テンプレ勇者にあこがれて

昼神誠

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美心(青年期)編Ⅰ

蜆御門の変にて(其の肆)

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「せぇぇぇい!」

「とりゃぁぁぁ」

「陰陽術、縛!」

「てぇぇぇい!」

「ぬぅぅぅん!」

 まるで計算されたかのような緻密な連携攻撃。
 美心はそのすべてを間一髪で避ける。

(あっぶねぇ……やっぱ達人が連携するとかなりの脅威だな。これはこれですごく良い訓練にもなりそうだけど、顔がバレたら大変なことになるだろうし早いところここから去ろう)

「権藤さんと土方さんが共に考えだした草攻剣《そうこうけん》を避けるなんて……」

「隊長、ここはもう手加減なしで……」

「うん、そうだね。炎を刀に付与……」

 ボゥ!
 ボゥ!
 ボゥ!
 ボゥ!

 沖田と隊士4人の刀が激しく燃え上がる。
 剣気もぐっと上がり並の侍ならたじろいでしまう程の気合を美心に向けられる。

「行きます!」
 
(へへっ、やべぇな……服に耐火性能つけるの忘れていたぜ。さっきみたいにギリギリで躱すと服が燃えて俺の顔がバレちまうかもしれねぇ)

 美心は若干臆しながらもこの状況を楽しんでいた。
 魔王(仮)よりはるかに弱いが周囲にいる長州藩士より強い、美心にとって中ボスとしてはちょうど良い塩梅が気にり身体が欲望を催していた。

「せぇぇぇい!」

 再び隊士の一人から始まる草攻剣。
 襲い来る順番は異なるが背後も取られている以上、ある程度の予想は付いていた。

「我に当てられるかな?」

(この流れるような連携技は俺の背後を狙う事が多い。だったら、後ろにさえ気をつけていれば……)

 止まることなく続く1対5の攻防。
 美心は距離を開けて避けることにも徐々に慣れてきた。

(こっちからも峰打ちくらいなら良いよな? ずっと避けてばかりじゃつまらないし……)
 
 心の中に余裕が生まれ、他事を考えたことによる若干の隙。
 沖田はそれを見逃さなかった。

「はぁぁぁ、せいや!」

 沖田から繰り出される3連斬り。
 一人、一回だけの攻撃が続く中、美心もそれに慣れてしまい完全に頭の中で連撃のことは忘れ去っていた。

「うぉっ!」

 チュンッ!
 パラッ……

 美心の胸元が斬り付けられる。
 ボディースーツの一部が燃え落ちる。

「お……女!?」

「どうして、女がこんな戦場に?」

「泰山府君学園が京に住む住人の避難場所に指定されていたはずだ」

「貴方は誰です? 逃げ遅れたようにはとても見えませんが……」

 美心に恥じらいという言葉はない。
 胸元が見えている程度で身体に傷は入っていない。
 だが、沖田の切っ先が当たったことによる精神的ダメージは大きかった。

(違う! 中ボスで苦戦しているようじゃ、俺TUEEEじゃない! このイベントは俺が無双するイベントだったはずだ! ゆ、許さねぇ……沖田以外、許さねぇ!)

 ネームドキャラにはめっぽう甘く、モブキャラには厳しい美心は刀を抜く。

「……まだ殺るようですね? 何も答えないのなら貴方も幕府に逆らう者としてここで粛清します!」

「エンチャント……サンダー」

 バチッ

 美心の刀から小さな稲光が発生する。
 この学園生活の中、陰陽術の授業を真剣に取り組んだことにより水属性以外にもいくつかの属性を操れるようになった美心。
 だが、彼女が待ち望んでいる炎属性は苦手であった。

「稲光? 陰陽術、雷《らい》を刀に付与したというのか?」

「雷を刀に付与……だと!? そんなの聞いたことがないぞ!」

「当たり前だ! 誰にもできたことがないのだからな!」

「刀との相性の問題だと言われ続けていたが……」

「皆さん、ここが死に時です! 神撰組の名に恥じぬよう!」

「「おおっ!」」

 美心は驚く隊士達の姿を見て最高に嬉しかった。
 モブ隊士がモブに最も相応しい役目である戦闘解説をしてくれている。
 そして、モブは戦闘解説した後は特攻し無残に散る。
 それこそモブのあり方!
 モブの生きる意味である……と美心は信じて疑わない。

「うぉぉぉぉ!」

「チェストォォォ!」

「でぇぇぇい!」

「ぬぅぅぅん!」

 今までと違い四方から同時に片手平突きを繰り出す隊士達。
 沖田は後方で陰陽術を発動させようとしていることも美心は認識していた。

(今なら沖田以外は全員殺れる! モブらしく最後は主人公の糧となり死に晒せぇぇぇ!)

 美心が美しい舞のように刀を横に振り一回転する。
 そして、次の瞬間……。

 バチッ!
 バチバチバチッ……!

 凄まじい火花を上げる。
 沖田は激しい閃光で前方が見えず陰陽術が放てずに居た。
 そして、閃光が収まった後には黒焦げになったモブ隊士が4人。
 美心の姿はそこにはなかった。

「に……逃げられた……のか? ボクだけを置いて1番隊が全滅した? 権藤さんや土方さんに何と説明すれば……」

 絶望の淵に立ちすくむ沖田。
 彼は4人の亡骸を近くにあった台車に乗せ権藤の元へと戻っていく。
 一方、その頃学園では……。

「舞香様、こんなとこでその格好は堪忍やて」

「ずん、問題ありませんよ。この姿を見れば長州藩士は逃げてしまいます。ほら、避難してきた方々も磨呂を見て……ああっ、良い! 今の視線、良い!」

「もうあかんかもしれんなぁ、うちのご主人……」

 舞香は学園の門に自分の体を張り付け、長州藩士に警告を促す文を書いた看板をずんに持たせド変態なプレイを楽しんでいた。
 
「美心ちゃん、トイレに行ったきり戻ってこないね」

「あの子、いつも長いですけれど身体の何処か悪いのでしょうか?」

「美心ってば人が良いから避難してきた町人らのお世話でもしてんじゃね」

 ド変態のことはどうでもいいとして、芽映と光恵・彩葉は寮の中で大人しく待っていた。
 そして、美心が一人だと知ったこの者達がこっそりと寮を出ようと企んでいた。

「ふっ、久しぶりの登場。僕の美心さんが1人で困っていらっしゃると耳にして学園内を探すところさ」

「輝彰、俺の美心を取ろうとしてんじゃねぇよ」

「誰の美心だって? 保科もこっそり抜け出して何処に行くつもりだい?」

「姐さんを探すならオイラに任せてくださいっす!」

「島津まで抜け出して……まさか、みんな美心が心配で?」

「あたぼうよ」

「ふっ、当然じゃないか。彼女が居ない寮はバラのない庭園と同じ」

「そういう、吉良はどうなんだよ? お前も美心が心配なんだろ?」

「お、俺は別にそんなんじゃ……」

 当然のことだが男子4人組が別々で広い学園内を探すが美心は見つからずだった。
 そして、美心は蜆御門前に立ちはだかる謎の男と邂逅を果たしていた。
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