逆さの神様

KeiKou色

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第十話

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 いつの間にか追いついていた化け物が裕貴に向かってとびかかってきた。咄嗟に裕貴を押して庇えたけど…
(まずい…完全に抑えられて動けない…)
 隙を見て抜け出そう思って入るけど、隙なんてものは無いし、力も相手の方が遥かに強いから無理矢理抜け出すこともできない。
「狙った方ではないが、まぁ人間の小僧であることに変わりはないか。ならば問題は無い。久しぶりの人間だ」
(俺をどうするのかは…まぁ、大体予想はつくけど、ろくな目に合わないのは間違いない。なんとかして、とにかく抜け出さないと…)
「何をしても無駄よ、お前程度の力では抜け出せまい。大人しくしていれば、無駄に痛い思いをせずに済む」
「ふざけるな…!誰が…!」
 こんな所で死にたくないし、こんな奴に殺されるなんて真っ平だ!
 そんな風に思っているとき「貴様、わしの大切な友人に何をしておるのじゃ?」と、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「桜…?」
「っ⁉何故お前が!お前は普段あの神社から動かぬではないか‼」
 桜を見た化け物が、声を荒げてそう桜に問いかける。どうやら、かなり動揺しているらしい。
「そんなことはどうでもよい。わしの友人に何をしているのかと聞いておるのじゃ」
 まっすぐ化け物を見つめながら、表情を変さえることなく静かに冷たく言い放つ。
「ともかく、そやつを離せ」
「くっ…」
 そう言われた化け物は、案外あっさりと俺を開放した。桜と裕貴のいる方へ戻る時も、何かしてくる様子は無かった。桜も意外だったようで「なんじゃ、案外素直にじゃな」と呟いている。
「ともかく、もうこんなことはするでないぞ。次に同じことをすれば、その時は容赦せん」
 そう言って、桜が背を向けた瞬間「背を向けたな、馬鹿め!!」と、桜に向かって行く。
「桜‼」
 気がつけば、俺は桜を抱きしめていて背中に激痛が走る。
「チィッ…邪魔が入ったか…」
「何をやっておるんじゃ!お主は‼」
「よかった。怪我はしてなさそうだね」
 桜は神様なんだし、俺が助けなくても無事だったのかもしれないけど。
「待っておれ、今あの愚かなものに神罰を与えてやる」
「うん、ありがとう…」
 痛みで思考が回らない。何だか眠くなったきたし…俺、ここで死ぬのかなぁ。何だか一周回って冷静になってきた。

「貴様、よくも明を…もう許さぬ」
 わしの大事な人を傷つけた。いやそれより腹立たしいのは、こんな奴の不意打ちにも気づけずに助けるはずの明に助けられてしまったわしの不甲斐なさじゃ。
「はっ…そいつが勝手に間に入っただけではないか、俺はお前を狙ったんだ」
「もう貴様は謝っても許さぬぞ‼」
 その怒りも、全部こやつにぶつけてやろう。悪いが八つ当たりというやつじゃ。
 それからは何も語ることは無い。奴に向けて神力をぶつけて消し去ってやっただけだ。何やら叫んでおったがもはやそんなことはどうでもいい、今は明が心配じゃ。

 化け物を退治した桜は、急いで俺の方に駆け寄って来てくれた。でも、そろそろ喋るのも厳しい。
「大丈夫か⁉明!しっかりしろ!」
「とり…あえず…みんなの…所まで…」
 体を動かそうとするけど、痛みでうまく動かせない。あぁ…意識も朦朧としてきた。いよいよヤバいかな…

 俺が次に目を覚したのは、病院のベッドの上だった。どうやら他のみんなが運んでくれたらしい。目を覚したら、桜にめちゃくちゃ怒られた。
「心配させよって!わしより脆いお主がわしを庇ってどうするんじゃ!あと少しで死ぬところだったんじゃぞ!」
 涙目になりながらポカポカと小突きながら怒る桜。その様子はただの女の子にしか見えない。
「痛い…謝るから小突かないで…」
「全く…」
「そういえば、他のみんなは?」
「栗美達は学校じゃ。あのキャンプ上のある山は、しばらく立ち入り禁止になっておる」
「皆、お主を心配しておったぞ」
(そっか。みんなに心配かけちゃったな…)
「後で謝らないとだな…でも、桜も裕貴も無事でよかったよ…」
「そうじゃな、お主のおかげじゃ。礼を言う、ありがとう」
 少し微笑みながらそう言った桜に、俺は少しドキドキしてしまった。
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