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春、三の月
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「――というわけで、快く引き受けてもらえました。ダイア・ケージンさんです」
「よろしくお願いします!」
心当たりに声をかけてみると言った翌日の放課後。ラスティの隣で溌溂とした笑顔を見せているのは見覚えのある少女だった。
「あなた、確か……以前剣武の授業で」
「わぁ! 覚えていてくださったんですか!」
丸い目をさらにまん丸くしてぴょんと飛び跳ねる。
「ええ。名前は存じませんでしたけれど、剣武の授業に女性はとても少ないもの。よく印象に残っていますわ」
私が二学年の時、同じ授業を受講していた下級生だ。剣武の授業に参加する数えるほどもいない女子生徒の中で、群を抜いて動きが良かったのを覚えている。学年が上がってからは姿を見なくなってしまったけれど。
「体を動かすのは好きなんですけどね。ほかの講義を取りたくて、剣武を取るのはやめちゃったんです。鍛錬なら一人でもできるし」
「彼女とは一学年の時に同じ学級だったんです」とはラスティの説明。「その後もわりと取る授業がかぶってることもあって、時々話すことがあったんですよ。それで、ダンスの経験があるって話も聞いた覚えがあって」
「あら、そうなんですの」
「いえいえ、ダンスってほど大したもんじゃないんです!」
その日、私たちはまず学院のカフェでそれぞれの自己紹介をすることにした。
聞けばダイアさん――畏まった呼ばれ方は落ち着かないと言われた――彼女は貴族ではなく、王都から遠く離れた小さな村から学院に通うためにやって来たのだという。おおよその場所を聞いたけれど、先日調査に行った村など比較にもならないほど遠い遠い村だ。
割合としては小さいけれどそういった生徒も決して珍しくはない。
魔法学院は初等部と高等部に分けられる。魔法の才能があれば初等部に入学でき、卒業後はそのまま高等部に進学することを選べる。また、初等部に通わなかった者でも入学試験に合格することで高等部から通うことができるという仕組みだ。
多くの場合、貴族や王都に暮らす人々以外、初等部に入ることは難しい。幼い子供に魔法の才があるかどうかを判断できる環境は限られるからだ。
14歳の冬、各地から豊かな才能を持った少年少女が入学試験を受けにやって来る。彼ら彼女らは多くの場合寮に入り、親元から離れて集団生活を送っている。ダイアさんもその例に漏れない。
「わたしにそんな大層な素質はないと思うんですけど。でもわたしみたいな庶民は学費も補助されるし、どうせなら都会でしか学べないことを学んで来いって送り出されて」
そう言って頭を掻く彼女は、確かに貴族の令嬢とは立ち居振る舞いから異なっている。しかしその飾らない雰囲気が私には好ましかった。
私も自分自身の話をする。とうに見知らぬ人々の間にまで知れ渡っているような話しかできないけれど、ダイアさんは興味深そうに話を聞いていた。貴族社会の情報網は彼女にまでは繋がっていないらしい。
それでも、私が魔導士たちの中では劣等生であることくらいは知っているだろうに、そんな様子はおくびも出さない。さすがラスティの紹介だ。
「わたしの故郷には年に一度祭りの時に披露する舞いがあるんです。怪物と戦う若い戦士を表した舞踏なんですけど、それを少し作り替えれば、わたしとラスティさん二人の踊りにできると思います」
こうして、私たちの音楽祭への道のりは始まったのだった。
「よろしくお願いします!」
心当たりに声をかけてみると言った翌日の放課後。ラスティの隣で溌溂とした笑顔を見せているのは見覚えのある少女だった。
「あなた、確か……以前剣武の授業で」
「わぁ! 覚えていてくださったんですか!」
丸い目をさらにまん丸くしてぴょんと飛び跳ねる。
「ええ。名前は存じませんでしたけれど、剣武の授業に女性はとても少ないもの。よく印象に残っていますわ」
私が二学年の時、同じ授業を受講していた下級生だ。剣武の授業に参加する数えるほどもいない女子生徒の中で、群を抜いて動きが良かったのを覚えている。学年が上がってからは姿を見なくなってしまったけれど。
「体を動かすのは好きなんですけどね。ほかの講義を取りたくて、剣武を取るのはやめちゃったんです。鍛錬なら一人でもできるし」
「彼女とは一学年の時に同じ学級だったんです」とはラスティの説明。「その後もわりと取る授業がかぶってることもあって、時々話すことがあったんですよ。それで、ダンスの経験があるって話も聞いた覚えがあって」
「あら、そうなんですの」
「いえいえ、ダンスってほど大したもんじゃないんです!」
その日、私たちはまず学院のカフェでそれぞれの自己紹介をすることにした。
聞けばダイアさん――畏まった呼ばれ方は落ち着かないと言われた――彼女は貴族ではなく、王都から遠く離れた小さな村から学院に通うためにやって来たのだという。おおよその場所を聞いたけれど、先日調査に行った村など比較にもならないほど遠い遠い村だ。
割合としては小さいけれどそういった生徒も決して珍しくはない。
魔法学院は初等部と高等部に分けられる。魔法の才能があれば初等部に入学でき、卒業後はそのまま高等部に進学することを選べる。また、初等部に通わなかった者でも入学試験に合格することで高等部から通うことができるという仕組みだ。
多くの場合、貴族や王都に暮らす人々以外、初等部に入ることは難しい。幼い子供に魔法の才があるかどうかを判断できる環境は限られるからだ。
14歳の冬、各地から豊かな才能を持った少年少女が入学試験を受けにやって来る。彼ら彼女らは多くの場合寮に入り、親元から離れて集団生活を送っている。ダイアさんもその例に漏れない。
「わたしにそんな大層な素質はないと思うんですけど。でもわたしみたいな庶民は学費も補助されるし、どうせなら都会でしか学べないことを学んで来いって送り出されて」
そう言って頭を掻く彼女は、確かに貴族の令嬢とは立ち居振る舞いから異なっている。しかしその飾らない雰囲気が私には好ましかった。
私も自分自身の話をする。とうに見知らぬ人々の間にまで知れ渡っているような話しかできないけれど、ダイアさんは興味深そうに話を聞いていた。貴族社会の情報網は彼女にまでは繋がっていないらしい。
それでも、私が魔導士たちの中では劣等生であることくらいは知っているだろうに、そんな様子はおくびも出さない。さすがラスティの紹介だ。
「わたしの故郷には年に一度祭りの時に披露する舞いがあるんです。怪物と戦う若い戦士を表した舞踏なんですけど、それを少し作り替えれば、わたしとラスティさん二人の踊りにできると思います」
こうして、私たちの音楽祭への道のりは始まったのだった。
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