贄の乙女は鬼となった兄の愛に溺れる

深山瀬怜

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22・帝都にて

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 三ヶ月後、帝都――。
 深凪は縫い物の手を止めて窓から外を見た。この家は古くはあるが住むには不便しない。けれど一人でいるときはどことなく寂しさを感じてしまうのだった。

「早く帰ってこないかな、お兄様……」
(先程出て行ったばかりだろう)

 深凪の呟きに月禍が応える。巽は少し前に仕事に出掛けて行った。村を出たことのなかった巽には本当に何の伝手もなかったが、今は素性も聞かずに雇ってくれた店で働いている。そしてその店長の奥方が深凪に家でもできる洋裁の仕事を斡旋してくれたのだ。

(それにしても、あの男が急に「帝都に行く」と言ったときは驚いた。しかも本当に無計画だったとは)
「そうね……。私はもう出るという発想自体がなかったけれど」
(あの男の無計画で動ける行動力は評価すべきだな。……私の兄もそうだが)

 巽が働きに出るようになって、月禍と話す機会が増えた。巽に取り憑いた耀鬼は月禍の兄なのだという。妹同士ということもあり二人は意外にウマが合った。

(それにしても、器用なものだな)
「そう? 洋裁は初めてだから自信はあまりないのだけど」

 深凪に洋裁の仕事が紹介されたきっかけは、巽が深凪は裁縫が得意だとこぼしたことらしい。しかしそれは村の中では何ら褒められることではなかったので、それが仕事にもなるというのは驚きだった。

「最近、昔の服を今風に仕立て直すというのが流行っているらしくて……私は言われた通りにやっているだけなのだけど」

 この仕事にありつけてから二ヶ月ほどが過ぎた。充実はしているけれどまだ新しい生活に完全には馴染めず、どこかふわふわしている気がしていた。

「これからどうなっていくのかしら……」
(さあな。でもなるようになるんじゃないか)
「それもそうかもしれないわね」

 今は目の前のことを必死でやっていくしかない。せっかく深凪も外に出ずにできる仕事をもらったのだ。それに新しいものが自分の手で出来上がるのを見るのは楽しかった。

「お兄様……早く帰って来ないかしら」

 またもやそう呟く深凪を見て、月禍は呆れたように笑った。まだ慣れない生活で不安もあるのだろう。それと同時に新しいことに胸を躍らせてもいる。今日も巽が帰ってきたら二人は愛の時間を過ごすことになるのだろう。

***


「お兄様!」

 玄関を開けると深凪が笑顔で現れた。先日社長の奥方からもらった藤色の着物を身につけている。その長い髪に見慣れない髪飾りがあるのに気付いた巽はそれについて尋ねた。

「これは作ったんです。お客様が端切れは好きにしてもらっていいって」
「そうか。似合っているよ」

 村にいたときは着飾ることもほとんどなかった深凪だが、洋裁の仕事をしていることもあってかお洒落をするようになった。そんな深凪を見ていると面白いのか、社長の奥方は随分深凪に目をかけているらしい。

「お兄様?」

 深凪が首を傾げる。巽は一瞬頭をよぎった予感を振り払って微笑み、深凪を抱きしめて唇を合わせた。

(あの村にいるときよりも深凪はずっと幸せそうだ。それなのに、どうして)

 巽は玄関から一歩も動かず、また深凪と唇を重ねた。

「お兄様?」

 深凪が困ったような声を上げたので巽ははっとして唇を離した。自分でもなぜこんなことをしているのかわからずに困惑する。

「深凪……愛してる」

 不安なのかもしれない。村を出て、自由を得て、深凪がいつか自分の側からいなくなってしまうのではないかと。けれど深凪があの村から解放されることを望んだのは巽自身でもあるのだ。

「お兄様……っ」

 唇をずらし、白い首筋をなぞる。深凪が微かに肩を震わせて吐息を漏らした。

「お兄様……ぁ、」
「深凪」

 巽は深凪の着物の襟をずらした。そして透き通るような白い肌に吸い付き、赤い痕を残す。

「あ、っ……」

 巽は深凪の白い肌にいくつも痕を残していく。深凪はその度に眉を寄せて甘い吐息を漏らした。巽はゆっくりと深凪の着物の裾を割り、深凪の脚に手を這わせる。

「お兄さ、ま……っ」
「深凪……」

 巽が耳元で囁くと、深凪はびくりと身体を震わせた。その白い首筋にまた赤い痕を残す。そしてそのまま帯と腰紐を解きながら首筋を唇でなぞり鎖骨へと下りていく。

(わからない。どうしてこんなに不安なのか)

 ようやく手にした幸福な時間のはずなのに、なぜか不安が頭を掠める。深凪が欲しくてたまらない。いくらあっても足りない。その思いだけが巽を支配していた。

「お兄様……っ」
「深凪……」

 着物を脱がせながら巽は深凪に口付ける。そして深凪の肌に手を這わせる。柔らかく手に吸い付いてくるような乳房を揉み、その先の飾りを軽く吸った。

「あっ……お兄様……っ」

 そのままそこに舌を這わせ、時折軽く吸う。ほんのり塩の味がするが、巽にとっては甘く感じられた。深凪の味だ。夢中になって続ける巽の髪を深凪が優しく梳く。それはどこか巽を安心させようとしているように見えた。
 巽は静かに手を伸ばしてその内腿を撫でた。深凪の脚が震える。そっと指先で秘所をなぞると、そこは既に蜜を溢れさせていた。

「ぁ……っ」

 深凪が眉を寄せて声を詰まらせる。巽はそっと中指を深凪の中に沈めた。柔らかい肉襞がきゅう、と指を締め付けてくる。

「はぁ……ん……お兄様、」
「深凪……」


 ゆっくりと奥まで沈めていき、小さく指を曲げて内壁を擦り上げる。その度に深凪の腰が跳ねて甘い声が上がる。巽は指を増やして中を掻き回した。そして親指で秘芽を押し潰すようにして刺激する。すると膣内が更にき指を締め付けてきた。

「あっ……あ、はぁ……ん」

 深凪の甘い声が響く。不意に巽は深凪をめちゃくちゃにしてしまいたい衝動に駆られた。自分を余すことなく刻みつけて、ずっと自分の側から離れて行かないようにしたい。
 巽は息を荒げながら先走りで濡れている自身を取り出した。そしてそれを立ったままで深凪の入り口に押し当てる。深凪が息を詰まらせたのがわかったが、巽はそのまま腰を進めた。ずぶずぶと陰茎を飲み込んでいくそこは狭く熱い。全てを収めると巽は大きく息を吐いた。

「お兄様……っ」

 深凪が縋るようにしがみついてくる。巽はその背中を撫でながらゆっくりと抽挿を始めた。

「あっ……あ、ん……っ」
「深凪……っ」

 巽は何度も深凪の名前を呼びながら腰を打ち付けた。その度に深凪が甘い声を上げ、媚肉は巽のものをきゅうきゅうと締め付けてくる。それが堪らなく気持ちよくて、巽は夢中で腰を動かした。

「お兄様……っ、お兄さま……ぁ」
「深凪……愛してる」

 囁いた瞬間に強く締め付けられ、巽は耐えきれずに深凪の中に白濁を放った。

「あ……っ、はぁ……ん」

 ずるりと陰茎を引き抜くと、壁に縋り付くようにして姿勢を崩した。巽はその腰を抱き起こしながら深凪の唇を奪う。

「ん……お兄様……」

 口付けながら巽は再び熱を持ち始めた自身を取り出すと、それを再び深凪の入り口に擦り付けた。

「深凪……いいか?」
「はい、お兄様……っ」

 巽はゆっくりと深凪に挿入する。もう既に一度迎え入れたそこは柔らかく巽のものを受け入れた。奥まで到達すると、巽は腰を動かし始める。

「はぁ……っ、あ、あっ……」

 先程出したものが潤滑材となり、動きやすくなっているためか動きが自然と早くなる。巽が腰を打ち付ける度に深凪の乳房が大きく揺れた。深凪は壁に縋り付くようにしながら甘い声をあげる。

「深凪……っ、はぁ……」

 巽は深凪の腰を掴みながら激しく抽挿を繰り返した。結合部からはぐちゅぐちゅと水音が響き、それが更に興奮を煽る。

「あっ……あ、お兄様……っ、私もう……あぁっ」
「俺も……ずっと一緒にいよう、深凪……っ」

 巽が一際強く腰を打ち付けると、深凪は背を仰け反らせて達した。同時に中が強く締め付けられて巽も精を放つ。どくんどくんと脈打つそれを搾り取るように肉襞が絡み付く。巽は最後の一滴まで深凪の中に吐き出すと、ゆっくりと自身を引き抜いた。そしてそのまま深凪の身体を反転させて正面から抱きしめる。

「お兄様……」

 深凪が甘えるように抱きついてきた。その背中を優しく撫でながら口付ける。舌を絡ませると互いの唾液でくちゅり、と音がした。

「ん……はぁ」

 唇を離すと銀糸が伸びてぷつりと切れた。それすら惜しくなってまた唇を重ねる。何度も角度を変え、貪るように口付けた。

「お兄様……私、決してお兄様から離れたりしません」
「深凪……」
「だからそんな顔をしないで。例え生まれ変わっても、私たちは離れないから」

 自由を選んだのに、いざそれを手に入れると離れていく未来を想像して怖くなってしまう。でも深凪の言葉を信じたい。不安など消えてしまうほどに強く、何度でも繋がりたいと巽は思った。

「お兄様……実は私のこの髪飾りとお揃いの羽織紐を作ったんです。お兄様に似合うかなと思って」

 深凪には何もかもを見透かされているのかもしれない。それとも深凪もそれほどまでに自分を求めてくれているのだろうか。巽は深凪を強く抱きしめて言った。

「ありがとう、深凪……。明日は休みだから、それをつけて一緒に遊びに行こうか」

 深凪は目を輝かせる。社長の奥方や洋裁の客から話を聞き、行きたいと思っていた場所があるらしい。

「愛してる、深凪」

 巽が脈絡なく呟くと、深凪は巽の背中に手を回して言った。

「私もです、お兄様」

 たったそれだけで何もかもが救われたような気持ちになる。巽はもう二度とこの手を離さないと誓い、深凪の首筋に唇を落とした。
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