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近づく男

2-プロポーズの前に

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そして、柄にもなく緊張している俺だ。

食堂を出た俺とセリは宿の廊下を歩いていた。
カツカツと靴のヒールの音が響く。

俺がセリの手を引き、部屋を足早に通り過ぎて行く。

止まってしまえば…いや。ああ。そのまま部屋のベッドに雪崩込みたい。
欲望を無理矢理、抑え込んだ。


セリが愛おしい。

手に入れたい。
隅々まで

奥底まで

それを俺の方だけでするには、セリがもたないだろ?
俺の方だけ重くてはダメだ。

二人で堕ちて行きたいのだから。

視界が開ける。
目的の場所を遠目で確認した。

目的の場所は真っ暗だが、今いる辺りは明るく照らされている。
屋外に出た。
天を仰げば、星空だ。

うまいこと構造が考えられていて、街の明かりは入ってこない。
それが、この場所の特別感を演出している。

俺が足を向けるのは、宿自慢の庭園。
季節によって違う花を見れると有名らしい。

俺は興味がなかったがセリが楽しそうだ。
今度から、こういう場所はチェックしよう。

甘い物、お茶、花か。
旅先でそういうところは寄っていない。
それほど興味がなかったが、手に入るようにしよう。

驚かせないよう、拐いたくなるセリを抱きかかえた。
花の匂いよりセリの匂いを吸いたい。
スッと俺の腕に手を回すセリに嬉しさが込み上げる。

信じ切った動作で俺に抱きつくセリ。
会った当初の警戒も恐れもない。
俺を見てくれる視線に拒絶の色はない。

どこ行くの?と聞いてくるような平静そのもの。

セリに様子とは対照的に、
この詰まるような思いをセリに伝えたいと思った。
どうしたら伝えられるんだろう?

答えが出ずに、目的のところへ向かった。
少々動きづらくても、庭を通り過ぎ、建物の上へ楽々辿り着く。

庭園を望める屋上だ。
星もよく見え、眼下には花が咲き誇る庭園が
灯りにボンヤリと照らされる。

そんな景色より
俺の腕の中にいる番の様子を伺い見る。

星空と夜の庭園に満足してくれているようだ。
ベンチに座ったところで、
セリを俺の方へ向けて座らせた。

後ろから抱きつく事はあっても、顔が見えるこの姿勢は良いな。
この角度もいいな。見上げられる眼差し。

綺麗だ。

窮屈な格好は気に入らないがセリの隣にいるなら我慢する。
着飾ったセリを見せられるのもいい。誇らしい。

今は、慣れない接近に慌てているのも可愛い

ああ
喰っちまいたいな。

捕食者の目になったのかセリをビビらせたようだが、


さあ、舞台は整った。

無事プロポーズの言葉は言えた。
まだまだ伝えた足りないが

壊れ物を扱うみたいに
やさしく優しく

この時の記憶がセリを俺の元に留まらせるように。


唇をそっと口付けたのだった。
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