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6-嫁

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お忍びの高貴な女性との会話は続いていた。

「私などでは」

「謙遜?」

「力足らずです。」


何の力もない子娘へ、婚約の打診のような?
それが、気のせいではないようでオドオドしてしまう。

そして
「私にどんな力があると思う?」

王妃様の力という事だろうか。お世辞にも腕力はない。
いや必要ないのか。


「威厳?腕力は意外とあるのよ?温室で植物達を育てているとね。」

腕を見たのに気づかれてしまった。


「これも集中力や慣れでできるべきなったのよ。
貴女が欲しい力は何かしら?」


私?
「腕力はいりません。人が怒り出す前兆なら感じられます。」

怒りをぶつけられないように逃げることかしら。
けど、欲しいものが自分の弱さと同じだ。

「秘密を教えてあげる。王家ってね役者なのよ?演じている部分があるの。
相手の気勢をね、のんでしまえばできるのよ。」


王家の秘密?演じる、のむ?
その告白めいた秘密を私は意味が飲み込めずにいる。
そして、
秘密を話してしまって良いのだろうか?いやそういう体なのかも。


混乱している私に続く

「他の役目を持つ者達と協力している。
貴女が剣を持つ必要はない


優雅にお茶を飲み、話題を制御し、力関係を把握する。


そんな力、よ?」


「ちから。」
言葉を繰り返す。私は暴力に繋がる力しかイメージできなかった。
圧倒され、怖がって。


守ってくれる剣と盾。
その両方を前に出すことなく

言葉で毅然と立つ女性、私はそうなりたいと願う。


どうして望んでいるのか?

あの瞳はルビーのように光り、力強ささえたたえていた。
パーティの夜に会った彼を思い出すのは親戚の方かしら?


「母上」

必然、王子様だと思い背筋が伸びる。

そして目の前の方は煌びやかな服。しかし見たお顔。
面差しが似ているのは確かで、

パーティの夜の騎士服ではなく


「王子様」


「うん。マーテル嬢。」


甘く、柔らかく笑いかけてくださる。


私の残念な頭は、王妃様に似て綺麗だと惚けてしまって
ご挨拶さえできなかった。完全に失態だ。


それを咎めることなく、突然来たことを詫びている王子様。

意味がわからない
と繰り返すが目の前で、次の約束をしていた。


王妃様の温室には興味があるけど、王子様が一緒なのは


おかしいと言えない。だけど嫌ではないのは何故なのか
その答えに辿り着くまえに、婚約の打診が父から告げられたのだった。
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