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美心(青年期)編Ⅰ
蜆御門の変にて(其の陸)
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半壊した蜆御門前で戦いを続ける美心と魔王(仮?)。
だが、それは戦いと呼べるようなものではなかった。
以前と同様、魔王(仮?)による一方的な口撃。
「くくく、沖田……やはり弱いな。再び無駄な時間を過ごしてしまいそうだ。それはつまり俺の時間の搾取! 実に許せん!!! 理威狩……タイムハラスメント!」
ピタッ
突如、美心の身体が動かなくなる。
(こ、これは……くそっ、しくじった! 状態異常を与える魔法か!)
魔法では無い。
魔王(仮?)は自身が浪費した時間分だけ美心の時間を奪ったのである。
「くくく、3分と34秒。沖田、貴様は動けぬよ。さて、残り1分弱……貴様が生き延びるかどうかは自身の理威狩次第だ」
(俺は沖田じゃねぇぇぇ! 誰と勘違いしてるの……ってか、本当に理威狩って何なのっ!?)
美心は絶体絶命の危機に陥る。
ブンッ!
魔王(仮?)の拳が美心の顔面に向かって飛んでくる。
(こいつ、まさか……俺の頭部を吹き飛ばして即死を狙うつもりか! 毎度、訳の分からない言葉で攻撃してくるのに、最後は物理なのかよ! ちっくしょぉぉぉ!)
「往ね! 斬り裂きジャップこと沖田玲士!」
(だから沖田じゃありませんってばぁぁぁ!)
美心は死を覚悟し、つい目を閉じてしまう。
ドゴッ!
シュゥゥゥ……
(ん? あ、あれ……?)
ゆっくりと目を開ける美心。
魔王(仮?)の拳が何者かの陰陽術により威力が相殺され、美心の額に直撃する寸前で停止していた。
「このっ! 美心っちから離れろぉぉぉ!」
ボゥ!
巨大な火球が魔王(仮?)に向かって何者かから放たれる。
ガシッ
その火球をいとも簡単に受け止める魔王(仮?)。
「くくく、陰陽術など無駄だ! 理威狩!」
シュゥ
魔王(仮?)が受け止めた火球のサイズが徐々に小さくなっていく。
(だ、誰だ? くそっ、身体がまだ動かなくて後ろを見れねぇ! ってか、陰陽術を弾き返したり威力を軽減させたりできるなんて……ヤツは本当の本当に魔王で確定か!?)
待ち望んだ魔王だと思いたい気持ちと相手がアヘリカに住む魔族ではなく、単なる日本人であるという期待外れな気持ちの間で葛藤する美心。
そんなことは関係無しに魔王(仮)が受け止めた巨大な火球は小さく萎みサッカーボール程度にまで威力を落としていく。
「ほぅ、誰かと思えば貴様か。また氷漬けにでもなりたいようだな」
「うるさい! あんたの術は何となく予想がついたかんね! その火球だって消させてなるものか!」
ボゥ
まるでマシンガンのように小さな火球を魔王(仮)が受け止めた火球に当て威力を取り戻していく。
(凄い、陰陽術にあんな使い方まであったのか!?)
「ぐ……ぐぬぬ! こ、こんなもの……こんな……」
魔王(仮)の受け止めた火球は威力を取り戻し、その直径は軽く10メートルを超えるものにまで達していた。
「うぉぉぉぉ!」
「こ、こんな……こんなものぉぉぉ! うぎゃぁぁぁぁ!」
ヒュゥゥゥ……キラ―――ン
上空の彼方にまで火球とともに吹き飛んでいく魔王(仮)。
「はぁはぁはぁ……美心っち、大丈夫!?」
(明晴だとっ! どうして、ここが!? いや、それよりも……)
美心は驚きを隠せなかった。
それと同時に激しい嫉妬の炎に襲われる。
(ネームドキャラが絶対絶命のピンチになったら助けに来る……それはつまり圧倒的な主人公ムーヴ! この時を待っていたかのように現れるその魂胆! ゆ、許せん! 許せんぞ、明晴ぃぃぃ! あまりにも下衆の極み! 絶対にここで粛清してやるぅぅぅ!)
どちらが下衆かは言うまでもなかろう。
美心はどうやって明晴の息の根を止めるか考えながら、表面上では可愛い女子を演じる。
「お、お兄ちゃん。どうしてここに?」
ギュッ
美心を抱きしめる明晴。
「うん、分かってる。この戦を止めたかったんだよね。美心っちもあっしと同じ義務教育を受けた身。この年代のこの月日に何が起こるか知っていたんだよね」
美心と明晴はこの世界に転生してきた現代人である。
今から10分前、明晴は氷の棺から出られた直後のこと……。
心配させてしまった美心に顔を見せてから蛤御門へと向かうつもりでいた明晴は芽映達と話をした。
「え、美心ちゃんですか? それがトイレに行ったきり……」
「きっと体育館で避難民の介護をしてあげているのかと……」
「私達はここを動かないように先生から言われてて……」
学校内を探し回る明晴。
そして、学校に居ない美心の行動を勝手に想像する。
(そうか、美心っちも蛤御門の変のことを義務教育で受けて知っているんだ! こっちの世界じゃ蛤じゃなくて蜆だけど、そんなことはどっちでも良い! この後に長州征伐が起こってしまうと、弱った長州藩を狙って下関がアヘリカやエゲレスなどの四国艦隊に制圧されてしまう。例え、一時的にとはいえ海外からの占領を許すわけにはいかない! あっしが今まで頑張ってきた日本が世界最強という事実が揺らいでしまう。美心っちもそれを予想して……あっしの馬鹿ちん! 今すぐに助けに行かないと!)
学校から飛び出し火の海と化していく京の街を疾風の如き速さで移動する明晴。
蜆御門に到着した時には、すでに半壊しており帝の危機を悟った。
(こっちの世界じゃ長州藩はここまで強くなっているの!? 会津藩や薩摩藩は……西郷さんはどうなったのだろう? 今のままじゃ帝が危ない! だけど、美心っちを探さ……んん、あれは!)
御所内に歩みを進めようと思った時、明晴の瞳に映ったのは謎の男と目深のフードを被った女性の姿。
明晴はすぐに理解した。
明晴の陰陽術を打ち消した謎の男の前で恐怖により動けない女性こそ美心なのだと。
だが、それは戦いと呼べるようなものではなかった。
以前と同様、魔王(仮?)による一方的な口撃。
「くくく、沖田……やはり弱いな。再び無駄な時間を過ごしてしまいそうだ。それはつまり俺の時間の搾取! 実に許せん!!! 理威狩……タイムハラスメント!」
ピタッ
突如、美心の身体が動かなくなる。
(こ、これは……くそっ、しくじった! 状態異常を与える魔法か!)
魔法では無い。
魔王(仮?)は自身が浪費した時間分だけ美心の時間を奪ったのである。
「くくく、3分と34秒。沖田、貴様は動けぬよ。さて、残り1分弱……貴様が生き延びるかどうかは自身の理威狩次第だ」
(俺は沖田じゃねぇぇぇ! 誰と勘違いしてるの……ってか、本当に理威狩って何なのっ!?)
美心は絶体絶命の危機に陥る。
ブンッ!
魔王(仮?)の拳が美心の顔面に向かって飛んでくる。
(こいつ、まさか……俺の頭部を吹き飛ばして即死を狙うつもりか! 毎度、訳の分からない言葉で攻撃してくるのに、最後は物理なのかよ! ちっくしょぉぉぉ!)
「往ね! 斬り裂きジャップこと沖田玲士!」
(だから沖田じゃありませんってばぁぁぁ!)
美心は死を覚悟し、つい目を閉じてしまう。
ドゴッ!
シュゥゥゥ……
(ん? あ、あれ……?)
ゆっくりと目を開ける美心。
魔王(仮?)の拳が何者かの陰陽術により威力が相殺され、美心の額に直撃する寸前で停止していた。
「このっ! 美心っちから離れろぉぉぉ!」
ボゥ!
巨大な火球が魔王(仮?)に向かって何者かから放たれる。
ガシッ
その火球をいとも簡単に受け止める魔王(仮?)。
「くくく、陰陽術など無駄だ! 理威狩!」
シュゥ
魔王(仮?)が受け止めた火球のサイズが徐々に小さくなっていく。
(だ、誰だ? くそっ、身体がまだ動かなくて後ろを見れねぇ! ってか、陰陽術を弾き返したり威力を軽減させたりできるなんて……ヤツは本当の本当に魔王で確定か!?)
待ち望んだ魔王だと思いたい気持ちと相手がアヘリカに住む魔族ではなく、単なる日本人であるという期待外れな気持ちの間で葛藤する美心。
そんなことは関係無しに魔王(仮)が受け止めた巨大な火球は小さく萎みサッカーボール程度にまで威力を落としていく。
「ほぅ、誰かと思えば貴様か。また氷漬けにでもなりたいようだな」
「うるさい! あんたの術は何となく予想がついたかんね! その火球だって消させてなるものか!」
ボゥ
まるでマシンガンのように小さな火球を魔王(仮)が受け止めた火球に当て威力を取り戻していく。
(凄い、陰陽術にあんな使い方まであったのか!?)
「ぐ……ぐぬぬ! こ、こんなもの……こんな……」
魔王(仮)の受け止めた火球は威力を取り戻し、その直径は軽く10メートルを超えるものにまで達していた。
「うぉぉぉぉ!」
「こ、こんな……こんなものぉぉぉ! うぎゃぁぁぁぁ!」
ヒュゥゥゥ……キラ―――ン
上空の彼方にまで火球とともに吹き飛んでいく魔王(仮)。
「はぁはぁはぁ……美心っち、大丈夫!?」
(明晴だとっ! どうして、ここが!? いや、それよりも……)
美心は驚きを隠せなかった。
それと同時に激しい嫉妬の炎に襲われる。
(ネームドキャラが絶対絶命のピンチになったら助けに来る……それはつまり圧倒的な主人公ムーヴ! この時を待っていたかのように現れるその魂胆! ゆ、許せん! 許せんぞ、明晴ぃぃぃ! あまりにも下衆の極み! 絶対にここで粛清してやるぅぅぅ!)
どちらが下衆かは言うまでもなかろう。
美心はどうやって明晴の息の根を止めるか考えながら、表面上では可愛い女子を演じる。
「お、お兄ちゃん。どうしてここに?」
ギュッ
美心を抱きしめる明晴。
「うん、分かってる。この戦を止めたかったんだよね。美心っちもあっしと同じ義務教育を受けた身。この年代のこの月日に何が起こるか知っていたんだよね」
美心と明晴はこの世界に転生してきた現代人である。
今から10分前、明晴は氷の棺から出られた直後のこと……。
心配させてしまった美心に顔を見せてから蛤御門へと向かうつもりでいた明晴は芽映達と話をした。
「え、美心ちゃんですか? それがトイレに行ったきり……」
「きっと体育館で避難民の介護をしてあげているのかと……」
「私達はここを動かないように先生から言われてて……」
学校内を探し回る明晴。
そして、学校に居ない美心の行動を勝手に想像する。
(そうか、美心っちも蛤御門の変のことを義務教育で受けて知っているんだ! こっちの世界じゃ蛤じゃなくて蜆だけど、そんなことはどっちでも良い! この後に長州征伐が起こってしまうと、弱った長州藩を狙って下関がアヘリカやエゲレスなどの四国艦隊に制圧されてしまう。例え、一時的にとはいえ海外からの占領を許すわけにはいかない! あっしが今まで頑張ってきた日本が世界最強という事実が揺らいでしまう。美心っちもそれを予想して……あっしの馬鹿ちん! 今すぐに助けに行かないと!)
学校から飛び出し火の海と化していく京の街を疾風の如き速さで移動する明晴。
蜆御門に到着した時には、すでに半壊しており帝の危機を悟った。
(こっちの世界じゃ長州藩はここまで強くなっているの!? 会津藩や薩摩藩は……西郷さんはどうなったのだろう? 今のままじゃ帝が危ない! だけど、美心っちを探さ……んん、あれは!)
御所内に歩みを進めようと思った時、明晴の瞳に映ったのは謎の男と目深のフードを被った女性の姿。
明晴はすぐに理解した。
明晴の陰陽術を打ち消した謎の男の前で恐怖により動けない女性こそ美心なのだと。
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