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第13話 呼び方

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「こんなもんか」

 この一週間、根城にしていた小屋を片付け終える。
 そのまま紫音たちのもとに戻ろうとした、その時だった。

「――――ッ、これは」

 体の中心に、見知らぬ何かがしみ込んでいくような、不思議な感覚がする。
 俺はそれが何であるか知っていた。

「そうか。転移魔法の解析が進んだんだな」

 俺が歴代最強の勇者と謳われた理由。
 それは、聖剣以外にもう一つ、強力な固有魔法を持っていたからだ。

 その固有魔法の名は学習強化ラーニング
 その名の通り、一度見た行為や、この身に受けた魔法を解析し自分のモノにしてしまう力だ。

 俺は転移魔法をこの体に浴びて、異世界にやってきた。
 そのため、知らぬうちに転移魔法の解析が進んでいたのだ。

 どれだけ解析が進んだのか、体の内側に意識を向けて確かめる。
 転移魔法はその仕組みが複雑、かつ発動するための難易度が非常に高い。
 そのため、現時点で解析できたのは一部だけのようだった。

「世界と世界の間に広がる無限の狭間。移転する情報量が多ければ多いほど、難易度が上がる。現時点で人を転移させられることは不可能だが、声を届けるだけなら可能……か」

 まとめると、体ごと転移は無理だが、向こうの世界の人間と連絡を取ることはできるみたいだった。
 この調子で解析が進めば、やがて向こうに帰ることも可能かもしれない。

「……まあ、そうするつもりはないけどな」

 俺はもう、向こうの世界のように、敵に囲まれた中で戦いの日々を過ごすのに疲れた。
 だからこの力を使おうとは思わなかった。

 そんなことよりも、だ。

「紫音や千代が待っている。急がなくちゃな」

 徒歩で一時間かかるその館に、俺は一分で辿り着いた。


 出迎えてくれた紫音と千代に案内され、客室に通される。
 そこで俺は、2人に改めて挨拶した。

「それじゃ、これからよろしく頼む」
「はい、こちらこそです、アルス様」

 紫音の呼び方を聞いて、俺は「ふむ」と呟いた。


「これから一緒に暮らすんだ。様付けや敬語はいらないと思うんだが」
「そ、そうでしょうか? でも、砕けた言い方はあまり得意ではなく……呼び方だけ、“アルスくん”とさせていただいてもよろしいですか?」
「ああ、もちろん。あとは千代だが――」


 視線を向けると、千代はなぜか自慢げに胸を張った。


「私はアルス様のままで呼ばせていただきます。将来的に、私の主になるかもしれないお方ですから」
「ちょ、ちょっと千代!? 何を言っているんですか!?」
「……? それならまあいいが」


 無理強いするのも何だったので、そう答える。
 なぜか紫音が顔を真っ赤にして千代の方をポカポカと叩いていたが、その理由は分からなかった。
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