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1・学園の王子様
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的を見つめる紗希の鋭い眼差し。矢の前に視線で射抜いてしまいそうだと陽葵は微笑みながら思った。陽葵の前には白のセーラーワンピースの制服の群れ。集中している紗希を邪魔しないように小声で話しながら、紗希が矢を放つ瞬間を待っているのだ。
「陽葵先輩、そんなに後ろでいいんですか?」
陽葵に気が付いた後輩が小声で尋ねてくる。陽葵は桃色の唇を笑みの形にする。
「いいのよ。紗希ったら、私が近くで見てたら集中できないとか言うんだから」
本当はそんなことはないとわかっている。弓道場にいるときの紗希は陽葵どころか周りの観客も目に入ってはいない。静かに、凛と、目の前の的だけを見ているのだ。短く切った髪、長い手足。そして弓を引き絞るときの真剣な顔。弓道場を出ると打って変わって気さくに振る舞うその姿。それら全てを含めて、一条紗希はこの慧成女学園の王子様と呼ばれている。
「陽葵先輩! こっちの方がよく見えると思いますよ!」
「いいのよ、ここで。それにそろそろ静かにしないと」
先程とは違う後輩が話しかけて来たが、陽葵はその場から動かなかった。学園の王子である紗希の勇姿を一目見ようと後輩たちは躍起になっているが、陽葵にはもうその必要もないのだ。
(それに王子様なんて、ね)
弓道場にいる紗希は確かに王子扱いされても仕方がないほどに凛としていて、美しい。男慣れしていない学園の生徒たちだけでなく、大会に出れば必ず他校の女子まで惚れさせて帰って来るのだから、それは疑いようがないのだ。ただし紗希本人にはそんなつもりは全くない。紗希はただ目の前の試合のことだけを考えて、自分の全てを出し切ろうとしているだけだ。だから本人は自分が内外から好意を寄せられていることに自覚がない。自分がなぜ王子と呼ばれているのか常々疑問に思っているくらいだ。
陽葵はそんな紗希のことが幼い頃から好きだった。家が近いだけで始まった幼馴染としての関係。無邪気に駆け回って遊んでいた日々は過ぎ去り、紗希はあまりに美しく成長した。
弓道は神事に通じるところもあるらしい。その弦の音は悪しきものを祓うと言われることもある。紗希はそれに相応しい雰囲気を纏っていた。張り詰めた絃や、清水に似たその姿。紗希の矢なら、確かに魔を討ち払うこともできそうだ。
静寂を割くように、弦音が響く。紗希の放った矢は的の中心を易々と射抜いた。紗希が礼をして詰めていた息を吐き出すと、固唾を呑んで見守っていた後輩たちが声を上げる。練習中の紗希が観衆に笑みを振りまくことはないが、それもまた紗希の人気を高めるのに寄与している。
今日の練習は先程の一射で終わったようだ。紗希の周りに弓道部の部員たちが集まって簡単なミーティングをして、それから各々後片付けに入る。
暫くして、片付けと着替えを終えて戻ってきた紗希に陽葵は駆け寄った。紗希は陽葵の姿を見て少しだけ驚いた顔をする。先程まで陽葵が練習を見ていたことには気付いていないようだ。
「今日、コーラス部の練習は?」
「毎週水曜日は休みよ。紗希ってばすぐ忘れるんだから」
「そもそも今日って水曜日?」
「そこからなの?」
弓道をしているときは完璧に見えるが、そうでないときは意外に忘れっぽくて、ぼんやりしていたり抜けたりしていることも多い。集中力を全て弓道に使ってしまっているのではないかと思うほどだ。紗希と陽葵が話していると、後輩たちの囁き声が聞こえる。
「やっぱりお似合いだよねぇ、あの二人」
「学園の歌姫と学園の王子様! 最高だよね」
紗希にも聞こえているはずなのだが、紗希はその類の話は完全に右から左に受け流してしまう。そのくせ歌姫と呼ばれている陽葵をからかうこともあるのだ。
「呼ばれてるよ、歌姫様?」
「いや、あの子たちは多分王子狙いだと思いますけどね……」
「王子なんてガラじゃないんだけどなぁ、私」
「そうね」
陽葵は笑う。王子なんてガラじゃない―それを一番知っているのは陽葵なのだ。陽葵は紗希の手を取り、その掌を親指でゆっくりとなぞる。
「っ、陽葵……」
紗希の肩がびくりと反応する。先程までの凛とした姿はどこへやら。わずかに漏れた吐息には色が含まれている。
「続きは部屋でね、王子様?」
「ちょっ……陽葵!」
手を離して歩き始めた陽葵を、紗希が慌てて追いかける。その二人の後ろ姿を、二人を慕う後輩たちがとろけるような瞳で見つめていた。
***
「こんな姿、あの子たちが見たらどう思うのかしらね」
慧成女学園の高等部は全寮制になっている。紗希と陽葵は入学時は別の部屋に割り振られていたが、二年に上がるときの部屋替えで、陽葵による交渉の末に同じ部屋になった。そのときから二人が交際しているのは公然の秘密だ。品行方正、学園でも評判の二人を信じて大人たちは目をつぶっているのだ。二人きりの部屋の中ではその信頼を裏切るようなことが行われているというのに。
陽葵は紗希の首筋にキスをする。それだけでみじろぎをする紗希は、これからのことを知っていて期待しているのだろうか。電気を消した部屋の中には、窓から差し込む月明かりしか光がない。紗希の肌はその青白く淡い光すら反射するほどに白かった。陽葵は汚れなど許さないほどに綺麗な紗希の肌を舌でなぞり、唾液で透明な筋を描いていく。
「ん、っ……」
弓を構えた凛とした姿の紗希はここにはいない。少し低く掠れた声が形の良い唇から微かに漏れる。陽葵は紗希の黒いキャミソールの裾から手を入れ、細いが筋肉質な腹部に触れた。愛しい気持ちが溢れて来て、陽葵はそれに溺れていくように臍まで繋がる筋を舌でなぞった。
「ん……っ」
どうしても漏れてしまう声が恥ずかしいのか、紗希は手の甲で口を押さえている。声も聞きたいけれど、恥じらう姿も可愛らしい。陽葵は笑みを浮かべてから、臍の溝に舌を差し入れた。
「やだ……っ、ひまり……そんなとこ……」
「気持ちいいくせに」
「ッ……!」
逃げようとする体を軽く押さえつけて続けていると、紗希が内股を軽く擦り合わせた。本人に自覚はないだろう。桃色の薄く透ける素材のベビードールを身につけた陽葵は、嫣(えん)然(ぜん)と微笑みながら紗希のキャミソールを脱がせ、水色のブラジャーの金具を片手で外した。片手では包み込めないほどに豊満で柔らかな胸が露わになる。弓道着や学園の制服は体型がわかりにくいため、王子と呼ばれる紗希が実は女性らしい体型の持ち主だということはあまり知られていない。そもそも紗希自身が自分の体型にはそれほど価値を見出していないのだ。勿体ないと陽葵は思う。陽葵はもう既に主張している紗希の胸の突起を口に含んだ。唾液で湿してから舌で転がしたり、軽く吸ったりする。
「あっ……ん、ひまり……っ」
まだまだ序盤なのに、紗希はすっかり興奮しきっている。弄っていない方の乳首も期待するように起ち上がっていて、陽葵は笑みを浮かべながら、それを人差し指と親指で軽くつまんだ。
なんて可愛くて、綺麗なのだろう。紗希のこんな姿を知っているのは陽葵だけだ。触れる度に紗希が漏らす少し低くて控えめな声に頭の芯が痺れていく。胸を弄っているだけなのに紗希の腰が揺れ始めていることに陽葵は気が付いていた。手で身体の輪郭をなぞるようにしながら、紗希の部屋着のショートパンツの中に手を入れる。そのまま引き下ろすと、紗希の喉がひくりと動いた。
陽葵はそのまま紗希の下着のクロッチ部分を人差し指でなぞった。それだけで濡れた音が響く。陽葵は妖しい笑みを浮かべて紗希を見下ろした。
「もうぐちゃぐちゃね、紗希」
「……っ、言わないで」
「もう何回やってんのよ。そろそろ慣れたら?」
「慣れるようなもんじゃないでしょ……っ!」
その反応が可愛くて何度も同じことをしてしまうことに紗希は気が付いているのだろうか。既に濡れて色が変わり始めている紗希の下着の上から何度も指を擦り付ける。
「……っぅ……んっ」
「こんな姿、紗希を王子様扱いしてる子たちが見たらどう思うのかしらね」
「……ッ、しら、ないよ……そんなこと……!」
陽葵と紗希が恋人同士なのは公然の秘密と化しているが、歌姫と呼ばれる陽葵と王子と呼ばれる紗希では、おそらく紗希がリードしていると思われているのだろう。けれど陽葵たちはずっとこんな関係だった。見た目とは裏腹に気が弱かったり、恥ずかしがり屋だったりする紗希と、見た目とは裏腹に大胆な陽葵。人は見かけによらないものなのだが、案外多くの人が見かけで判断する。紗希はそれを気にしているところもあるが、陽葵は反対に楽しんでいる。紗希の本当の姿は陽葵しか知らない。逆もまたしかり。それでいいのだ。こんなに可愛くて綺麗な紗希のことは宝箱にでもしまっておいて、誰にも見せないでおきたいとさえ陽葵は思う。
陽葵は指で軽く紗希の下着をずらし、蜜を溢すその場所に直接触れる。紗希はそれだけで大きく身体を震わせた。
「ふふ、もうシーツまで垂れちゃいそうね」
「っ……ひまり……ッ!」
陽葵は声を上げる紗希を無視して下着を引き下ろし、紗希の細くもしっかり筋肉のついた太腿を掴んで足を開かせ、その間に顔を埋めた。溢れ出してくる蜜に誘われるように舌を伸ばす。
「っ、や、ひまり……」
「嫌じゃないくせに。どんどん溢れてくるわよ」
紗希の弱い部分は知っている。蜜をシーツに溢さないように舐め上げてから、既にひくついている膣内に舌を捻じ込んだ。
「あ……っ!」
甘い嬌声を漏らした紗希は、恥ずかしさからか自分の手の甲を口に押し当てている。その手を無理矢理外すような無粋な真似はしない。堪えているのに漏れてしまう声が陽葵の好物なのだ。
「っ、だめ……それ……ぇ」
「気持ちいいくせに」
無意識なのだろうが、紗希は口を押さえている手と逆の手で陽葵の頭を離れないように押さえていた。陽葵はそれに気を良くして、さらに深く舌を侵入させる。その舌を紗希の膣内が強く締め付け、引き抜いた瞬間に、ちゅ、と音が響いた。
「ひま……り……っ」
乱れた呼吸をそのままに、紗希が陽葵の目を見た。普段は強い意志を秘めて的を見据えているその目が、今は弱々しく懇願するように陽葵を見上げている。
「――ねぇ、私のことも気持ちよくして?」
紗希の手を取り、自分の内股に導きながら陽葵は言う。紗希は熱に浮かされたような目をしながら頷いた。紗希ら陽葵の手が誘導するままに下着をずらし、ひくつきながら蜜をこぼす陽葵の秘部に細い指を侵入させた。
「……っ、紗希……!」
紗希を愛撫している間に興奮しきっていた陽葵の膣内からは、指を少し動かすだけで水音が響く。おずおずと陽葵の膣内を掻き回している紗希の呼吸も荒くなっていく。
「すごい……濡れてる」
「紗希見てたら興奮しちゃった。責任取ってよね」
「うん」
紗希が陽葵の頭を引き寄せる。紗希から始まった唇同士を触れ合わせるキスは、どちらからともなく舌を絡ませ合い、深いものに変わっていった。陽葵はキスを続けたままで紗希の膣内に指を挿れる。くちゅ、と大きな音が響いた瞬間、紗希が身体をのけぞらせるようにして絶頂に達した。
「ふふ……挿れただけなのに」
「……っ、だって」
紗希の体はひどく敏感だ。その上恥ずかしがりやで、羞恥心を煽れば更に快感が増していく。紗希の様子を見ながら時折指を曲げると、その度に紗希から甘い声が漏れた。
「ほら、手がお留守になってるわよ、紗希」
「っ……無理……ぁ、」
紗希はそう言いながらも指を陽葵の膣内に入れて指を動かす。動きは拙いし、陽葵が攻め立てればすぐにおろそかになってしまうけれど、紗希なりに陽葵を満足させようとしているのだ。あの人とは違う―陽葵がそう思った瞬間に、紗希に顔を引き寄せられた。
「他のこと、考えないで――」
それは一瞬のことだったはずなのに、紗希は陽葵が別のことを考えたことに気が付いてしまったらしい。昔からそうだった。紗希は周りをよく見ていて、些細な違いに良く気が付く。誰かに強制されたわけではなく、そういう性分なのだろう。だからこそ弓道なんて繊細なことを続けていられるのだ。
指を根本まで入れて、わざと音を立てるようにして抜き差しをする。紗希の好きな部分はわかっているから、人差し指でそこを刺激しながら、逆の手でぷくりと膨らんだ陰核を摘み上げる。
「んっ、あぁっ、ぁ……っ」
「……っ、紗希……!」
紗希は紗希で陽葵がどこに弱いのかわかっている。指から伝わる感覚で、乱れた呼吸で、互いの絶頂が近いことを知る。
「っ、ぁ……ひまり、もう……」
「いいよ。一緒に――」
どちらからともなく深く唇を合わせる。絶頂の甘い声はその隙間から漏れるばかりでほとんど音にならない。まるで飲み込んでいるようだと、意識が白く染められていくのを感じながら陽葵は思った。飲み込めてしまえればいいのに。そうすれば紗希とずっと離れずにいられる。抱き合ったまま一つに溶けてしまって、誰にも引き剥がせない連理の枝になれればいいのに。絶頂の余波に肩で息をしている紗希の中から指を引き抜いた陽葵は、自分の手をしとどに濡らした透明な液体を舐めた。
「ひまり……」
文句を言いたげな紗希だが、それ以上の言葉は紡げないようだった。荒い呼吸を整えながら紗希が指を引き抜いた瞬間、陽葵の秘部がそれに追いすがるように収縮した。
「っ……ねぇ、紗希……」
「なに、陽葵……?」
「愛してる……本当に本当よ……?」
紗希の首の後ろに手を回して抱きつくと、紗希が微笑みながら陽葵の頭を撫でて、陽葵を優しく引き寄せる。
「私も、愛してるよ……陽葵」
ついさっきまで散々啼かされていたとは思えない。そんなんだから「王子」なんて言われるのだ。陽葵は笑みを浮かべながら、紗希の腕の中で目を閉じた。
「陽葵先輩、そんなに後ろでいいんですか?」
陽葵に気が付いた後輩が小声で尋ねてくる。陽葵は桃色の唇を笑みの形にする。
「いいのよ。紗希ったら、私が近くで見てたら集中できないとか言うんだから」
本当はそんなことはないとわかっている。弓道場にいるときの紗希は陽葵どころか周りの観客も目に入ってはいない。静かに、凛と、目の前の的だけを見ているのだ。短く切った髪、長い手足。そして弓を引き絞るときの真剣な顔。弓道場を出ると打って変わって気さくに振る舞うその姿。それら全てを含めて、一条紗希はこの慧成女学園の王子様と呼ばれている。
「陽葵先輩! こっちの方がよく見えると思いますよ!」
「いいのよ、ここで。それにそろそろ静かにしないと」
先程とは違う後輩が話しかけて来たが、陽葵はその場から動かなかった。学園の王子である紗希の勇姿を一目見ようと後輩たちは躍起になっているが、陽葵にはもうその必要もないのだ。
(それに王子様なんて、ね)
弓道場にいる紗希は確かに王子扱いされても仕方がないほどに凛としていて、美しい。男慣れしていない学園の生徒たちだけでなく、大会に出れば必ず他校の女子まで惚れさせて帰って来るのだから、それは疑いようがないのだ。ただし紗希本人にはそんなつもりは全くない。紗希はただ目の前の試合のことだけを考えて、自分の全てを出し切ろうとしているだけだ。だから本人は自分が内外から好意を寄せられていることに自覚がない。自分がなぜ王子と呼ばれているのか常々疑問に思っているくらいだ。
陽葵はそんな紗希のことが幼い頃から好きだった。家が近いだけで始まった幼馴染としての関係。無邪気に駆け回って遊んでいた日々は過ぎ去り、紗希はあまりに美しく成長した。
弓道は神事に通じるところもあるらしい。その弦の音は悪しきものを祓うと言われることもある。紗希はそれに相応しい雰囲気を纏っていた。張り詰めた絃や、清水に似たその姿。紗希の矢なら、確かに魔を討ち払うこともできそうだ。
静寂を割くように、弦音が響く。紗希の放った矢は的の中心を易々と射抜いた。紗希が礼をして詰めていた息を吐き出すと、固唾を呑んで見守っていた後輩たちが声を上げる。練習中の紗希が観衆に笑みを振りまくことはないが、それもまた紗希の人気を高めるのに寄与している。
今日の練習は先程の一射で終わったようだ。紗希の周りに弓道部の部員たちが集まって簡単なミーティングをして、それから各々後片付けに入る。
暫くして、片付けと着替えを終えて戻ってきた紗希に陽葵は駆け寄った。紗希は陽葵の姿を見て少しだけ驚いた顔をする。先程まで陽葵が練習を見ていたことには気付いていないようだ。
「今日、コーラス部の練習は?」
「毎週水曜日は休みよ。紗希ってばすぐ忘れるんだから」
「そもそも今日って水曜日?」
「そこからなの?」
弓道をしているときは完璧に見えるが、そうでないときは意外に忘れっぽくて、ぼんやりしていたり抜けたりしていることも多い。集中力を全て弓道に使ってしまっているのではないかと思うほどだ。紗希と陽葵が話していると、後輩たちの囁き声が聞こえる。
「やっぱりお似合いだよねぇ、あの二人」
「学園の歌姫と学園の王子様! 最高だよね」
紗希にも聞こえているはずなのだが、紗希はその類の話は完全に右から左に受け流してしまう。そのくせ歌姫と呼ばれている陽葵をからかうこともあるのだ。
「呼ばれてるよ、歌姫様?」
「いや、あの子たちは多分王子狙いだと思いますけどね……」
「王子なんてガラじゃないんだけどなぁ、私」
「そうね」
陽葵は笑う。王子なんてガラじゃない―それを一番知っているのは陽葵なのだ。陽葵は紗希の手を取り、その掌を親指でゆっくりとなぞる。
「っ、陽葵……」
紗希の肩がびくりと反応する。先程までの凛とした姿はどこへやら。わずかに漏れた吐息には色が含まれている。
「続きは部屋でね、王子様?」
「ちょっ……陽葵!」
手を離して歩き始めた陽葵を、紗希が慌てて追いかける。その二人の後ろ姿を、二人を慕う後輩たちがとろけるような瞳で見つめていた。
***
「こんな姿、あの子たちが見たらどう思うのかしらね」
慧成女学園の高等部は全寮制になっている。紗希と陽葵は入学時は別の部屋に割り振られていたが、二年に上がるときの部屋替えで、陽葵による交渉の末に同じ部屋になった。そのときから二人が交際しているのは公然の秘密だ。品行方正、学園でも評判の二人を信じて大人たちは目をつぶっているのだ。二人きりの部屋の中ではその信頼を裏切るようなことが行われているというのに。
陽葵は紗希の首筋にキスをする。それだけでみじろぎをする紗希は、これからのことを知っていて期待しているのだろうか。電気を消した部屋の中には、窓から差し込む月明かりしか光がない。紗希の肌はその青白く淡い光すら反射するほどに白かった。陽葵は汚れなど許さないほどに綺麗な紗希の肌を舌でなぞり、唾液で透明な筋を描いていく。
「ん、っ……」
弓を構えた凛とした姿の紗希はここにはいない。少し低く掠れた声が形の良い唇から微かに漏れる。陽葵は紗希の黒いキャミソールの裾から手を入れ、細いが筋肉質な腹部に触れた。愛しい気持ちが溢れて来て、陽葵はそれに溺れていくように臍まで繋がる筋を舌でなぞった。
「ん……っ」
どうしても漏れてしまう声が恥ずかしいのか、紗希は手の甲で口を押さえている。声も聞きたいけれど、恥じらう姿も可愛らしい。陽葵は笑みを浮かべてから、臍の溝に舌を差し入れた。
「やだ……っ、ひまり……そんなとこ……」
「気持ちいいくせに」
「ッ……!」
逃げようとする体を軽く押さえつけて続けていると、紗希が内股を軽く擦り合わせた。本人に自覚はないだろう。桃色の薄く透ける素材のベビードールを身につけた陽葵は、嫣(えん)然(ぜん)と微笑みながら紗希のキャミソールを脱がせ、水色のブラジャーの金具を片手で外した。片手では包み込めないほどに豊満で柔らかな胸が露わになる。弓道着や学園の制服は体型がわかりにくいため、王子と呼ばれる紗希が実は女性らしい体型の持ち主だということはあまり知られていない。そもそも紗希自身が自分の体型にはそれほど価値を見出していないのだ。勿体ないと陽葵は思う。陽葵はもう既に主張している紗希の胸の突起を口に含んだ。唾液で湿してから舌で転がしたり、軽く吸ったりする。
「あっ……ん、ひまり……っ」
まだまだ序盤なのに、紗希はすっかり興奮しきっている。弄っていない方の乳首も期待するように起ち上がっていて、陽葵は笑みを浮かべながら、それを人差し指と親指で軽くつまんだ。
なんて可愛くて、綺麗なのだろう。紗希のこんな姿を知っているのは陽葵だけだ。触れる度に紗希が漏らす少し低くて控えめな声に頭の芯が痺れていく。胸を弄っているだけなのに紗希の腰が揺れ始めていることに陽葵は気が付いていた。手で身体の輪郭をなぞるようにしながら、紗希の部屋着のショートパンツの中に手を入れる。そのまま引き下ろすと、紗希の喉がひくりと動いた。
陽葵はそのまま紗希の下着のクロッチ部分を人差し指でなぞった。それだけで濡れた音が響く。陽葵は妖しい笑みを浮かべて紗希を見下ろした。
「もうぐちゃぐちゃね、紗希」
「……っ、言わないで」
「もう何回やってんのよ。そろそろ慣れたら?」
「慣れるようなもんじゃないでしょ……っ!」
その反応が可愛くて何度も同じことをしてしまうことに紗希は気が付いているのだろうか。既に濡れて色が変わり始めている紗希の下着の上から何度も指を擦り付ける。
「……っぅ……んっ」
「こんな姿、紗希を王子様扱いしてる子たちが見たらどう思うのかしらね」
「……ッ、しら、ないよ……そんなこと……!」
陽葵と紗希が恋人同士なのは公然の秘密と化しているが、歌姫と呼ばれる陽葵と王子と呼ばれる紗希では、おそらく紗希がリードしていると思われているのだろう。けれど陽葵たちはずっとこんな関係だった。見た目とは裏腹に気が弱かったり、恥ずかしがり屋だったりする紗希と、見た目とは裏腹に大胆な陽葵。人は見かけによらないものなのだが、案外多くの人が見かけで判断する。紗希はそれを気にしているところもあるが、陽葵は反対に楽しんでいる。紗希の本当の姿は陽葵しか知らない。逆もまたしかり。それでいいのだ。こんなに可愛くて綺麗な紗希のことは宝箱にでもしまっておいて、誰にも見せないでおきたいとさえ陽葵は思う。
陽葵は指で軽く紗希の下着をずらし、蜜を溢すその場所に直接触れる。紗希はそれだけで大きく身体を震わせた。
「ふふ、もうシーツまで垂れちゃいそうね」
「っ……ひまり……ッ!」
陽葵は声を上げる紗希を無視して下着を引き下ろし、紗希の細くもしっかり筋肉のついた太腿を掴んで足を開かせ、その間に顔を埋めた。溢れ出してくる蜜に誘われるように舌を伸ばす。
「っ、や、ひまり……」
「嫌じゃないくせに。どんどん溢れてくるわよ」
紗希の弱い部分は知っている。蜜をシーツに溢さないように舐め上げてから、既にひくついている膣内に舌を捻じ込んだ。
「あ……っ!」
甘い嬌声を漏らした紗希は、恥ずかしさからか自分の手の甲を口に押し当てている。その手を無理矢理外すような無粋な真似はしない。堪えているのに漏れてしまう声が陽葵の好物なのだ。
「っ、だめ……それ……ぇ」
「気持ちいいくせに」
無意識なのだろうが、紗希は口を押さえている手と逆の手で陽葵の頭を離れないように押さえていた。陽葵はそれに気を良くして、さらに深く舌を侵入させる。その舌を紗希の膣内が強く締め付け、引き抜いた瞬間に、ちゅ、と音が響いた。
「ひま……り……っ」
乱れた呼吸をそのままに、紗希が陽葵の目を見た。普段は強い意志を秘めて的を見据えているその目が、今は弱々しく懇願するように陽葵を見上げている。
「――ねぇ、私のことも気持ちよくして?」
紗希の手を取り、自分の内股に導きながら陽葵は言う。紗希は熱に浮かされたような目をしながら頷いた。紗希ら陽葵の手が誘導するままに下着をずらし、ひくつきながら蜜をこぼす陽葵の秘部に細い指を侵入させた。
「……っ、紗希……!」
紗希を愛撫している間に興奮しきっていた陽葵の膣内からは、指を少し動かすだけで水音が響く。おずおずと陽葵の膣内を掻き回している紗希の呼吸も荒くなっていく。
「すごい……濡れてる」
「紗希見てたら興奮しちゃった。責任取ってよね」
「うん」
紗希が陽葵の頭を引き寄せる。紗希から始まった唇同士を触れ合わせるキスは、どちらからともなく舌を絡ませ合い、深いものに変わっていった。陽葵はキスを続けたままで紗希の膣内に指を挿れる。くちゅ、と大きな音が響いた瞬間、紗希が身体をのけぞらせるようにして絶頂に達した。
「ふふ……挿れただけなのに」
「……っ、だって」
紗希の体はひどく敏感だ。その上恥ずかしがりやで、羞恥心を煽れば更に快感が増していく。紗希の様子を見ながら時折指を曲げると、その度に紗希から甘い声が漏れた。
「ほら、手がお留守になってるわよ、紗希」
「っ……無理……ぁ、」
紗希はそう言いながらも指を陽葵の膣内に入れて指を動かす。動きは拙いし、陽葵が攻め立てればすぐにおろそかになってしまうけれど、紗希なりに陽葵を満足させようとしているのだ。あの人とは違う―陽葵がそう思った瞬間に、紗希に顔を引き寄せられた。
「他のこと、考えないで――」
それは一瞬のことだったはずなのに、紗希は陽葵が別のことを考えたことに気が付いてしまったらしい。昔からそうだった。紗希は周りをよく見ていて、些細な違いに良く気が付く。誰かに強制されたわけではなく、そういう性分なのだろう。だからこそ弓道なんて繊細なことを続けていられるのだ。
指を根本まで入れて、わざと音を立てるようにして抜き差しをする。紗希の好きな部分はわかっているから、人差し指でそこを刺激しながら、逆の手でぷくりと膨らんだ陰核を摘み上げる。
「んっ、あぁっ、ぁ……っ」
「……っ、紗希……!」
紗希は紗希で陽葵がどこに弱いのかわかっている。指から伝わる感覚で、乱れた呼吸で、互いの絶頂が近いことを知る。
「っ、ぁ……ひまり、もう……」
「いいよ。一緒に――」
どちらからともなく深く唇を合わせる。絶頂の甘い声はその隙間から漏れるばかりでほとんど音にならない。まるで飲み込んでいるようだと、意識が白く染められていくのを感じながら陽葵は思った。飲み込めてしまえればいいのに。そうすれば紗希とずっと離れずにいられる。抱き合ったまま一つに溶けてしまって、誰にも引き剥がせない連理の枝になれればいいのに。絶頂の余波に肩で息をしている紗希の中から指を引き抜いた陽葵は、自分の手をしとどに濡らした透明な液体を舐めた。
「ひまり……」
文句を言いたげな紗希だが、それ以上の言葉は紡げないようだった。荒い呼吸を整えながら紗希が指を引き抜いた瞬間、陽葵の秘部がそれに追いすがるように収縮した。
「っ……ねぇ、紗希……」
「なに、陽葵……?」
「愛してる……本当に本当よ……?」
紗希の首の後ろに手を回して抱きつくと、紗希が微笑みながら陽葵の頭を撫でて、陽葵を優しく引き寄せる。
「私も、愛してるよ……陽葵」
ついさっきまで散々啼かされていたとは思えない。そんなんだから「王子」なんて言われるのだ。陽葵は笑みを浮かべながら、紗希の腕の中で目を閉じた。
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