理不尽な婚約破棄をされましたが、おかげで素敵な人と『女狐狩り』をすることになりました。

あお

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「フェンス様も騎士を目指しておられるのですか?」

「こいつは錬金術師。こう見えて、天才って言われてるんだよ」

 エミール様に紹介されて、フェンス様が恭しく頭を下げた。

「将来、店を開いたら来てくれよな」

「まぁ! すごい」

 ミリアが両手を合わせて興奮する。

 彼女は錬金術師が作る魔道具に目がなかった。

「どういった物を作られるのですか」

「基本はポーション類な。魔道具なんかはオーダーメイドの予定だ」

 ミリアが目を輝かせて質問すると、フェンス様もまんざらでもなさそうに、いままで作った事のある魔道具を指折り数えて教えてくれた。

 その中には『保冷庫』と呼ばれる、料理に革命をもたらした魔道具の名前もあった。

「『保冷庫』はダレンズロード商会の専売だと思っていましたが」

「うん、そう。俺の商会だから」

「「「えええええ!?」」」

 ダレンズロード商会といえば、魔道具で一財産築き、いまやこの国どころか他国でも知らない者などいない大商会だ。

 びっくりして女三人ではしたなくも声をあげてしまった。

「おいおい。フェンスはダレンズロード商会を継ぐつもりなのか」

「あー、間違った。あれは叔父の商会。ガキが魔道具を発表しても食い物にされるだけだから、叔父が俺の魔道具を売るためにダレンズロード商会を作ってくれたんだよ」

「学園を卒業して成人したら、会頭にならないかって誘われてるんだろ」

「無理無理。あんなでかい商会を経営するより、こぢんまりした店を開きたいんだよ」

「国はお前の才能を放っておかないだろ」

「まあな。だから大量発注品は叔父貴に任せて、俺はのんびりやりたいわけ」

 ダレンズロード商会の立役者である錬金術師なら、国から爵位を与えられてもおかしくない。いや。むしろ与えられない方がおかしいだろう。

 でもフェンス様はそういった名誉より、自由に魔道具を開発する方が好きみたい。

 オーバンド伯爵家が、この先もフェンス様を守っていくのかしら。

「お店を開いたら教えてください。必ず行きますわ」

 ミリアの目が輝いていた。

「ダレンズロード商会でも俺の魔道具は買えるけど」

「そちらは親にお任せしますわ。私は、その。魔道具を見るのが好きで。あまりいいお客にはなれないかもしれませんが」

「ふーん。なら、今度、俺の工房に来る?」

「よろしいのですか!?」

 淑女の仮面を脱ぎ捨てて、ミリアは身を乗り出した。

 フェンス様はその様子を満足そうに笑う。

「あんたならいいよ」

「ありがとうございます」

 夢見る乙女のように頬を染めたミリアと、彼女をにやにやと眺めるフェンス様。

 これは、もしかして。

 エマを見ると、エマも、エミール様、ランス様も声を潜めて苦笑していた。

 ランス様がさりげなく席を変わると、二人は魔道具について熱く語り出したので二人の事はそっとしておいて、私達は侍女に合図してお茶を淹れなおした。





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