テンプレ勇者にあこがれて

昼神誠

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美心(青年期)編Ⅰ

逝田屋にて(其の参)

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「あら?」

「どしたん、光恵。外に何かあった?」

「たまたま外を見たら彩葉さんが通り過ぎたように思えて……」

 美心は食べるのに必死であったが芽映と光恵は彩葉の友達でもある。
 それに昼食時にした話題で再び盛り上がるのも悪くないと思い口を開く。

「まさか、彼氏と遊びに来ているのかな?」

「美心ちゃん、それだ!」

「え、え、え? まさか、恋人2人の逢瀬を覗き見るつもりですか?」

「モチのロンでしょ。めっちゃ面白そうじゃん」

「あはは」

「駄目ですって芽映。ほら、美心さんも笑ってないでやめるように言って」

 美心は考えた。
 このまま、彩葉の後を追うほうが何か面白そうなイベントが起こる可能性が高いかもしれない。 
 もし、何も起こらなくても芽映の仲裁で仲良くできるかもしれないと……。

「まぁ、バレた時は謝れば良いんだよ。2人は友達なんだし」

「何言ってんの? 美心ちゃんも彩葉の友達だかんね。あの子は昔から恥ずかしがり屋さんで新しい仲間にはあんな感じになっちゃうだけなんだって」

「美心さんが居ない時にはいつも貴女のことを聞いていましたよ」

「そうなの?」

(げっへへ、何だよ。西園寺もなかなか可愛いところあるじゃねぇか。だったら俺の乙女の園に入れてやっても良いかなぁ)

「ということで追いかけよ―――」

「もう、怒られても知らないですよ」

 そうして茶屋を出て彩葉の後を追う。
 しばらく後ろから追いかけて見ていると彼女も何者かの後を追っているようだった。

「相手は彼氏じゃないのかな?」

「あんなにコソコソして誰を? 人が多すぎて追っている人が分からないです」

「西園寺さんが追っているのはあの人達だよ。彼女の頭の向きと視線を想像したらあの2人以外あり得ない」

「えっと……お侍様と高等部の制服の人? 美心ちゃん、凄い!」

「本当だ。想像でしか無いけど目線を考慮したらあの2人になりますね」

 美心の呟きで刹那の瞬間に気付く芽映。

(そうか、彩葉ちゃん。前を歩いている高等部の先輩が好きなんだ。きっと、今日こそ告白しようと後を追いかけているんだ。うん、そうに違いない!)

「美心ちゃん、光恵、彩葉はきっとあの先輩に告白するつもりなんだ。だから後を追いかけて……」

「だったら、余計に見るのは悪いですって」

 意外な展開に美心はさらに楽しみを見出す。

(こ、これは……告白するところを覗き見するイベントか。いや、この場合の解答は覗き見では無い。友人として正面切って見守ってあげる! そして、見事に振られ涙する彼女を優しく抱きしめる俺! ぐへへへ、そうだ! これで彩葉も確実に堕ちる! ひゃふぅ、そうと決まれば急いで合流しないと!)

「そうね、確かに覗きは良くないと思う」

「ほら、美心さんも言っているし……」

「美心ちゃん、さっきまで覗きがバレたら謝ればいいって……」

 美心は首を横に振りこう答える。

「ここは彼女と合流してしまおう。そして、友達としてアドバイスもしてあげて……告白を大成功させてあげるんだ」

 慈愛に溢れた表情で放つその言葉に芽映と光恵は感激する。

「美心ちゃん……なんて優しい……うん、そうだね! だったら先輩達に見つからないように彩葉と合流するよ!」

「そうですね。友人として……あどばいす?を!」

(くくく、計画通り! これでこの2人からの好感度は急上昇! もう攻略キャラの男子などどうでもいい! やっぱ百合展開だ! 乙女ゲー主人公は百合好みでしたってことにして俺の学園生活は花園生活を送るんだ!)

 脳天気な美心はまだ知らない。
 この後の事件に自らが介入することになることなど……。
 一方、京都三条小橋近くの露店にて。

「くぅんくぅん……」

「なんでぇ、汚ねぇ野良犬だな! あっち行きやがれ!」

 ドゴッ
 ゴキッ

 何の躊躇いもなく野良犬を蹴る浪人。
 
 
「へっ? うぎゃぁぁぁ、俺の足がぁぁぁ!」

 浪人の足首が変な向きに曲がっている。

「くぅんくぅん……」

 野良犬は残念な表情をしながら浪人の側を離れていった。

「あんた邪魔やて! そこの犬捕まえてぇや!」

「足が……足がぁぁぁ。貴様の犬かぁ! 俺の足を……」

「ちゃうちゃう、その犬がうちの飼い主やねん。ほら、舞香様はよ陰陽幻術解きなはれって!」

 浪人は意味が分からず呆然としてしまった。

「くぅんくぅん……」

「え、まだ野良犬プレイを続けたい? でも、肥溜めなんかに飛び込んだから、かなり臭うで……舞香様。ええ加減、帰って身体洗わんと」

 そう、この野良犬は舞香本人である。
 ドM以上の残念な性格の舞香は暇を見つけては様々なプレイで人々から痛みを受けるようになっていた。
 だが、美心並みの力がないと逆に攻撃したものがダメージを受けてしまう。
 それは舞香の身体が転生前の女神のオーラにより守られているためだ。
 舞香はオリエンテーションの後から美心を見かけては殴ってもらうように頼み込むのだったが、尽く美心はそれを受け入れなかった。
 当然である。
 学校内で暴力を振るうことだけでなく平民が公家を殴るなど打ち首獄門が確定してもおかしくない案件であることは誰でも知っている。
 それに悪役令嬢として美心の中で確立している舞香が殴って欲しいと頼むこと自体、絶対に裏の考えがあると疑心暗鬼になり一定の距離を保った状態が続いていた。

「嫌です。ずんに首輪をされ引きずられる糞まみれの磨呂……ああっ、良い! 本当は陰陽術など使わず人間の姿の状態で引き摺られたかったのですが……」

「ほんまそれだけは堪忍やて、舞香様。陰陽術の『幻』で他人から犬の姿に見て貰わんとうちがクビになってまうやろ!」

「それも嫌です。だから、渋々犬の姿に化けてあげているのです。それにしても、磨呂に痛みを味わわせてくれる御方は痛しの君しか居ないのですか?」

「そんなん知らんて。うちもはよ帰りたいわ……ふわぁぁぁ」

 大きく欠伸をし年下のずんから放たれる全く興味のない一言。

「んんっ、良い!」

 本日の舞香のプレイは陰陽術の『幻』で犬に化け裸で街に繰り出し、誰でも良いから汚い犬として人間に痛みを受けることが目的であった。
 もちろん、側付きのずんだけがその事を知っている。
 ずんも側付きであるため主人の願いを無下にすることはできず可能な限り協力をしてくれている。
 当然、学園の友人や家族には何が何でも自分の日課を秘密にしておくようずんに厳しく叱責されたこともある。
 だが、舞香にとって主人が側付きに叱責されることは快感だった……。
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