知らない人に「お前とは婚約破棄をする」と言われました。私の婚約者は貴方じゃありません。

あお

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「どうしたんだ?」

 カフェテリア中が、私たちを中心にシンと静まり返っている中。

 颯爽と一人の男子生徒がやって来て、私の横に立った。

 上位貴族に多い金髪碧眼。端正な甘いマスクの持ち主だけど、キリリとした表情が頼もしさを感じさせる。

 周囲の野次馬の中にも彼を尊敬している生徒は多いのか、特に男子生徒がハッとした様子を見せていた。

 噂好きの令嬢たちは、最前列にかぶりつきたいのを抑えて、じりじりと近寄って来ているようだ。業が深い。




 私は不愉快な男から視線を外して、待ち合わせの相手、ラインバルト侯爵家のご子息を見上げた。

 珍しく怒っている私の様子を見て、彼が眉を上げる。

「この方が、私と婚約破棄をして、こちらの女性と婚約すると言って来たのです」

 丁寧に、扇でそれぞれ男女を指し示す。

 もちろんわざとです。淑女としては、はしたないですが、いまは淑やかさより威圧。
 この無礼な男女に好き勝手にさえずられたら、公爵家の体面に傷がつきます。
 それ以上に、勝手に私の婚約者を名乗るなんて。

「とんでもない侮辱ですわ」

 右手に持った扇をぱしぱしと左手に叩きつけ怒ると、ラインバルト侯爵家子息ルイス様は目を見開き男を睨みつけた後、労わるような優しい目を私に向け、頭を撫でてくれた。

 普段なら髪型が崩れるからやめて、と抗議するところですが、心がささくれ立っている今は、癒しです。
 喉を撫でられる猫のように、目を細めそうになるところをグッと堪え、ルイスに目で訴えます。
 淑女として、私を紹介して、と。

 ルイスも心得ていて目で合図を返し、手を差し出して私を椅子から立ち上がらせると、流れるようにエスコートして私の腰に腕を回します。
 無礼な二人に対面し、ルイスははっきりと私を紹介してくれました。

「私はルイス・ラインバルト。侯爵家の人間だ。そしてこちらは私の婚約者である、エリス・アウリーデ公爵令嬢」

 私の名前を呼ぶ時だけルイスの声が甘やかになり、そっと私を見つめてくれます。
 皆が見ている前でそんな甘い顔をされては恥ずかしいです。意図せず頬が染まりました。

 ルイスに婚約者だと紹介してもらえるだけでも、淑女として凛と立ちたいと背筋が伸びるのに、彼はさらに私を嬉しがらせてくれます。

「彼女への侮辱は私が許さない」

 ルイスが厳しい顔で、無礼な男を睨みつけた。

「君は下級生のようだね。名前を名乗りたまえ」

 優秀なルイスが下級生と言っても学園の生徒の顔を知らないわけがない。この場面で、相手に名乗らせるのが肝要なのだ。

 無礼な男は、侯爵子息の登場と、彼の雰囲気に飲まれて完全に腰が引けていた。





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