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距離

3. 話が違うんだけど!!

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「手島さん、話が違うんだけど!!」

オレは手島さんからもらった名刺の会社の社長室の階にあるトイレでこそこそと電話をしていた。

『いや……ごめん。どうも頼んだ者が口を滑らせたらしくて……。
居心地悪いなら、私から言うから帰っても……』

「いや、仕方ないです。とりあえず今日は居ますから」


この会社の社長、オレが訪問するなりもろ手を挙げての大歓迎ムード。
おかしいと思ったら、取引先の次期社長谷垣隼人の友人だということを知られていた。

本当は、超居心地わりぃ……。

でも、こうなったら逆に手島さんの顔を潰すわけにもいかず、オレはこの社長の相手をすることとなった。

プルルルルル

応接セットに座らされ、秘書らしいこともさせてもらえないまま雑談に応じていると、社長室の電話が鳴った。

「ええー!!わかりました。
……全然!! こちらは一向に構いません。
いやぁ、ナイスタイミングですよ!」

社長がこちらを見て、にやっと笑った気がした。
電話を切ると、オレの肩をポンと叩き上機嫌で言った。

「今夜、大切な取り引き先との会食が入ったんだが、君も同席してくれないかね」

え……。
そんな場に部外者のオレが同席してもいいわけ?

重役ではなく、社長直々の会食。
しかも社長のベテラン秘書ももちろん来るわけで、オレ的には実践を見学できるチャンス。

「はい。ぜひ行かさせていただきます」


それからは社長の秘書の方と行動を共にさせてもらい、会食の手配やそのほかの業務の調整などけっこう勉強になった。



「社長、どうぞ」

手配した高級料亭の一室、ベテラン秘書が社長を部屋へと案内した。

「ふむっ」

「お父様、お待ちしてましたわ。
わたくし、お話聞いてから、もう嬉しくてすごく早く着いてしまったの」

……腑に落ちないのは、なぜこの会食会に社長の一人娘が同席しているかだ。
甲高い声の娘は、俺とあまり変わらない年頃だが、ふわふわした生地のワンピースを着ている。そのせいか、少し幼く見えた。

オレの方をチラッと見る。
新顔だからだろうか。
上から下まで舐めるようにみて、明らかに父親に見せた表情と違う高飛車な素振りでふんっと鼻を鳴らした。

ぐぐっ!! こいつ……。身なりで人を判断しやがったな!!

散々手島さんにあのスーツを着なさいと言われたが、その辺の量販店で買ったスーツを身に着けている。
ようやく着られた感が抜けたし、就職活動にはそれで十分だったからだ。

女はこれだから……。

裏表の激しいこの娘にイラッときたが、そんなことでは秘書は務まらないのはわかっている。
冷静を装い、部屋の隅、ベテラン秘書の隣に座った。



「どうも、遅くなりました。」

取引先の相手が到着した。
すぅーと襖が開き、長い足が見えた。






その姿は、21歳になった、雑誌でしか見られなかったハヤの姿だった。


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