいね。
婚約破棄は嘘だった、ですか…?
基本二度寝
恋愛
「君とは婚約破棄をする!」
婚約者ははっきり宣言しました。
「…かしこまりました」
爵位の高い相手から望まれた婚約で、此方には拒否することはできませんでした。
そして、婚約の破棄も拒否はできませんでした。
※エイプリルフール過ぎてあげるヤツ
※少しだけ続けました
〖完結〗旦那様には本命がいるようですので、復讐してからお別れします。
藍川みいな
恋愛
憧れのセイバン・スコフィールド侯爵に嫁いだ伯爵令嬢のレイチェルは、良い妻になろうと努力していた。
だがセイバンには結婚前から付き合っていた女性がいて、レイチェルとの結婚はお金の為だった。
レイチェルには指一本触れることもなく、愛人の家に入り浸るセイバンと離縁を決意したレイチェルだったが、愛人からお金が必要だから離縁はしないでと言われる。
レイチェルは身勝手な愛人とセイバンに、反撃を開始するのだった。
設定はゆるゆるです。
本編10話で完結になります。
眠りから目覚めた王太子は
基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」
ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。
「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」
王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。
しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。
「…?揃いも揃ってどうしたのですか」
王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。
永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。