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第四章 秋
Order28. 分析
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髪はくせのない黒
前髪はさらりと落としている
瞳は一重でシャープだ
背は一七二、三ってとこ 細身なのでスラッとして見える
年は二十五、六か
店のマスターにしてはかなり若い
落ち着いて見える分、もしかしたらもっと若いのかもしれない
声は高くもなく低過ぎもなく
ちょっと掠れたように響くのが印象に残る
口調はゆっくりで、表情はどこまでも穏やか
全体的に悪くない
嫌いじゃないタイプだ
シャツの胸ポケットには煙草が入っているようだ
ということは愛煙家か
最近喫煙場所が減ってきたので、肩身の狭い想いをしているかもしれない
コーヒーを淹れる様子からどうやら右利きのようだ
カウンターに腰掛けるやたら馴れ馴れしいおじさんと話してる
常連さんのようだ
店の壁は外壁と同じ無垢材。
店のあちこちに海外写真が無造作にピンで留められている。
常連さんの話によると、どうやらマスターの趣味らしく、年に二回店を閉めて海外へ旅に出かけるという。という事は、この写真は全てマスター自身がその土地土地で撮影したものであろうか。
写真は東京ではありえない程の満天の星だったり、オーロラであったり、見た事もないような遺跡であったり廃墟の建物であったり。なかなかセンスが良い。
この店の中にいると、どこか遠い異国にいるような気にさせられる。とても東京のど真ん中にいるとは思えない不思議な空間だ。
若い女の子が入って来た
挨拶の仕方からどうやらここでアルバイトをしているらしい
女の子は十九、二十歳位に見える
大学生っぽい
髪は長いストレートで少しベージュがかったナチュラルな色
目は大き過ぎず小さ過ぎず、どことなく知的さと憂いさを含んでいる
女の目から見ても魅力的な可愛さをもっている
まぁあたしには負けるけどね
男と同じで、私生活が全く見えてこない
優等生っぽいせいだろうか
何故かあたしは苦手なタイプのような気がする
黒の長袖カットソーにブラウン系のロングスカート
荷物を置いて髪を束ね、店の奥にあるピアノに一直線に向かう
どうもここで弾き語りのアルバイトをしているようだ
何か一曲弾き始めた
どこかで聴いた事があるような……
序盤はゆっくりで穏やかだが中盤から激しさを増す
確かショパンだったと思うが想い出せない
カウンターの常連らしきおじさんがにこにこしながら聴き入った後
小銭を置いて立ち上がる
男と女の子がおじさんを見送る
店内にはお客がいなくなった
いや あたしひとりだけ
男と女の子がこちらを見ている
見ている
見て……
「え?!」
入口に近いテーブルに座っている若い女が、めがね越しにすっとんきょうな声をあげた。テーブルの上には、飲みかけのモカとお水とおしぼり。手元にはB5版の大学ノートとシャープペンシル。
しきりに動かしていた右手がまるで鼓動が止まったようにピタリと停まった。視線の先には、じっと彼女を見ている青年と少女がいる。
「あの、何か……」
女の声が上ずった。青年がにっこりと微笑む。
「コーヒーのお代わりはどうですか?」
「いえ、あの、まだ、その……」
女はすっかりうろたえてしまい、大学ノートをパタンと閉じて立ち上がった。そして店内を不自然に見回すと、
「いやー、素敵なお店ですねぇ。前々から興味あったんですよ。こんなところだったとは。はぁはぁ、なるほどー」
その答えっぷりに、少女はぽかんとしている。青年は一見真面目な顔をしているが、少女には笑いをこらえているようにも見えた。
女は一瞬目を泳がせると、鼻の上のめがねを中指で持ち上げた。そして慌てて水色のカバンから財布を取り出し、千円札を一枚置いてテーブルを離れた。
「あ、お釣りですよ」
「いえ、いらないわ。サービスよ、サービス!!」
女はそう言ってふたりの顔も見ずに店を飛び出した。ガラーンという大きなベルの音が鳴り響き、秋風を巻き込んで扉は閉まる。
後にはしんとした空気が広がった。
「なぁに、今の人」
「さぁ……」
「初めて来る人よね」
「うん」
「わたし達やお店の中をやたら観察してた……」
「そうだね」
ふたりで何故か恐る恐る彼女のいたテーブルに近づいてみる。少女はお盆に、半分コーヒーが残ったままのカップとお水とおしぼりとお札を乗せ、カウンターに向かった。突然、背後で青年が吹き出した。
「な、なぁに?」
少女が驚いて振り返る。
「どうやら、近い内にもう一度彼女来そうだよ。あるいは永遠に来ないかどちらかだ」
「どういう事?」
青年は、座席に置きっ放しになっていたオレンジ色の大学ノートを顔の辺りに掲げた。
少女は苦笑いしつつも、「またややこしい事にならなきゃいいけど……」と小さな声で呟いた。
前髪はさらりと落としている
瞳は一重でシャープだ
背は一七二、三ってとこ 細身なのでスラッとして見える
年は二十五、六か
店のマスターにしてはかなり若い
落ち着いて見える分、もしかしたらもっと若いのかもしれない
声は高くもなく低過ぎもなく
ちょっと掠れたように響くのが印象に残る
口調はゆっくりで、表情はどこまでも穏やか
全体的に悪くない
嫌いじゃないタイプだ
シャツの胸ポケットには煙草が入っているようだ
ということは愛煙家か
最近喫煙場所が減ってきたので、肩身の狭い想いをしているかもしれない
コーヒーを淹れる様子からどうやら右利きのようだ
カウンターに腰掛けるやたら馴れ馴れしいおじさんと話してる
常連さんのようだ
店の壁は外壁と同じ無垢材。
店のあちこちに海外写真が無造作にピンで留められている。
常連さんの話によると、どうやらマスターの趣味らしく、年に二回店を閉めて海外へ旅に出かけるという。という事は、この写真は全てマスター自身がその土地土地で撮影したものであろうか。
写真は東京ではありえない程の満天の星だったり、オーロラであったり、見た事もないような遺跡であったり廃墟の建物であったり。なかなかセンスが良い。
この店の中にいると、どこか遠い異国にいるような気にさせられる。とても東京のど真ん中にいるとは思えない不思議な空間だ。
若い女の子が入って来た
挨拶の仕方からどうやらここでアルバイトをしているらしい
女の子は十九、二十歳位に見える
大学生っぽい
髪は長いストレートで少しベージュがかったナチュラルな色
目は大き過ぎず小さ過ぎず、どことなく知的さと憂いさを含んでいる
女の目から見ても魅力的な可愛さをもっている
まぁあたしには負けるけどね
男と同じで、私生活が全く見えてこない
優等生っぽいせいだろうか
何故かあたしは苦手なタイプのような気がする
黒の長袖カットソーにブラウン系のロングスカート
荷物を置いて髪を束ね、店の奥にあるピアノに一直線に向かう
どうもここで弾き語りのアルバイトをしているようだ
何か一曲弾き始めた
どこかで聴いた事があるような……
序盤はゆっくりで穏やかだが中盤から激しさを増す
確かショパンだったと思うが想い出せない
カウンターの常連らしきおじさんがにこにこしながら聴き入った後
小銭を置いて立ち上がる
男と女の子がおじさんを見送る
店内にはお客がいなくなった
いや あたしひとりだけ
男と女の子がこちらを見ている
見ている
見て……
「え?!」
入口に近いテーブルに座っている若い女が、めがね越しにすっとんきょうな声をあげた。テーブルの上には、飲みかけのモカとお水とおしぼり。手元にはB5版の大学ノートとシャープペンシル。
しきりに動かしていた右手がまるで鼓動が止まったようにピタリと停まった。視線の先には、じっと彼女を見ている青年と少女がいる。
「あの、何か……」
女の声が上ずった。青年がにっこりと微笑む。
「コーヒーのお代わりはどうですか?」
「いえ、あの、まだ、その……」
女はすっかりうろたえてしまい、大学ノートをパタンと閉じて立ち上がった。そして店内を不自然に見回すと、
「いやー、素敵なお店ですねぇ。前々から興味あったんですよ。こんなところだったとは。はぁはぁ、なるほどー」
その答えっぷりに、少女はぽかんとしている。青年は一見真面目な顔をしているが、少女には笑いをこらえているようにも見えた。
女は一瞬目を泳がせると、鼻の上のめがねを中指で持ち上げた。そして慌てて水色のカバンから財布を取り出し、千円札を一枚置いてテーブルを離れた。
「あ、お釣りですよ」
「いえ、いらないわ。サービスよ、サービス!!」
女はそう言ってふたりの顔も見ずに店を飛び出した。ガラーンという大きなベルの音が鳴り響き、秋風を巻き込んで扉は閉まる。
後にはしんとした空気が広がった。
「なぁに、今の人」
「さぁ……」
「初めて来る人よね」
「うん」
「わたし達やお店の中をやたら観察してた……」
「そうだね」
ふたりで何故か恐る恐る彼女のいたテーブルに近づいてみる。少女はお盆に、半分コーヒーが残ったままのカップとお水とおしぼりとお札を乗せ、カウンターに向かった。突然、背後で青年が吹き出した。
「な、なぁに?」
少女が驚いて振り返る。
「どうやら、近い内にもう一度彼女来そうだよ。あるいは永遠に来ないかどちらかだ」
「どういう事?」
青年は、座席に置きっ放しになっていたオレンジ色の大学ノートを顔の辺りに掲げた。
少女は苦笑いしつつも、「またややこしい事にならなきゃいいけど……」と小さな声で呟いた。
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