磔(はりつけ)令嬢は最後にわらった。

BBやっこ

文字の大きさ
2 / 3

後に

しおりを挟む
雨だ。

ぬかるみが、人々の足下を汚していくのは憂鬱になるものだが
それほど降りは強くならないか。

曇天が広がる空は、泣いているアタシの気持ちを写すようだよ。


今日は、あの子の処刑の日だ。


貴族に拐われるように連れて行かれて
『元気でやっている』とアタシにもわかる文を送ってきた。

下働きの人間に頼んで送ってくれたようだ。
貴族の家から目を盗んでやったのだろう。

あの子のは要領が良い子だもんね。
器量が良いとは言えないけど、

小さな頃から、たくさんアタシの食堂を手伝ってくれた。

よく働いてくれて、客足らいも良いモンだから
たまに客同士でケンカの種になる。

そんなイザコザもまとめてしまえる。

明るい行動力のある子だ。


アタシの産んだ子じゃない。夫は早くに死んじまって、独り身だからね!
あの子の母親は、貴族の屋敷でメイドをしていた。

しっかりもので、慎重な性格だったけど

貴族様のお手つきになって
あの子を孕んでさ


この食堂を手伝いながら産んだけど、儚くなっちまってねえ。

アウラは、アタシが育てたもんだよ。
その辺のガキには負けない、腕っ節と根性で

色々、目立った子だけど母親に顔向けできないことはしなかったよ。
良い子だけど、豪快に育ったもんだ。

健康で元気ならそれでよかったのに。


今日、広場であの子の処刑がある。

磔(はりつけ)刑だってさ
魔女でもあるまいし、今時そんな晒し者にするなんて。

しかも、あの王様気取りの独断で行われるって?

あの子が何をしたって言うんだい!?

アイツは信用ならない。でっち上げだって話も多い。

けど


この小さな閉鎖された土地で、貴族の意向に背くのは
本当に命懸けだよお。

まさか、アウラが。



「アタシの娘」

アタシは自分の食堂で閉じこもっていることしかできない。

雨に濡れないだろうか?
風邪をひいてしまうじゃないか。

処刑されるって言うのに

止められやしない。


嗚呼。どうして?どうして…。



ここなら音もしない。
あの子の慟哭も、人々の声で聞こえないだろう。


なぜ、あの子が処刑されてしまうんだろう?
それさえもわからないのに


処刑の時刻が…



アタシが祈っても、処刑の場で叫んでも
止まりはしない。

いつまでそうしていただろう?


閉ざしていた、食堂に誰かが来た。
今日は、仕事が手につかない。

あの子の死ぬ日を、引きこもって嘆くことしかできない。

誰か助けて。
あの子を!

そう願った。誰か!…と。

でももう、遅い。
光がさすには遅過ぎた。


「ここに、アウラ・レイヴィトンは居るか?」

入り口に立つ騎士の鎧が白銀に光る。

その訪れは、待ち侘びたものだったが


光は、もう


絶たれている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

魔女の祝福

あきづきみなと
恋愛
王子は婚約式に臨んで高揚していた。 長く婚約を結んでいた、鼻持ちならない公爵令嬢を婚約破棄で追い出して迎えた、可憐で愛らしい新しい婚約者を披露する、その喜びに満ち、輝ける将来を確信して。 予約投稿で5/12完結します

まさか、今更婚約破棄……ですか?

灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
チャールストン伯爵家はエンバー伯爵家との家業の繋がりから、お互いの子供を結婚させる約束をしていた。 エンバー家の長男ロバートは、許嫁であるチャールストン家の長女オリビアのことがとにかく気に入らなかった。 なので、卒業パーティーの夜、他の女性と一緒にいるところを見せつけ、派手に恥を掻かせて婚約破棄しようと画策したが……!? 色々こじらせた男の結末。 数話で終わる予定です。 ※タイトル変更しました。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

帰還した聖女と王子の婚約破棄騒動

しがついつか
恋愛
聖女は激怒した。 国中の瘴気を中和する偉業を成し遂げた聖女を労うパーティで、王子が婚約破棄をしたからだ。 「あなた、婚約者がいたの?」 「あ、あぁ。だが、婚約は破棄するし…」 「最っ低!」

処理中です...