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第4話 まなざし
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「何というか、すげえ姉ちゃんだなぁ」
出かけてくると言い残し、蛍は部屋を出て行った。民警の存在は男も知っている。しかしその中でもかなり強い方であることは見て取れた。そうでなければ流石に生首を置いて普通に出かけられないだろう。
「やることがない……」
当然だが、蛍の部屋のものには触れないようにと言われている。一応暇つぶしにはなるでしょうとテレビの電源をつけていってくれたが、チャンネルを変更することができない。男は垂れ流しになっている公共放送を眺めるしかなかった。
「民放にしてくれって言うべきだったか」
しかしそれはあまりに厚かましい。そもそも記憶もない、生首の自分を置いておいてくれるだけで感謝すべきなのだ。
テレビからは深夜に放送されている、あることに三日間くらい密着するというドキュメンタリーの再放送が流れている。トラックの運転手が集まるサービスエリアに密着して、インタビューなどが流れていく淡々とした番組だ。
そのとき、突然男の頭が痛み出した。
「うう……頭が痛ぇ……でもこれ、ドラマとかだと思い出すフラグ……」
しかし残念ながら何にも浮かばない。人生はそう上手くはいかないものである。
その人生もおそらくは終わってしまっているのだろうが。
『家族の写真です。休憩のときに眺めて頑張ろうって気持ちになって』
テレビの中のトラックドライバーが笑顔で言う。家族の写真はぼかされているがおそらく妻と小さな子供なのだろう。
「いいよなぁ、家族の写真がある奴はさぁ」
そう呟いた自分に自分で驚く。そもそも自分に家族がいたかどうかすらわからないというのに。
同時に脳裏に浮かんだのは突き刺さるような冷たいまなざしだった。そして自分に向けられる潜められた声。
「違うんだ……俺だって……俺が、悪かったのか……?」
うわごとのように呟く。頭を抱えたいのに抱えるための手はないのだ。
「何が違うのかしら?」
そのとき、背後から声が聞こえた。後頭部に突き刺さる視線は赤い。
「姉ちゃん……」
「何か思い出したの?」
「あ……いや、でも……なんか急に嫌な気分になってよ……」
「そう。こっちも調査を頼んできたけれど、すぐにはわからなそうよ」
蛍は淡々と報告する。そしてソファーに座ると躊躇いなくテレビのチャンネルを変えた。
「ああ、ごめんなさい。もしかして見てた?」
「い、いや別にいいんだけどよ。おれはどっちかというと民放の方が好きだしよ」
蛍が見始めたのは昔放送されていたドラマの再放送のようだった。お仕事系ラブコメドラマとは意外なチョイスである。
「何よ。もしかして『こんなの見るんだ』って思ってる?」
「……ちょっと思ったな」
蛍は溜息を吐く。
「紅羽もそうだけど、一体私ってどんなドラマを見そうだと思われてるのかしらね」
「硬派な刑事ドラマとかじゃないか?」
「そういうものも嫌いではないけれど……碧都以外全員に意外って言われたのよね。別に夢を見たっていいと思わない? みんな悪意がないのはわかっているのだけど」
どうも誤解を受けやすい娘のようだ。男は画面で繰り広げられる恋愛模様に目を向けた。蛍はイケメンのヒーローをその赤い瞳で見つめている。その表情はこれまでよりもずっと年相応に見えたのだった。
出かけてくると言い残し、蛍は部屋を出て行った。民警の存在は男も知っている。しかしその中でもかなり強い方であることは見て取れた。そうでなければ流石に生首を置いて普通に出かけられないだろう。
「やることがない……」
当然だが、蛍の部屋のものには触れないようにと言われている。一応暇つぶしにはなるでしょうとテレビの電源をつけていってくれたが、チャンネルを変更することができない。男は垂れ流しになっている公共放送を眺めるしかなかった。
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しかしそれはあまりに厚かましい。そもそも記憶もない、生首の自分を置いておいてくれるだけで感謝すべきなのだ。
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そのとき、突然男の頭が痛み出した。
「うう……頭が痛ぇ……でもこれ、ドラマとかだと思い出すフラグ……」
しかし残念ながら何にも浮かばない。人生はそう上手くはいかないものである。
その人生もおそらくは終わってしまっているのだろうが。
『家族の写真です。休憩のときに眺めて頑張ろうって気持ちになって』
テレビの中のトラックドライバーが笑顔で言う。家族の写真はぼかされているがおそらく妻と小さな子供なのだろう。
「いいよなぁ、家族の写真がある奴はさぁ」
そう呟いた自分に自分で驚く。そもそも自分に家族がいたかどうかすらわからないというのに。
同時に脳裏に浮かんだのは突き刺さるような冷たいまなざしだった。そして自分に向けられる潜められた声。
「違うんだ……俺だって……俺が、悪かったのか……?」
うわごとのように呟く。頭を抱えたいのに抱えるための手はないのだ。
「何が違うのかしら?」
そのとき、背後から声が聞こえた。後頭部に突き刺さる視線は赤い。
「姉ちゃん……」
「何か思い出したの?」
「あ……いや、でも……なんか急に嫌な気分になってよ……」
「そう。こっちも調査を頼んできたけれど、すぐにはわからなそうよ」
蛍は淡々と報告する。そしてソファーに座ると躊躇いなくテレビのチャンネルを変えた。
「ああ、ごめんなさい。もしかして見てた?」
「い、いや別にいいんだけどよ。おれはどっちかというと民放の方が好きだしよ」
蛍が見始めたのは昔放送されていたドラマの再放送のようだった。お仕事系ラブコメドラマとは意外なチョイスである。
「何よ。もしかして『こんなの見るんだ』って思ってる?」
「……ちょっと思ったな」
蛍は溜息を吐く。
「紅羽もそうだけど、一体私ってどんなドラマを見そうだと思われてるのかしらね」
「硬派な刑事ドラマとかじゃないか?」
「そういうものも嫌いではないけれど……碧都以外全員に意外って言われたのよね。別に夢を見たっていいと思わない? みんな悪意がないのはわかっているのだけど」
どうも誤解を受けやすい娘のようだ。男は画面で繰り広げられる恋愛模様に目を向けた。蛍はイケメンのヒーローをその赤い瞳で見つめている。その表情はこれまでよりもずっと年相応に見えたのだった。
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