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美心(幼年期)編
河原にて
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黒船来航から数日後、唯一の生き残りであったヘリーはオマンダ商人に引き渡され西廻りで帰国させられた。
鹵獲した戦艦は江戸近くの港に運ばれ、全国から集まった学者の手に委ねられた。
「これは……凄い。なんて複雑な伽羅倶梨なのだ」
「黒い石……これは石炭か?」
「ああ、石炭を燃やし水を水蒸気に変え、それでタービンを回して電気を作り出す仕組みのようだ」
「熱を電気に? なるほど別の力ではあるが力である限り変換は可能か」
「ふむ……石炭の代わりに陰陽術で水を沸騰させれば貴重な資源を使わなくて済むな」
「代わりに人員を必要とするが働き手が見つからない者も世の中には沢山居る。その者共を雇用してやれば……」
「ああ、海路だけでなく陸路でも歴史的に大きく変わるぞ!」
学者達は期待に胸を踊らせ数日は眠ること無く研究に没頭していく。
蒸気機関が日本で独自の発展を遂げる瞬間であった。
そして、場所は江戸に移り……。
「美心っち、まだ出力が足りない。ほら、陰の気を水に変えて絞り出す」
「ぬ……ぐぬぬぬ!」
バシャァァァン!
巨大な水柱が間欠泉のように美心の足元から吹き上がる。
「おぉ、ナイッスー! それが第4境地水属性陰陽術『激水』だよ」
(うほぉぉぉ、やっと陰陽術がまともに使えたぞ!)
疲れた美心はその場で座り込む。
明晴も側に行き横に座る。
「やっぱ美心っちには陰の気を操作するほうが身体に合っているみたい。まずは陰の術から学んでいこ」
「うん、お兄ちゃん教えてくれてありがとう」
「どう致しまして。さ、お義母さんに作っていただいたお弁当を食べよ」
(美心っち、ご機嫌を取り戻してくれて良かった。黒船の件であっしが迷子にさせてしまったことにずっと激おこぷんぷん丸だったし。ここ数日ほど口聞いてくんなかったけど、それも毎日誤りに行って今日やっと許してくれたし、色んなことを教えてあげなくちゃね)
明晴はずっと勘違いしている。
この数日間、美心は毎日遊んでくると言って長屋を飛び出し、町人の間で噂になっている近くの港に運ばれてきた戦艦を探していたのだ。
だが、明確な場所は分からず両親に1人で遠出していることを悟られないためにも探索の時間は多くなかった。
そして、遂に見つけた昨日、美心は呆然自失した。
そこにあったのは研究のため中身を解体されてしまった戦艦らしき残骸のみ。
船が無くてはアヘリカ大陸へ渡ることなど不可能なことを知っている美心はその夜に心を入れ替えた。
(戦艦の強奪は失敗しちまったがよく考えれば蒸気機関が伝わった時点で、更に高性能で安心の日本製戦艦が誕生するはずだ。俺もまだ陰陽術がまともに使えない状況だったし、魔王討伐に向かうのはもっと強くなってからでも良い。何より明晴から色々と情報を得られ急ぐ必要がなくなったからな)
美心の中で最も気がかりだった別の場所で勇者が誕生するのでは無いかという心配は明晴の一言で片付いていた。
今朝、修行場の河原に向かいながら話す2人。
「勇者? 美心っちアニメの見過ぎ――。でも、そうか……美心っち勇者に憧れているんだ? うん、美心っちなら絶対になれるよ。何しろあっしと同じ転生者だし」
(何と戦うのか知んないけど……)
「お兄ちゃんは勇者にならないの?」
「あーし? 別に興味無いし――」
「え、勇者だよ? 魔王から世界を守る偉大な存在なんだよ」
「え、だって面倒くさそうじゃん? 誰かに頼まれてもやる気は起きないかなぁ」
(マジか……いや、よく考えれば明晴の中はJKだ。勇者に興味を持っていないのも何となくだが納得がいく。くくく、だったら明晴は勇者パーティーのヒーラーになってもらって背中を預けるのも有りだな)
明晴暗殺計画は美心の中から消え去った。
だが、不安は残る。
「他の藩で勇者が誕生したりしない?」
「絶対出ないっしょ」
「どうして!? どうして断言できるの!?」
「日本中渡り歩いてきたけど勇者になりたいなんて言ったのは美心っちだけだしぃ……お、心配なら将軍にも伝えてあげちゃうよ」
「えっ……将軍様にあたちが勇者って!?」
「そそそ、勇者勇者」
奉行所の役人でさえも尊信し将軍にも謁見できるほどの人物である明晴の言葉は信じるに値するものだった。
(俺が……俺が勇者! いや、まだ確定したわけではない。将軍に伝えるところを見せてもらうまでは)
「将軍様にはいつお会いになるの?」
「今日にでも行く? この前のことあーしの口からも伝えておきたいし。あ、でも先に修行ね」
(明晴ってノンアポでも将軍と謁見できるほどの大物だったのか!? いや、大物過ぎんだろ!? 一体、何者なんだよ? 安倍晴明と関係がありそうなことは予測できているが……子孫?)
何故か彼の過去のことには一切興味を持たなかった自分を不思議に思う美心であった。
次の話題を振ろうとしたときには河原に到着し修行を始めるのであった。
そして、今に至る。
「ふぅ、相変わらずお義母さんのご飯は美味しいね。今日はお弁当を作ってくれたみたいだけどどうしてなんだろ?」
(おっかあに明晴の近くに居させる時間を極力減らす。会えない日々が続くと自ずと心は離れていってしまうものだし、何より俺にはこれしか家庭を守る手段が思い浮かばねぇ)
「よし、それじゃ美心っち江戸城に行こっか」
(き、キタ――! 勇者誕生の瞬間!)
美心は大きく首を縦に振り明晴の背中に乗る。
(もう相変わらず可愛いなぁ美心っちは。こんなに喜んでくれるなんて余程勇者に憧れているんだろうなぁ。何を相手にすんのか知んないけど)
明晴が飛翔を使い上空に飛び上がる。
そして遠くに見える江戸城に向かって進んでいく。
「そうだ、美心っちってさ英語ペラペラだったじゃん? 前世の時は幼い頃からずっと英語を習っていたん? まさか英才教育とか……」
「違うよ。そもそも外人と話したのも初めてだったし」
「えっ!」
(美心っち、前世で英語を習得していない? もしかして……)
「因みに聞くけどさ、プランス人やゲイツ人とも会話できそう?」
「うん、余裕」
この言葉で明晴はある答えに辿り着いた。
(そうか、女神様の啓示だ。美心っちが転生する時に受け継いだのはこの世界でどの国とも会話できる異能の力だったんだ!)
女神の啓示、異世界転生モノで定番の転生時に貰える特典である。
「美心っち、あーし分かったし」
ドキッ!
美心は明晴の放った言葉で気が動転する。
「な、何が分かったの?」
(まさか俺が転生前は初老の爺で勇者になるためにひたすら努力していたことか!? どうして分かった……まさか、さっきの質問!? 英語を話せるのがこの世界では珍し過ぎた!? これじゃ幼女プレイはもう出来ない! いや、男でそんなのしていたらイタすぎると思われてしまう! だが、まだ確信が持てたわけではない。それまでは演技を続けておくか?)
「天界で女神様に会ったっしょ? その時に啓示を得たんだね」
「……へっ、啓示って?」
「隠さなくても同じ転生者のあーしは分かってるって。あーしは不老不死を得たんだけど……」
「何だと!? えっ、啓示って……もしかして異世界特典のこと?」
「異世界特典って例えがウケるんですけど。うん、そんな感じ。美心っちの場合はどの国の人達でも話せる能力なんだね。平和な能力で良いじゃん」
突然の話に理解が追いつかない美心。
だが異世界特典で不老不死を得たという部分だけは妙に納得がいき、そして同時にこう思った。
(俺、啓示なんて受けてない。ちょっと待て! 異世界特典を貰えるパターンでの転生もあるってのか! 明晴はすんごいのを貰って俺は何も貰ってない……つまりこの世界では俺って単なるモブキャラ?)
激しい動揺が美心に襲いかかる。
そして不老不死というチート能力を得て優雅に空を飛んでいる明晴に嫉妬の炎が燃え始める。
ゴゴゴゴゴ……
「美心っちどしたん? あ、自分の能力が意識できて嬉しいんだ? うんうん、女神様も何の説明も無く渡すから困っちゃうよね。美心っちはどんな言葉も話せるチート能力! 覚えておたほうが良いよ」
「うん、分かった。この能力で世界樹のみんなと仲良しになる」
満円の笑みで明晴に答える美心。
だが、内心では違っていた。
(コロス……いつか絶対にこいつをコロス……不老不死でも肉塊に変えてコロス)
明晴暗殺計画が再び美心の中で浮上した瞬間である。
鹵獲した戦艦は江戸近くの港に運ばれ、全国から集まった学者の手に委ねられた。
「これは……凄い。なんて複雑な伽羅倶梨なのだ」
「黒い石……これは石炭か?」
「ああ、石炭を燃やし水を水蒸気に変え、それでタービンを回して電気を作り出す仕組みのようだ」
「熱を電気に? なるほど別の力ではあるが力である限り変換は可能か」
「ふむ……石炭の代わりに陰陽術で水を沸騰させれば貴重な資源を使わなくて済むな」
「代わりに人員を必要とするが働き手が見つからない者も世の中には沢山居る。その者共を雇用してやれば……」
「ああ、海路だけでなく陸路でも歴史的に大きく変わるぞ!」
学者達は期待に胸を踊らせ数日は眠ること無く研究に没頭していく。
蒸気機関が日本で独自の発展を遂げる瞬間であった。
そして、場所は江戸に移り……。
「美心っち、まだ出力が足りない。ほら、陰の気を水に変えて絞り出す」
「ぬ……ぐぬぬぬ!」
バシャァァァン!
巨大な水柱が間欠泉のように美心の足元から吹き上がる。
「おぉ、ナイッスー! それが第4境地水属性陰陽術『激水』だよ」
(うほぉぉぉ、やっと陰陽術がまともに使えたぞ!)
疲れた美心はその場で座り込む。
明晴も側に行き横に座る。
「やっぱ美心っちには陰の気を操作するほうが身体に合っているみたい。まずは陰の術から学んでいこ」
「うん、お兄ちゃん教えてくれてありがとう」
「どう致しまして。さ、お義母さんに作っていただいたお弁当を食べよ」
(美心っち、ご機嫌を取り戻してくれて良かった。黒船の件であっしが迷子にさせてしまったことにずっと激おこぷんぷん丸だったし。ここ数日ほど口聞いてくんなかったけど、それも毎日誤りに行って今日やっと許してくれたし、色んなことを教えてあげなくちゃね)
明晴はずっと勘違いしている。
この数日間、美心は毎日遊んでくると言って長屋を飛び出し、町人の間で噂になっている近くの港に運ばれてきた戦艦を探していたのだ。
だが、明確な場所は分からず両親に1人で遠出していることを悟られないためにも探索の時間は多くなかった。
そして、遂に見つけた昨日、美心は呆然自失した。
そこにあったのは研究のため中身を解体されてしまった戦艦らしき残骸のみ。
船が無くてはアヘリカ大陸へ渡ることなど不可能なことを知っている美心はその夜に心を入れ替えた。
(戦艦の強奪は失敗しちまったがよく考えれば蒸気機関が伝わった時点で、更に高性能で安心の日本製戦艦が誕生するはずだ。俺もまだ陰陽術がまともに使えない状況だったし、魔王討伐に向かうのはもっと強くなってからでも良い。何より明晴から色々と情報を得られ急ぐ必要がなくなったからな)
美心の中で最も気がかりだった別の場所で勇者が誕生するのでは無いかという心配は明晴の一言で片付いていた。
今朝、修行場の河原に向かいながら話す2人。
「勇者? 美心っちアニメの見過ぎ――。でも、そうか……美心っち勇者に憧れているんだ? うん、美心っちなら絶対になれるよ。何しろあっしと同じ転生者だし」
(何と戦うのか知んないけど……)
「お兄ちゃんは勇者にならないの?」
「あーし? 別に興味無いし――」
「え、勇者だよ? 魔王から世界を守る偉大な存在なんだよ」
「え、だって面倒くさそうじゃん? 誰かに頼まれてもやる気は起きないかなぁ」
(マジか……いや、よく考えれば明晴の中はJKだ。勇者に興味を持っていないのも何となくだが納得がいく。くくく、だったら明晴は勇者パーティーのヒーラーになってもらって背中を預けるのも有りだな)
明晴暗殺計画は美心の中から消え去った。
だが、不安は残る。
「他の藩で勇者が誕生したりしない?」
「絶対出ないっしょ」
「どうして!? どうして断言できるの!?」
「日本中渡り歩いてきたけど勇者になりたいなんて言ったのは美心っちだけだしぃ……お、心配なら将軍にも伝えてあげちゃうよ」
「えっ……将軍様にあたちが勇者って!?」
「そそそ、勇者勇者」
奉行所の役人でさえも尊信し将軍にも謁見できるほどの人物である明晴の言葉は信じるに値するものだった。
(俺が……俺が勇者! いや、まだ確定したわけではない。将軍に伝えるところを見せてもらうまでは)
「将軍様にはいつお会いになるの?」
「今日にでも行く? この前のことあーしの口からも伝えておきたいし。あ、でも先に修行ね」
(明晴ってノンアポでも将軍と謁見できるほどの大物だったのか!? いや、大物過ぎんだろ!? 一体、何者なんだよ? 安倍晴明と関係がありそうなことは予測できているが……子孫?)
何故か彼の過去のことには一切興味を持たなかった自分を不思議に思う美心であった。
次の話題を振ろうとしたときには河原に到着し修行を始めるのであった。
そして、今に至る。
「ふぅ、相変わらずお義母さんのご飯は美味しいね。今日はお弁当を作ってくれたみたいだけどどうしてなんだろ?」
(おっかあに明晴の近くに居させる時間を極力減らす。会えない日々が続くと自ずと心は離れていってしまうものだし、何より俺にはこれしか家庭を守る手段が思い浮かばねぇ)
「よし、それじゃ美心っち江戸城に行こっか」
(き、キタ――! 勇者誕生の瞬間!)
美心は大きく首を縦に振り明晴の背中に乗る。
(もう相変わらず可愛いなぁ美心っちは。こんなに喜んでくれるなんて余程勇者に憧れているんだろうなぁ。何を相手にすんのか知んないけど)
明晴が飛翔を使い上空に飛び上がる。
そして遠くに見える江戸城に向かって進んでいく。
「そうだ、美心っちってさ英語ペラペラだったじゃん? 前世の時は幼い頃からずっと英語を習っていたん? まさか英才教育とか……」
「違うよ。そもそも外人と話したのも初めてだったし」
「えっ!」
(美心っち、前世で英語を習得していない? もしかして……)
「因みに聞くけどさ、プランス人やゲイツ人とも会話できそう?」
「うん、余裕」
この言葉で明晴はある答えに辿り着いた。
(そうか、女神様の啓示だ。美心っちが転生する時に受け継いだのはこの世界でどの国とも会話できる異能の力だったんだ!)
女神の啓示、異世界転生モノで定番の転生時に貰える特典である。
「美心っち、あーし分かったし」
ドキッ!
美心は明晴の放った言葉で気が動転する。
「な、何が分かったの?」
(まさか俺が転生前は初老の爺で勇者になるためにひたすら努力していたことか!? どうして分かった……まさか、さっきの質問!? 英語を話せるのがこの世界では珍し過ぎた!? これじゃ幼女プレイはもう出来ない! いや、男でそんなのしていたらイタすぎると思われてしまう! だが、まだ確信が持てたわけではない。それまでは演技を続けておくか?)
「天界で女神様に会ったっしょ? その時に啓示を得たんだね」
「……へっ、啓示って?」
「隠さなくても同じ転生者のあーしは分かってるって。あーしは不老不死を得たんだけど……」
「何だと!? えっ、啓示って……もしかして異世界特典のこと?」
「異世界特典って例えがウケるんですけど。うん、そんな感じ。美心っちの場合はどの国の人達でも話せる能力なんだね。平和な能力で良いじゃん」
突然の話に理解が追いつかない美心。
だが異世界特典で不老不死を得たという部分だけは妙に納得がいき、そして同時にこう思った。
(俺、啓示なんて受けてない。ちょっと待て! 異世界特典を貰えるパターンでの転生もあるってのか! 明晴はすんごいのを貰って俺は何も貰ってない……つまりこの世界では俺って単なるモブキャラ?)
激しい動揺が美心に襲いかかる。
そして不老不死というチート能力を得て優雅に空を飛んでいる明晴に嫉妬の炎が燃え始める。
ゴゴゴゴゴ……
「美心っちどしたん? あ、自分の能力が意識できて嬉しいんだ? うんうん、女神様も何の説明も無く渡すから困っちゃうよね。美心っちはどんな言葉も話せるチート能力! 覚えておたほうが良いよ」
「うん、分かった。この能力で世界樹のみんなと仲良しになる」
満円の笑みで明晴に答える美心。
だが、内心では違っていた。
(コロス……いつか絶対にこいつをコロス……不老不死でも肉塊に変えてコロス)
明晴暗殺計画が再び美心の中で浮上した瞬間である。
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