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第一部 最弱魔術師から最強剣士への成り上がり
19 剣神の調べ
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場所を訓練場に移し、俺とレーニスは向かい合っていた。
審判はティナが務めてくれている。
俺が用意した剣を見て、レーニスは「ほう」と言葉を零した。
「それがルークが使用したという武器か。なるほど、確かに何かの文献で見たことがある。遥か昔の戦いでは用いられていたようだな」
「はい、そのようですね」
「どのようにしてお前がその武器を扱うようになったのかは気になるところだが……今は問うまい。戦いに集中しなくてはな」
言って、レーニスは自身の杖(ロッド)を構える。
通常の魔術師の杖には触媒となる宝石が一つ埋め込まれているものだが、その杖には別々の色をした七つの宝石が埋め込まれていた。
「では、さっそく始めるとしようか。本当に開始位置はこの距離でいいのか?」
「ええ、問題ありません」
俺とレーニスは50メートル離れた位置で待機していた。
遮蔽物もなく、明らかに魔術師有利の条件だ。
それでも俺には迷いも不安もなかった。
静かに剣を構えると、その姿を見たレーニスが頷く。
「なるほど、ただ私を見くびっているわけではないのだな。佇まいで分かる、お前の放つオーラは強者のそれだ」
「お褒め頂き光栄です」
交わす言葉はそれで最後だった。
二人の準備が整ったことを確認したティナが、高らかに宣伝する。
「では、これよりお父様とお兄様による模擬戦を開始いたします。双方準備はよろしいですね? それでは、模擬戦――始め!」
開始の合図と同時に、地を強く蹴りレーニスに迫る。
これに反応できないようであれば、一撃で決着がつくことだろう。
だが、やはりレーニスはミカオー達とは格が違ったらしい。
俺の動きをしっかりと目で捉え、近付かれるものかと魔術を発動する。
「炎球、風刃、氷槍」
放たれたのは三つの初級魔術。
だがレーニスの腕前によるものか、一つ一つが中級魔術級の威力だった。
詠唱破棄で放たれたことも考慮すると、これだけでレーニスの凄さが分かる。
「はっ!」
剣を振るい、それらの魔術を掻き消していく。
だが僅かに俺の速度が削られる。
その瞬間を狙ったように、レーニスは再度魔術を放ってくる。
ここからがレーニスの本気だった
「『紅蓮の怒りを――劫火弾(フレイムド)』
『罪ありし者に裁きを――雷砕(クランダー)』
『翼なき民に縛りを――拘束(バインド)』」
レーニスの声が同時に三つ聞こえてくる。
彼は今、三つの魔術の詠唱を同時に行っているのだ。
「ッ、多重詠唱か――」
多重詠唱。それは魔力によって疑似的な声帯を生み出すことにより、同時に複数の詠唱を行う技術のことだ。
限られた魔術師にしか取得は難しく、その分強力な手札となる。
降り止まない暴風雨の如く連続で襲い掛かってくる魔術に相手が対応している間に、さらに強力な魔術の詠唱を行っていくのだ。
初級魔術、中級魔術、上級魔術、最上級魔術へと。
気が付いた時にはもう、為す術もなくやられてしまう。
そんな絶望的な状況でなお、俺は力強く一歩を踏み出した。
「グラディウス・アーツ流、四の型――十六夜(いざよい)」
波打つように、剣を振るう。
鋭い一閃とは異なる、繊細で柔和な連撃。
相手の攻撃の悉くを粉砕する受けの型だ。
俺の剣技の前に、レーニスが放った魔術が次々と消滅していく。
「――――ッ!」
その驚愕の光景にレーニスは目を見開くも、詠唱を止めることはない。
続けて放たれた上級魔術さえも断ち切り、残り10メートルと迫ったところ、とうとうレーニスはその魔術の詠唱を終える。
「『――全てを喰らえ――蒼龍(そうりゅう)』!」
最上級魔術、蒼龍。
目標を喰らいつくすまで止まることのない、非常に強力な魔術。
これはさすがに十六夜では掻き消すことができないかもしれない。
ならば――
半身になり、切っ先を蒼龍に向けるようにして剣を構える。
そして、両腕を捻り回転を与えるようにして突きを放つ。
「グラディウス・アーツ流、三の型――神威(かむい)」
その突きから放たれた渦巻く暴風は、蒼龍を容易く呑み込んだ。
勢いが衰えることなくそのままレーニスに向かう。
「くっ、まさか――!」
蒼龍が一瞬で無効化されるとまでは想定していなかったのだろう。
レーニスは多重詠唱を断ち切ると、横に跳び暴風の進路から離れる。
無事に回避には成功したようだったが、俺から目を離した時点で決着はついていた。
剣の峰をレーニスの首元に添える。
レーニスは目を見開いた後、大きく息を吐いた。
「……文句のつけようもない、私の完敗だ」
その言葉を聞いたティナが、大声で告げる。
「お父様の降参により、模擬戦の勝者はお兄様とします! やっぱりお兄様は最強です!」
ティナは目の前で繰り広げられた戦闘に興奮冷めやらぬと言った様子だった。
そんな彼女の言葉を聞きながら、レーニスは小さく微笑む。
「強くなったな、ルーク」
「……はい、父上」
レーニスも想像以上に強敵だった。
だなんて、勝者である俺から言うのは皮肉に聞こえてしまうだろう。
だから俺は心の中だけで、父に対する尊敬の言葉を送った。
こうして俺とレーニスの模擬戦は、俺の勝利で終わりを告げた。
審判はティナが務めてくれている。
俺が用意した剣を見て、レーニスは「ほう」と言葉を零した。
「それがルークが使用したという武器か。なるほど、確かに何かの文献で見たことがある。遥か昔の戦いでは用いられていたようだな」
「はい、そのようですね」
「どのようにしてお前がその武器を扱うようになったのかは気になるところだが……今は問うまい。戦いに集中しなくてはな」
言って、レーニスは自身の杖(ロッド)を構える。
通常の魔術師の杖には触媒となる宝石が一つ埋め込まれているものだが、その杖には別々の色をした七つの宝石が埋め込まれていた。
「では、さっそく始めるとしようか。本当に開始位置はこの距離でいいのか?」
「ええ、問題ありません」
俺とレーニスは50メートル離れた位置で待機していた。
遮蔽物もなく、明らかに魔術師有利の条件だ。
それでも俺には迷いも不安もなかった。
静かに剣を構えると、その姿を見たレーニスが頷く。
「なるほど、ただ私を見くびっているわけではないのだな。佇まいで分かる、お前の放つオーラは強者のそれだ」
「お褒め頂き光栄です」
交わす言葉はそれで最後だった。
二人の準備が整ったことを確認したティナが、高らかに宣伝する。
「では、これよりお父様とお兄様による模擬戦を開始いたします。双方準備はよろしいですね? それでは、模擬戦――始め!」
開始の合図と同時に、地を強く蹴りレーニスに迫る。
これに反応できないようであれば、一撃で決着がつくことだろう。
だが、やはりレーニスはミカオー達とは格が違ったらしい。
俺の動きをしっかりと目で捉え、近付かれるものかと魔術を発動する。
「炎球、風刃、氷槍」
放たれたのは三つの初級魔術。
だがレーニスの腕前によるものか、一つ一つが中級魔術級の威力だった。
詠唱破棄で放たれたことも考慮すると、これだけでレーニスの凄さが分かる。
「はっ!」
剣を振るい、それらの魔術を掻き消していく。
だが僅かに俺の速度が削られる。
その瞬間を狙ったように、レーニスは再度魔術を放ってくる。
ここからがレーニスの本気だった
「『紅蓮の怒りを――劫火弾(フレイムド)』
『罪ありし者に裁きを――雷砕(クランダー)』
『翼なき民に縛りを――拘束(バインド)』」
レーニスの声が同時に三つ聞こえてくる。
彼は今、三つの魔術の詠唱を同時に行っているのだ。
「ッ、多重詠唱か――」
多重詠唱。それは魔力によって疑似的な声帯を生み出すことにより、同時に複数の詠唱を行う技術のことだ。
限られた魔術師にしか取得は難しく、その分強力な手札となる。
降り止まない暴風雨の如く連続で襲い掛かってくる魔術に相手が対応している間に、さらに強力な魔術の詠唱を行っていくのだ。
初級魔術、中級魔術、上級魔術、最上級魔術へと。
気が付いた時にはもう、為す術もなくやられてしまう。
そんな絶望的な状況でなお、俺は力強く一歩を踏み出した。
「グラディウス・アーツ流、四の型――十六夜(いざよい)」
波打つように、剣を振るう。
鋭い一閃とは異なる、繊細で柔和な連撃。
相手の攻撃の悉くを粉砕する受けの型だ。
俺の剣技の前に、レーニスが放った魔術が次々と消滅していく。
「――――ッ!」
その驚愕の光景にレーニスは目を見開くも、詠唱を止めることはない。
続けて放たれた上級魔術さえも断ち切り、残り10メートルと迫ったところ、とうとうレーニスはその魔術の詠唱を終える。
「『――全てを喰らえ――蒼龍(そうりゅう)』!」
最上級魔術、蒼龍。
目標を喰らいつくすまで止まることのない、非常に強力な魔術。
これはさすがに十六夜では掻き消すことができないかもしれない。
ならば――
半身になり、切っ先を蒼龍に向けるようにして剣を構える。
そして、両腕を捻り回転を与えるようにして突きを放つ。
「グラディウス・アーツ流、三の型――神威(かむい)」
その突きから放たれた渦巻く暴風は、蒼龍を容易く呑み込んだ。
勢いが衰えることなくそのままレーニスに向かう。
「くっ、まさか――!」
蒼龍が一瞬で無効化されるとまでは想定していなかったのだろう。
レーニスは多重詠唱を断ち切ると、横に跳び暴風の進路から離れる。
無事に回避には成功したようだったが、俺から目を離した時点で決着はついていた。
剣の峰をレーニスの首元に添える。
レーニスは目を見開いた後、大きく息を吐いた。
「……文句のつけようもない、私の完敗だ」
その言葉を聞いたティナが、大声で告げる。
「お父様の降参により、模擬戦の勝者はお兄様とします! やっぱりお兄様は最強です!」
ティナは目の前で繰り広げられた戦闘に興奮冷めやらぬと言った様子だった。
そんな彼女の言葉を聞きながら、レーニスは小さく微笑む。
「強くなったな、ルーク」
「……はい、父上」
レーニスも想像以上に強敵だった。
だなんて、勝者である俺から言うのは皮肉に聞こえてしまうだろう。
だから俺は心の中だけで、父に対する尊敬の言葉を送った。
こうして俺とレーニスの模擬戦は、俺の勝利で終わりを告げた。
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