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第27話 過去
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それから俺たちは、二人でショッピングモールを楽しく回った。
見慣れないものばかりを前に目を丸くする俺。
そしてそんな俺を見て、紫音も楽しそうに笑うのだった。
夕方。
手を繋ぎながら、俺たちは屋敷に戻る。
お出かけの余韻を楽しむようにして。
「今日は楽しかったですね、アルスくん」
「ああ、そうだな」
「……ずっと、こんな時間が続けばいいのに」
ゆっくりと紫音はそう呟いた。
俺も同じように思う。
だけど――――。
いつまでもそうはいかないことを、俺たちは理解していた。
◇◆◇
数日後。
とうとう、その時はやってきた。
今度こそ紫音が本家に戻ってくるよう通達があったのだ。
「申し訳ございません、アルスくん。今回ばかりは断るわけにもいかず……も、もちろん、アルスくんはこのままこの家で暮らしていただいても大丈夫ですよ!」
「ありがとう。けど、さすがにそれは悪い。やっぱり俺はここを出るよ」
「で、でしたらやはり、わたくしもここに残って――」
「いや、家に戻った方がいい。家族と過ごす時間は大切にしなくちゃな。俺は一人でも大丈夫だから」
「アルスくん……」
俺の言葉に何を思ったのか。
紫音が目を潤わせた後、勇気を振り絞ったかのように告げる。
「なら最後に一つ、お聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」
「ああ、なんだ?」
「アルスくんがどうしてこちらの世界に来られたのか、その理由を教えていただけませんか?」
「ッ」
いつかは訊かれると思っていた。
だが、このタイミングでか。
そう思いながらも、俺は紫音相手に誤魔化したくはなかった。
「少し、長くなるぞ」
「はい」
頷く紫音に対して、俺は話し始めた。
地球と向こうの世界の違いについて。
俺がどんな風に生きて来たかについて。
物心ついた時には孤児で、周りに味方がいなかったこと。
偶然、聖剣の担い手を選ばれる場に居合わせ、使えてしまったこと。
それから勇者として活動することになったこと。
邪神を討伐後、存在を疎まれて追放されることになったこと。
全てを語り終えた時、紫音は涙を流していた。
ああ、やっぱり紫音は優しいなと思っていると――。
「……えっ?」
突然、俺は紫音に抱きしめられた。
俺の顔に、彼女の胸が押し付けられる。
そして彼女はそのまま、俺の頭を撫でた。
「これまで、つらかったですよね。アルスくんは決して一人なんかじゃありません。アルスくんが何と言おうと……これからはずっと、私がいます」
「紫音」
そこで俺は、自分の目から涙がぽつりと零れたことに気付いた。
ああ、なんだこれは。この世界に来てから、俺はどれだけ涙もろくなっているんだ。
それも全て――紫音の温もりに溶かされてしまったせいだ。
ああ、もう、誤魔化すのは無理だ。
俺はとっくに、この女の子に惹かれている。
家族と一緒にいた方がいいだなんてかっこつけたが……。
俺自身が、もう彼女と離れることはできない。
それからしばらく、俺は紫音の温もりを感じ続けた。
その最中、体の中心に何かがしみ込んでいく感覚がする。
それは転移魔法の解析が完全に済んだ合図だった。
見慣れないものばかりを前に目を丸くする俺。
そしてそんな俺を見て、紫音も楽しそうに笑うのだった。
夕方。
手を繋ぎながら、俺たちは屋敷に戻る。
お出かけの余韻を楽しむようにして。
「今日は楽しかったですね、アルスくん」
「ああ、そうだな」
「……ずっと、こんな時間が続けばいいのに」
ゆっくりと紫音はそう呟いた。
俺も同じように思う。
だけど――――。
いつまでもそうはいかないことを、俺たちは理解していた。
◇◆◇
数日後。
とうとう、その時はやってきた。
今度こそ紫音が本家に戻ってくるよう通達があったのだ。
「申し訳ございません、アルスくん。今回ばかりは断るわけにもいかず……も、もちろん、アルスくんはこのままこの家で暮らしていただいても大丈夫ですよ!」
「ありがとう。けど、さすがにそれは悪い。やっぱり俺はここを出るよ」
「で、でしたらやはり、わたくしもここに残って――」
「いや、家に戻った方がいい。家族と過ごす時間は大切にしなくちゃな。俺は一人でも大丈夫だから」
「アルスくん……」
俺の言葉に何を思ったのか。
紫音が目を潤わせた後、勇気を振り絞ったかのように告げる。
「なら最後に一つ、お聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」
「ああ、なんだ?」
「アルスくんがどうしてこちらの世界に来られたのか、その理由を教えていただけませんか?」
「ッ」
いつかは訊かれると思っていた。
だが、このタイミングでか。
そう思いながらも、俺は紫音相手に誤魔化したくはなかった。
「少し、長くなるぞ」
「はい」
頷く紫音に対して、俺は話し始めた。
地球と向こうの世界の違いについて。
俺がどんな風に生きて来たかについて。
物心ついた時には孤児で、周りに味方がいなかったこと。
偶然、聖剣の担い手を選ばれる場に居合わせ、使えてしまったこと。
それから勇者として活動することになったこと。
邪神を討伐後、存在を疎まれて追放されることになったこと。
全てを語り終えた時、紫音は涙を流していた。
ああ、やっぱり紫音は優しいなと思っていると――。
「……えっ?」
突然、俺は紫音に抱きしめられた。
俺の顔に、彼女の胸が押し付けられる。
そして彼女はそのまま、俺の頭を撫でた。
「これまで、つらかったですよね。アルスくんは決して一人なんかじゃありません。アルスくんが何と言おうと……これからはずっと、私がいます」
「紫音」
そこで俺は、自分の目から涙がぽつりと零れたことに気付いた。
ああ、なんだこれは。この世界に来てから、俺はどれだけ涙もろくなっているんだ。
それも全て――紫音の温もりに溶かされてしまったせいだ。
ああ、もう、誤魔化すのは無理だ。
俺はとっくに、この女の子に惹かれている。
家族と一緒にいた方がいいだなんてかっこつけたが……。
俺自身が、もう彼女と離れることはできない。
それからしばらく、俺は紫音の温もりを感じ続けた。
その最中、体の中心に何かがしみ込んでいく感覚がする。
それは転移魔法の解析が完全に済んだ合図だった。
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