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エスリアール国 出会い
トラウマの自己紹介3
しおりを挟むじわり、瞬きもできない両目が熱い。
「………………。」
「…なんてね。わかった?真名を使うと、命令されたその言葉には逆らえな…い…。」
目を閉じ、キスする振りだけしてびっくりさせて、真名の力をわかってもらいたかった。少し、演技が悪のりした自覚もあったが、まさか……
「ふっ、うっ、っ~~~。」
目を見開いたままの瞳に涙が溜っていった。
「もう、自由にしていいよ。」
ふっと体から緊張が解けて、足元が崩れてしまうのをエルシオンがとっさに支え、そのままお姫様抱っこで移動し、自分の胸に横抱きに寄りかかせたままベッドに腰かけて座る。
「ごめん…。」
「…っ、ひっく、ふっ。」
「わかりやすく説明するのに、少し驚いてもらいたかっただけで、泣かせたかったわけじゃなかった…。」
しょんぼりした耳、怒られた子犬のような表情と瞳が訴える。
「……っ……。」
「どうしたら、許してくれる?私の真名を明かそうか?綾子になら教えてもいいよ。私の真名はエル「だめ!!」…」
いやいや、シオンさん。大事ならそんな簡単に明かしちゃいけないでしょう。
「…だめ!言っちゃ。…真名、大事なら、簡単に言っちゃ…だめ。……びっくり、した…んです。」
「うん。」
「本当に、びっくりして、体がいうこときかないしっ、シオンさんが何考えてるのかわからないし……会ったばかりで、…キスする位近いし、別に初めてのキスじゃなくたって、どうしたらいいかわかんないしっ」
瞬きで涙が溢れ、頬を伝っていった。
エルシオンは、罪悪感を感じながらその濡れた瞳、頬を優しく指で拭う。綾子が語る心情に耳を傾けながら後半、初めてのキスじゃないと知りピタッと手が止まる。
「………本当にごめん。異世界から来たばかりで、何も知らないまま誰かに(特に悪い虫)利用されないように、危険な目に合う前に真名の影響力をわかって欲しかったんだ。」
真摯に、謝罪してくるエルシオンになんだか悪いのはこちらのような気がしてくる。
「シオンさんが私のことを心配してしたことだとわかりましたが、もう、二度と勝手に真名を使わないですか?」
「ああ、二度としない。」
「わかりました。シオンさんに怒ったわけじゃなくて、ただびっくりして泣いてしまっただけです。もう、大丈夫です。」
落ち着いてきて、自分がエルシオンの上に横抱きのままだったことに焦りだし、降ろして下さいと言おうと思ったが、つい、疑問が気になって聞いてしまった。
「でも、どうしてそこまで。私を気にかけてくれたんですか?」
何で、異世界から迷客が来たからといって見ず知らずの自分にここまでする必要があったのか。綾子には疑問だった。
シオンさんは目を伏せて、黙ってしまい、降ろして下さいと言うタイミングをなんだか逃してしまい、おとなしく話すのを待つ。
「…私には、大切な妹が一人いたんだけど、幼い頃にもう二度と会えなくなってしまって…。
二度と会えないとわかっていても諦めきれなくて、私との年の離れ具合や年頃も雰囲気もなんとなく綾子に似ていて…。
迷客とわかっていたけれど、まるで妹が戻って来たようで、嬉しくて、今度こそ守りたいと思ってしまったんだ…。」
そうだったんだ。亡くなった妹さんを私に重ねて、色々心配になって…。優しいお兄さんなんだ。事情もわかって、ほっとした。
「そうだったんですね。お気持ちはよくわかります。実は私にも、会えなくなってしまった兄が一人いたんです。」
目を見開いてから、微笑むエルシオン。
「…そうなんだ。」
「綾子のお兄さんにはなれないけれど、できることなら兄のように頼って欲しい。仲良くしてくれると嬉しいな。」
「私なんかでいいんですか?私も妹さんの代わりにはなれませんが、私もシオンさんに仲良くして貰えたら嬉しいです。」
にっこり微笑み合う二人。
「じゃあ、改めてよろしく綾子。」
「はい、よろしくお願いします。シオンさん。」
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