お狐長屋の両隣り [完結]

BBやっこ

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武家

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「すまぬが誰か!おらぬか?」
そう大声で訪ねてきた声があった。

しかし、お狐長屋には今1人しかいない。
「はいはい」と答えながら女が戸を開けた。

大家のおとそだ。真昼間とはいえ、少々警戒心に欠けているように見える。
この時、おすみがいれば「どなたでしょうか?」と警戒を持って迎えていただろう。

しかし、おすみは三左と一緒に川の方へ行っていた。まだ戻って来ない。

大声で尋ねてきた男は、二本差しの武士だった。
少し刀が重そうな様子だ。
あまりやっとうの方は達者じゃないのだろうと三左なら看破したことだろう。

しっかりした着物は、禄をいただいている立派なお侍の様子で
背もあり、厚みもある体躯だが算盤のが得意な御仁だった。
一見すると、剣の腕もたちそうな面構えの良い男なのだが。

「雛に見る美人だ」
惚れっぽく、女性に弱い。口下手ながら口説く性格だった。
ちなみに妻子はない。

「はぁ。」と気のない返事をしたおとそだった。
用件を言っていないことに気づき、咳払いをして武士が勢いよく喋り出す。

「ここに、掏摸を匿っていると聴いて来た!
心当たりはないか?」

「掏摸、ですか?」
おとそに心当たりはない。

ここの住人は、おすみだけ。
よく来てくれる三左さんはあの方の手下てかだ。掏摸とは思えない。

「存じませんねぇ」とのんびり聞こえる声で告げた。

「しかしですな!」と近くなった男に流石のおとそも一歩引く。

ヒョイとの間、あって声がかかった。

「何をしている?」
「あら、お帰りなさいませ。」

おとそが迎えたのは、着流しに二本差しの男。

「親父殿!」
三左のいう親父だった。

本名は木下弥治郎と家名持ちの旦那さん。

十手を持つ年の頃、四十。嫁に逃げられ独り身の今。
お狐長屋の主人だ。

「弥治殿」が生前の親父殿に似ていることから呼ばれた
紛らわしくも親愛の情が篭った呼び名だった。

落ち着いた武士だったが、立ち話もなんだからと
長屋へ入ることのする。


そこへ「おや、皆様お揃いで?」と帰って来た
芸人の貞吉。今長屋に仮住まいしている男。


その後ろには、見習いの男がいたが
バッと荷物を放り出し、駆け出した。

「待ちやがれ!」とそれに反応したのは三左で
いつもの習性で追いかけて、捕まえ、縄を打つ。

全く訳知らぬ身ながら、男を捕まえ
お狐長屋に戻って来た。


「ところで、こいつが何かしやしたんでしょうか?」
見知らぬ武士に、ここの大家。自分の上司にあたる親父殿を
迎えに行き、舟をもやっておすみと帰ってきた長屋。


いい働きぶりをした三左だった。

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