テンプレ勇者にあこがれて

昼神誠

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結社崩壊編Ⅰ

強襲にて(其の伍)

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「貴方達の傷を治療したのは感謝の意を表すため」

「感……謝? 我らエゲレス陸軍は春夏秋冬財閥から感謝されるようなことなど……」

 カペラはニック大佐に対し微笑みながら言葉を返す。

「賢者の石を開発してくれてどうもありがとう。これで拙達、日本人は海外に武力を手に侵攻できますえ」

 その言葉にニック大佐は自分が何を作りだしてしまったのか深く後悔した。
 日本国内のみで発動できる陰陽術はあくまでも自国防衛においては最強を誇っている。
 だが、そのような力を持っているにも限らず、古代から日本人は海外進出を果たしていない。
 黒村江の戦いや豊臣秀猿の朝鮮出兵のように例外はあるがどれも敗退している。

「ま、まさか……貴様らジャップは!?」

「あくまでも可能になったという仮定の話でありんす……こほん、シリウス。いつまで寝ているでありんすか?」

 ダァン

「カペラ、助かったわ!」

「援軍に来てくれたのはカペラだったのか。ふふっ、計算通りだ!」

「カペラ、元気にしておるようでござるな」

「ふぇぇぇん、カペラぁぁぁ! 久しぶりぃぃぃ」

「どなたでありますですか?」

 装甲車の扉がこじ開けられ中から飛び出る星々の庭園隊員達。
 広域展開した回復陰陽術でシリウス達も回復していたことなど脳裏から離れていたニック大佐は血の気が失せ愕然とする。
 
「カペラ、この者達は悪魔の眷属よ! 非道な手段で症状の生き血を得ようとしている!」

「拙者も危うかったでござる」

「殺っていいでございますですか?」

「ひっ! 近寄るな、ジャップモンスター共!」

 ニック大佐は眼前に立つ少女達の鋭い瞳に慄く。
 背後にはゾンビ、前には少女の姿をした化け物。
 勝ち目があるかないかの次元では無い。
 蹂躙されて死を迎えるか、ただ安らかな死を迎えられるか、その2つだけが脳裏をよぎる。

「はいはい、みんなは拠点へ戻るでありんす。シリウス、皆を引き連れて帰ること」

「カペラ、もしかして1人で相手をするつもり?」

「1人でなければできないこともありんすえ」

「でも、貴女は最弱の……」

「背後にいるゾン兵衛は? 奴らが召喚したでござるか!? それに何故大人しいでござる!?」

「あれは敵ではありませんえ。突然、湧いて出てからずっとあのままでありんす」

 真実を何故か告げないカペラ。
 勿論、そのことには訳があるためだ。

「ふぇぇぇ……ゾン兵衛、怖いよぉぉぉ」 

「ふふっ、何か計算があるんだろ? シリウス、カペラに任せて寺に戻ろう」

 その言葉を信じたシリウスは皆を引き連れ牧場の方へ戻っていった。
 それを見守った後、ニック大佐の方へ目を向けるカペラ。
 逃げ出す気力も失せていたのか、その場で泣き叫び命だけは助けてくれと懇願する。

「あ……ああ……許してくれ! 許してくれ! この通りだ!」

「うわぁぁ、離せぇぇぇ!」

「ひぃぃ、ミゲル! 何故こんなことを!」

 ゾンビ兵士が方方へ散った軍人達を捕まえニック大佐の周辺に集める。

「ひぃふぅみぃ……ちょうど80人。残りは捕まえられなかったでありんすか?」

 ゾンビ兵士が揃って首を縦に振る。
 
「そう。まぁ、良いでしょう」

 ドサッ……
 ドサッドサッドサッ

 すべてのゾンビがその場に倒れ、ただの亡骸に変わる。

「何をするつもりだ? 配下の者はどうしてくれても構わないから、どうか私の命だけは……頼む! 妻子が……居るんだ!」

「大佐! 俺たちを見捨てるつもりですか!?」

「黙れ! 貴様ら雑兵などいつでも集められる! だが、私は大佐なんだ! 私はエゲレス軍にとって……」

 カペラは呆れた表情をし、ニック大佐と軍人達に話しかける。

「はいはい、仲間割れは後ですること。ま、あの世でありんすけれど……」

 キィィィン

 軍人達の足元が淡い光を放つ。

「な、何をするのかと聞いている!?」

「何って……貴方達に殺された仲間を蘇生させるだけ」

「だったら、我らは必要ないだろう! 何故、このようなことをする!」

「それは蘇生には代価が必要だからでありんす」

「だ、代価?」

「1名の死者につき健康な10名の命を差し出す。そのために貴方達の怪我まで治したでありんすえ」

「は? 1人に10人?」

 ニック大佐はカペラの話すことを理解できず脳内が混乱する。
 ただ、1つ確実なのはこのままでは命を失うと言う事実。
 それだけで恐怖に屈するのは簡単だった。

「いやだぁぁぁ! 命だけは助けてくれ!」

「身体が動かない!? 頼む、頼む、許して!」

「貴様はそれでも人間か! これほど謝罪しているというのに!」

「誰か何とかしろ! 誰でも良い! 私を助けろぉぉぉ!」

「実に醜いでありんすね。でも、ま……それが人間か。誰にでも命に優先順位というものが存在するでありんす。大抵の人はまず我が身、次に家族であろうけれど……拙にとっては第1にマスター、第2に仲間、第3に自分……その他は第4でありんす」

「違う! 僕は家族が1番だ! 家族のためなら僕はいつでも死ぬつもりだ!」

「へぇ、見上げた志を持つ兵士も居るでありんすね。良いことでありんす……が、もう手遅れでありんす」

「貴様ら五月蝿いぞ! 私だけでも私でも助けてくれ……頼む!」

 呆れた表情を見せるカペラ。
 彼女の耳に兵士達の悲痛な叫びはすでに届きはしない。

「どちらが先に仕掛けたか貴方達はお分かり? これはその罰でありんす」

「こ、このジャップモンスターがぁぁぁ!」

 パァン
 ドサドサドサッ

 カペラが両手を合掌すると眼前のニック大佐や兵士達は意識を失ったかのようにその場で倒れる。
 ただ、彼らはすでに息を引き取っていた。

「ふぅ、これにて終了。ネクロマンサー……マスターから与えられた拙だけの特別なクラス。これを隠し拙はこの地で彼女達と上手くやっていけるか……はぁぁ、お先が不安でありんす」

 牧場へ歩みを進めるカペラ。
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