婚約者に子どもが出来ました。その子は後継者にはなりません。

あお

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「やったわ! これでやっとあの屑とサヨナラできるわ!!」

 執務室を後にしたエリーゼは自室に戻った。

 自室に控えていたメイド達の手によってドレスは脱がされ、風呂で洗われ、いまは楽な部屋着に着替えている。

「祝杯をあげるわよ! ガジェも飲みなさいよ」

 護衛であるガジェと祝杯を上げるために、メイド達は下がらせた。

「護衛に酒をすすめるか?」

「ワクなんだからいいでしょ!」

 自らの手でワインを開けたエリーゼは、さっさと二つのグラスにワインを注いでしまう。

「仕方ないな」

 ガジェも酒は好きなので、この無礼講に付き合うことにした。

「屑と縁が切れたことに、乾杯!」

「お嬢の新しい門出に乾杯」

 二つのグラスが重なり甲高い音を立てる。

「あら、まだ新しい門出とは限らないわよ」

 エリーゼは上品なしぐさでワインを傾けている。こういう時にも育ちの良さというのは出る。

 護衛のガジェもそれは同じだ。騎士団の仲間と飲む時は、周りに合わせて崩すが、エリーゼの前でまでわざと崩す必要はない。

「あの男がまたなにか仕掛けてくるとでも?」

「お父様にとって、わたしは大切なコマだもの。順当に考えて、次にくるのは新しい縁談でしょう。お父様のひも付きの」

「それでいいのか」

 エリーゼは侯爵家の一人娘であり、次期侯爵でもある。

 本来ならその地位は安泰のはずだが、父親が悪い。

 エリーゼの父親は伯爵家の三男だった。そこはオスカーと似ている。

 オスカーと違うのは、ほどほど頭が良く、侯爵家の婿として大過なく過ごした点だろう。

 この国では血統が全てだ。どれほど優れた婿だろうと、その家の血を継がなければ家を継ぐことは出来ない。

 エリーゼの父は便宜上『侯爵』と呼ばれているが、正式名称は『侯爵代行』。エリーゼが爵位を継ぐまで便宜上そう呼ばれているだけだ。

 だが母である女侯爵の代行として『侯爵』とも呼ばれていたので、『侯爵』と呼ばれる時期は長い。

 その長さが悪心を抱かせたのか、元来そういう質だったのか、エリーゼの母である女侯爵が亡くなってから、侯爵は侯爵家の実権を握るため、あの手この手でエリーゼの邪魔をしてきた。

 オスカーを連れまわしたのもその一つだ。

 次期侯爵であるエリーゼではなく、オスカーを連れまわすことで、『侯爵』はエリーゼの手腕を不安に思っていると周囲に印象付けたのだ。

 もっとも、エリーゼは次期侯爵として幼い頃から社交界の重鎮と顔つなぎをしていたので、惑わされるのは新興貴族や下位貴族ばかりだが。

「いいわけないでしょ。でも家中で争うのも馬鹿らしいもの。次で決めるわ」

「次?」

「ええ。お父様の決める次の婚約者が、侯爵家の利益となるなら受け入れるし、不利益となるなら、すっぱり切るわ」

 エリーゼは不敵な笑みを浮かべると、グラスを高く掲げ一気飲みした。

 威勢のいいその態度に、ガジェは呆れた様子で、つきあいでグラスを掲げ、水でも飲むようにグラスを乾した。




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