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【3章】ドラゴンテール①
しおりを挟む〈19:30 ドラゴンテール〉
チーム・ブラックドラゴンが拠点とする峠、通称『ドラゴンテール』の駐車場が今にわかにザワついていた。
駐車場に集まっているギャラリーが一斉に観ている備え付けの巨大モニターには、キラキラと大粒なダイヤモンドメタリックが色鮮やかに輝く、鳴海 隼人のFCが大きく映し出されていた。
このドラゴンテールと呼ばれているAコースは、練習専用のBコースとは違ってかなりハイテクな技術が導入された仕様となっている。
数メートル置きごとに無数の小型カメラと集音マイクが設置されていて、その映像と音は即座に受信されLIVEで配信されるようになっている。
そして今ギャラリーが集まっている、パーキングエリア内に設置された巨大モニターにも、そのタイムリーな映像が映し出されているのだ。
「凄いぜ! あのFC」
「またレコードタイム更新だ!」
「やべぇ、キレッキレの走りだぜ」
「マジ、ヤバくない!」
「何者なの!?」
隼人の一挙一動に、ギャラリーから歓声が上がっている。
〔フォーン、パシューー、キュルルルル〕
〔ブォーン、ボン、ボン 〕
〔 ンキャキャキャキャーーー!〕
〔ブォンボーーーー、パシュー〕
「隼人、その調子だ!」
「おーい、聡」
「第1セクターの通過タイムは?」
隼人のFCの助手席に乗ってナビをしている圭介が、チームの無線通信を通して聡に聞く。
「44秒338です!」
「圭介さん、また0,3秒近く縮みました」
「聡、了解!」
「隼人、セクター1でまた記録更新だ!」
「このままセクター2のロングストレートで、思いっきりかっ飛ばせ!」
「圭介さん、了解です」
ただ今タイムアタック中のFCが、ドラゴンテールの名物の第2セクション・ロングストレート前の、左曲がりのスプーンへと入る。スプーンとは、スプーンの形をしたことから俗に呼ばれているカーブのことである。
またこのコースは、このスプーンまでが上り坂とされている。
時速150kmを超える速度のまま、シフトを1段落とす。
その瞬間、後輪のタイヤにロックがかかる。
同時に半分クラッチを踏みアクセルをチョコンと合わす。
すると後輪のタイヤが流されはじめる。
そしてハンドルを進行方向とは逆に切る。
〔ンキャキャキャキャキャーーー!〕
〔ブォン、ブォン、キャキャ、ボンボー〕
タイヤが滑りながらも路面にしっかりグリップして、見事に車体はコントロールされながらカーブに沿ってスピードを殺す(落とす)ことなく進む。
これが『ドリフト』だっ!!
ドリフトと呼ばれる技には、大きく分けて2パターンある。
王道のサイドブレーキを引いて後輪のタイヤをロックさせて切っ掛けをつくる方法と、一定の速度から急激にシフトをダウンしタイヤをロックさせて切っ掛けをつくる『慣性ドリフト』という方法がある。更には全く何の動作も無くすんなり決めるレベルの高い慣性ドリフトも存在する。
今、隼人が使っているドリフトは、後者のシフトを使った慣性ドリフトと呼ばれる手法だ。
「いいドリフトだ!」
「最小限の減速でコーナーをクリア出来ている。隼人、かなり腕を上げたな」
「ありがとうございます」
「圭介さん達のお陰です」
「隼人、お前の運転はポテンシャルが違う」
「いろいろな走り手を見てきたが、センスがいい」
「これは、産まれ持った才能だ!」
「お前はもっと上手くなる」
「さぁロングストレートだ!」
「思いっきりアクセルを踏み込めーっ!」
「はいっ!」
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