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結社崩壊編Ⅰ
強襲にて(其の参)
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日本人少女の血液から構成される賢者の石は、その手に持つことで日本人以外でも陰陽術を発動させることができる。
だが、使用できる陰陽術はせいぜい第3境地が限界であった。
すでに第12境地にまで達している美心はおろか、第5境地までの陰陽術を使いこなす町奉行の者にさえ敵わない。
そのため、賢者の石を所持している海外の軍部はそれを新たな兵器に変える研究を日夜続けていた。
そして、ついに悪魔教から資金提供を受けていたエゲレス陸軍の一部は研究開発の末、賢者の石を兵器として誕生させてしまう。
「それがこの弾丸……まだ正規なネームは付いていなくてねぇ。我々の第4部隊では対日本人4ミリ弾と名付けている。こいつの利点は既存のマルティニ・ヘンリー銃でも使用可能なところでな……ただし、その威力は通常の銃弾の100倍以上に相当する。さらに良いことにこいつは陰陽術の影響を受けない。それがどういうことか分かるかね?」
シリウスはニック大佐の問いに答える気など更々無かった。
ほとんどの仲間達がやられ倒れている現状、如何に皆をこの場から逃すか、ただそれだけを考えていた。
(海外では陰陽術を使えない。そのことについては5年前にリゲルとの会話から、ある程度把握できている。回復陰陽術さえ使えれば皆を治せるのに……どうすればこの現状を打破できる?)
「くっくくく、分からないかね? 日本人でもこの銃弾を防ぐことは不可能というわけだ。がーっはっはっは! 実戦テストは順調! この銃弾を大量生産した暁には日本を植民地にしてくれる……」
ニック大佐の言葉に怒りを覚えたシリウスは無謀にも手に持っていた日本刀で斬りかかる。
「遅い!」
パァン
「いつっ!」
だが、迂闊にもニック大佐が隠し持っていた銃で左足を貫かれてしまった。
「これで動ける娘は0か」
「はっ、そのようです!」
「よし、生きている娘は全員捕らえろ。重傷者は拘束し治療しろ。死んでいる娘は体内に残る血液を採取次第、1か所に集め燃やせ」
「サー、イエッサー!」
軍人達は陣を解き星々の庭園の隊員達を捕らえていく。
虫の息である隊員も例外ではなく、後からやってきた蒸気機関式装甲車に乗せられていく。
「わ、私達を……どうする……つもり?」
少しでも抗おうとニック大佐に話しかけるシリウス。
「もちろん、血を頂く。だが、安心したまえ。悪魔教のように巨大搾油機にかけ血を搾り取るわけではない。それでは血液を集めるのに非常に効率が悪い……」
「私達を生かし続け血液を定期に抜き取るつもり?」
「ああ、その方が効率が良い。だが、貴様達に逃亡される危険性もある」
「ええ、勿論傷が治ったらそうさせていただくわ」
「くっくくく……悪魔教と同じような飼育の仕方はせんよ。貴様達はその力の危険性も考慮し飼育ではなく栽培させていただく」
「栽培!? どういうこと!?」
ニック大佐は悪魔のような微笑みでシリウスの耳元に呟く。
「拠点に戻ったらまずとある薬物で貴様達の意識を奪わせてもらう。その後は簡単だ。鼻からチューブで食道まで繋ぎ定期的に栄養を与え、その体内で血液を生産していただく。糞尿の処理は安心したまえ。意識のない貴様達は垂れ流すだけで結構。衛生面は労働者に毎日掃除をさせるつもりだ。身体もしっかり洗ってくれる。病気にかかると厄介なのにでね……くくっ、栽培の意味がわかったかね?」
あまりにも非人道的な方法にシリウスは無我夢中で両腕を拘束する軍人を振り払い、ニック大佐に襲いかかる。
「き、貴様に人の心はあるのかぁぁぁ」
ドゴッ
だが、軍人達に再び取り押さえられ地面に顔を埋められる。
「おおっ、今のは危なかった。惜しかったぁ……私を殺せば栽培されずに済んだかも知れぬというのに。くくっ、人の心は当然あるぞ。だが、以前に話した通り日本人は不思議な力を使う人の形をしたモンスターだ。化け物をどのように扱おうと私の道徳心は痛まない。理解できたかね?」
「ぐっ、ぐぐっ……許さない! お前は悪魔だ!」
「悪魔教のような残念な連中と同じにされるとは心外だな。これ以上、騒がれると皆の仕事の邪魔になる。少し、大人しくしていてもらおう」
ガッ
ニック大佐がシリウスの首筋に衝撃を当て意識を奪う。
他にも痛みで泣き叫ぶ隊員達を軍人が大人しくさせていった。
「ブラボー、皆の者よくやった! 作戦は成功だ。すぐに拠点へと戻り、この少女達を栽培できる環境を整えるとしよう」
そう言い放ちニック大佐は戦車に乗り込む。
軍人達が再び隊列を整え牧場を離れる。
「うまくいきましたね、ニック大佐」
「当然の結果だ。死傷者の数は?」
「ええっと……重傷者19名、死亡数は拠点へ戻るまでに息絶える者がいるかもしれないので現状では8名ですね」
「息のある少女は何をしてでも生かせ。死なれては血液製造できないのでな」
「はぁ……しかし……」
「むむっ? 全隊停止!」
深い霧の森の中……ニック大佐が予想していない出来事が起こった。
「もう、作戦は終わり?」
怪しげな人影がニック大佐の前に立ち塞がる。
全身を黒いマントで覆い目深のフードを被っているため男女の判別は付かない。
身長からして少年か少女だとニック大佐は判断する。
そして、星々の庭園エゲレス支部の近くであることから、相手は確実に日本人であると考えに至ったニック大佐は右手を上げ全隊に合図をする。
「前方に攻撃開始!」
バババババ!
春夏秋冬美心に育てられた星々の庭園は例え1人であろうと油断してはならない。
悪魔教からの情報提供でその存在を知っていた彼は容赦無き攻撃を相手に与える。
「攻撃停止!」
銃撃が止むと前方にいた人影は何処にも見当たらない。
(逃したか……いや、まだ相手は近くに居る! 配下共に探させるか? 駄目だ、その判断は誤っている。1人になった者から葬られていくに違いない)
「全方位守備陣形!」
「大佐、ここでは無理です! 木々が邪魔をし必ず隙が生まれてしまいます!」
「隙あり」
ドシャ!
頭上の枝から飛び降り1人の軍人を頭から串刺しにする黒ずくめの人影。
その姿はすぐに森の中へと消えてしまう。
「それでも構わぬ! 守備陣系を取り後退! 頭上にも注意しろ!」
エゲレス陸軍第4部隊の撤退戦が開始される。
だが、使用できる陰陽術はせいぜい第3境地が限界であった。
すでに第12境地にまで達している美心はおろか、第5境地までの陰陽術を使いこなす町奉行の者にさえ敵わない。
そのため、賢者の石を所持している海外の軍部はそれを新たな兵器に変える研究を日夜続けていた。
そして、ついに悪魔教から資金提供を受けていたエゲレス陸軍の一部は研究開発の末、賢者の石を兵器として誕生させてしまう。
「それがこの弾丸……まだ正規なネームは付いていなくてねぇ。我々の第4部隊では対日本人4ミリ弾と名付けている。こいつの利点は既存のマルティニ・ヘンリー銃でも使用可能なところでな……ただし、その威力は通常の銃弾の100倍以上に相当する。さらに良いことにこいつは陰陽術の影響を受けない。それがどういうことか分かるかね?」
シリウスはニック大佐の問いに答える気など更々無かった。
ほとんどの仲間達がやられ倒れている現状、如何に皆をこの場から逃すか、ただそれだけを考えていた。
(海外では陰陽術を使えない。そのことについては5年前にリゲルとの会話から、ある程度把握できている。回復陰陽術さえ使えれば皆を治せるのに……どうすればこの現状を打破できる?)
「くっくくく、分からないかね? 日本人でもこの銃弾を防ぐことは不可能というわけだ。がーっはっはっは! 実戦テストは順調! この銃弾を大量生産した暁には日本を植民地にしてくれる……」
ニック大佐の言葉に怒りを覚えたシリウスは無謀にも手に持っていた日本刀で斬りかかる。
「遅い!」
パァン
「いつっ!」
だが、迂闊にもニック大佐が隠し持っていた銃で左足を貫かれてしまった。
「これで動ける娘は0か」
「はっ、そのようです!」
「よし、生きている娘は全員捕らえろ。重傷者は拘束し治療しろ。死んでいる娘は体内に残る血液を採取次第、1か所に集め燃やせ」
「サー、イエッサー!」
軍人達は陣を解き星々の庭園の隊員達を捕らえていく。
虫の息である隊員も例外ではなく、後からやってきた蒸気機関式装甲車に乗せられていく。
「わ、私達を……どうする……つもり?」
少しでも抗おうとニック大佐に話しかけるシリウス。
「もちろん、血を頂く。だが、安心したまえ。悪魔教のように巨大搾油機にかけ血を搾り取るわけではない。それでは血液を集めるのに非常に効率が悪い……」
「私達を生かし続け血液を定期に抜き取るつもり?」
「ああ、その方が効率が良い。だが、貴様達に逃亡される危険性もある」
「ええ、勿論傷が治ったらそうさせていただくわ」
「くっくくく……悪魔教と同じような飼育の仕方はせんよ。貴様達はその力の危険性も考慮し飼育ではなく栽培させていただく」
「栽培!? どういうこと!?」
ニック大佐は悪魔のような微笑みでシリウスの耳元に呟く。
「拠点に戻ったらまずとある薬物で貴様達の意識を奪わせてもらう。その後は簡単だ。鼻からチューブで食道まで繋ぎ定期的に栄養を与え、その体内で血液を生産していただく。糞尿の処理は安心したまえ。意識のない貴様達は垂れ流すだけで結構。衛生面は労働者に毎日掃除をさせるつもりだ。身体もしっかり洗ってくれる。病気にかかると厄介なのにでね……くくっ、栽培の意味がわかったかね?」
あまりにも非人道的な方法にシリウスは無我夢中で両腕を拘束する軍人を振り払い、ニック大佐に襲いかかる。
「き、貴様に人の心はあるのかぁぁぁ」
ドゴッ
だが、軍人達に再び取り押さえられ地面に顔を埋められる。
「おおっ、今のは危なかった。惜しかったぁ……私を殺せば栽培されずに済んだかも知れぬというのに。くくっ、人の心は当然あるぞ。だが、以前に話した通り日本人は不思議な力を使う人の形をしたモンスターだ。化け物をどのように扱おうと私の道徳心は痛まない。理解できたかね?」
「ぐっ、ぐぐっ……許さない! お前は悪魔だ!」
「悪魔教のような残念な連中と同じにされるとは心外だな。これ以上、騒がれると皆の仕事の邪魔になる。少し、大人しくしていてもらおう」
ガッ
ニック大佐がシリウスの首筋に衝撃を当て意識を奪う。
他にも痛みで泣き叫ぶ隊員達を軍人が大人しくさせていった。
「ブラボー、皆の者よくやった! 作戦は成功だ。すぐに拠点へと戻り、この少女達を栽培できる環境を整えるとしよう」
そう言い放ちニック大佐は戦車に乗り込む。
軍人達が再び隊列を整え牧場を離れる。
「うまくいきましたね、ニック大佐」
「当然の結果だ。死傷者の数は?」
「ええっと……重傷者19名、死亡数は拠点へ戻るまでに息絶える者がいるかもしれないので現状では8名ですね」
「息のある少女は何をしてでも生かせ。死なれては血液製造できないのでな」
「はぁ……しかし……」
「むむっ? 全隊停止!」
深い霧の森の中……ニック大佐が予想していない出来事が起こった。
「もう、作戦は終わり?」
怪しげな人影がニック大佐の前に立ち塞がる。
全身を黒いマントで覆い目深のフードを被っているため男女の判別は付かない。
身長からして少年か少女だとニック大佐は判断する。
そして、星々の庭園エゲレス支部の近くであることから、相手は確実に日本人であると考えに至ったニック大佐は右手を上げ全隊に合図をする。
「前方に攻撃開始!」
バババババ!
春夏秋冬美心に育てられた星々の庭園は例え1人であろうと油断してはならない。
悪魔教からの情報提供でその存在を知っていた彼は容赦無き攻撃を相手に与える。
「攻撃停止!」
銃撃が止むと前方にいた人影は何処にも見当たらない。
(逃したか……いや、まだ相手は近くに居る! 配下共に探させるか? 駄目だ、その判断は誤っている。1人になった者から葬られていくに違いない)
「全方位守備陣形!」
「大佐、ここでは無理です! 木々が邪魔をし必ず隙が生まれてしまいます!」
「隙あり」
ドシャ!
頭上の枝から飛び降り1人の軍人を頭から串刺しにする黒ずくめの人影。
その姿はすぐに森の中へと消えてしまう。
「それでも構わぬ! 守備陣系を取り後退! 頭上にも注意しろ!」
エゲレス陸軍第4部隊の撤退戦が開始される。
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