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マンション
1. お……おやじ!?
しおりを挟むピンポーン! ピンポーン!
マンションの一階エントランス。
しつこくハヤの家のチャイムを鳴らす。
誰の返事もなかった。
会えない……。
こんな事があっていいはずない。
俺はあいつの……。
恋人……
になったんじゃなかったのか?
新学期が始まってからもう何日経ったんだろう。
季節は巡り、もうすぐ衣替えになる。
学校では文化祭で盛り上がり、男子は盛んにフォークダンスの相手を探していた。
オレはあの瞬間から魂が抜けたようになっていた。
一学期でもう退学していたなんて……。
オレの驚いた顔に、センセイが一番驚いていた。
それくらいオレたちはいつも一緒だったのに……。
そして、失いたくなかったのに……。
がっくり肩を落として、今日もハヤのマンションから出た。
そんなオレの目の前に、見るからに高級な黒塗りの車が止まる。
後部座席の窓が静かに開き、車内には50過ぎほどの「ダンディー」の見本のようなスマートな紳士が乗っていた。
「君、浜崎夏斗くんだね」
その紳士がオレを見てそう言うと、タイミングを計ったように運転手が扉を開けた。
すっと降りてオレの前に立つ。
背が高い。180cmは越えている。
フルオーダーであろうスーツをビシッと着こなし、涼しげな、でも鋭い眼差しでオレを見た。
「君に話しておきたいことがあるんだ」
「わたしは、谷垣隼人の父だ。」
!!!!!
お……おやじ!?
「は、はじめまして!!
いつもハヤ…隼人君にはお世話になってます」
オレは緊張しながらお辞儀をした。
ハヤのおやじって言ったら、今や日本を代表する企業グループ、キャッスルプレスの社長。
なんでもひいおじいさんが創設、そしておじいさんの代を経て、今のこのおやじさんでグループを大きくしたって。
いずれはハヤも社長になるのかなぁ……。
そんな事を漠然とは考えていたけど、オレの近くに居るハヤは全然普通のいい奴だったし、実感はなかった。
おやじさんと会うのは初めてだ。
ただ、ハヤの話では(と言ってもおやじさんの事はあまり話さなかったけど)なんとなく「怖い人」の印象。
これは粗相のないようにしなくちゃ……。
あっ!!
でも、おやじさんだったらハヤが今何処で何してるか知ってるはず……。
「オ…オレもおやじさんに…あ…いや……、谷垣さんに聞きたい事が……」
「上がりたまえ」
「はい、お邪魔します」
ハヤのおやじさん…谷垣さんに先導されるように、今出たマンションの最上階ハヤの家の玄関をいつもと違う緊張の面持ちで上がった。
うわっ……ハヤの居ないこの家に上がるのは初めてだ。
つうか、おやじさんとかが家に居る状況が初めてじゃん。
ハヤはいつも「今日から両親留守にするから……」なんて時に皆を呼んでいた。
まー……たいがいが留守だったみたいだけど。
リビングを見渡した。
見慣れた家具は無くなり、ガランとしていた。
「…………」
谷垣さんは、秘書の方であろう30代後半ぐらいの仕事の出来そうなメガネの男性をお供に連れて、部屋の状況にあっけに取られているオレの背後に立っていた。
「あの……引っ越されたんです…か…?」
「ハヤ……は、…今、何処に……!?」
オレはこの部屋の有様に思わず礼儀もわきまえず振り向きざまに問い詰めた。
ガシッ!!
突然腕を捕まれ、引っ張られる。
「 わわっ!!!なんなんですか!?」
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