彼女にフラれた俺は、封印された何かと暮らすことになった

雷覇

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第19話:想定外の戦闘力

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爆音と同時に、一体目の式神が地を裂いて突っ込んでくる。
だが。

「遅い」

静馬の口から、冷めた声が漏れた。
彼の右拳がわずかに引かれ、氣を一点に集中させる。
重心を落とし、呼吸を止める。

そして、乾いた音と共に、拳が正面から突き出された。
直撃を受けた式神が、まるで紙細工のように吹き飛ぶ。
空中で霧のように分解されていった。

「な……」

悠雅が目を見開く。
その驚愕を見て取った静馬は、無言で二体目へと駆ける。
式神が、咆哮と共に火球を放とうとするが、その溜め動作に入る前に

「遅いって言ってんだろ」

踏み込みと同時に、左の正拳。
直後、爆音が響く。
式神が虚しく閃光を残して消滅する。

残るはもう1体。
静馬は深く息を吸い、そして、目を閉じた。

「――目なんかいらない」

氣が、全身を駆け巡る。
空の氣流を読み式神の動きを感じ取り一撃を合わせる。

両足で地を蹴った瞬間、静馬の身体が空中へと放たれる。
視界ゼロのまま、迷いなく右膝を突き上げた。

――バキィッ!

衝撃音と共に、最後の式神が空中で千切れ、虚空に散っていく。
地に着地した静馬は、汗を拭いもせずに、悠雅を見据えた。

「……もう、終わりか?」

その姿に――
悠雅は、はじめて静かに後ずさるという選択を取った。

(……なんなんだ、あの力は)

悠雅は無言のまま立ち尽くしていた。
すでに式はすべて倒された。しかも、ただの拳で。

(たかが契約者になったばかりの……それも、一般人上がりの男が――)

頭では否定しようとしても、体が反応していた。
目の奥が痛い。歯を食いしばっていたことに気づき、こめかみを押さえる。

――想定外。

――想定外だ。

(俺の式は、対契約者戦すら想定して作ってある。あんな即席の修行でどうにかなるようなレベルじゃない)

悠雅は唇をかみしめる。

(いや、それだけじゃない。……あいつは、“殺気”の流し方を知っていた)

自分の三体の式が出した殺意、氣の圧力、それらを恐れず、読み切って潰した。
それはただの才能じゃない。死地を潜ってきた者の目だ。

(……ふざけるなよ。なんで俺が、こんな雑魚相手にこんな屈辱を――)

だが、拳はまだ震えている。

(いや、違う。……あれはもう、雑魚なんかじゃない。明確に、敵だ)

やがて、静馬が自分を見つめているのに気づいた。
その視線に自信があった。

(クソッ……!)

悠雅の脳内で、式の破壊される光景が何度もフラッシュバックする。
三体の式。それぞれに強化と補正を施した高位構成体。それを拳ひとつで薙ぎ払った――たかが契約者が。

理解できなかった。
いや、認めたくなかった。

「……だったら、こうするしかないだろ」

悠雅は懐から一本のナイフを抜き取った。
銀光を帯びたそれは、式術にも通じる《霊刃》。
本来、式神との連携や対霊獣戦に用いるものだ。

それを、今――人間に向ける。

「一般人に使うのは趣味じゃねぇけどな……」

自嘲めいた声を吐くが、目は獣のように鋭く静馬を見据えていた。
静馬は、構える気配もなく、ただ立っていた。

「……まだやるのかよ」

「黙れ!」

悠雅が踏み込む。地面を蹴り、霊刃を閃かせる。
一直線。躊躇のない刺突。

「消えろッ!!」

刃先が、静馬の胸元を貫こうと迫る――その瞬間。
静馬は左手でナイフを受け止めた。

――キン、と
乾いた金属音が響きナイフが折れた。

「……なっ……!?」

悠雅の顔が引き攣る。
静馬の手にはうっすらと血が滲んでいたが
それ以上に、折られたナイフの柄がむなしく地に落ちた音が残る。

「言ったよな。俺は……もっと酷いのを喰らってきたって」

静馬の目に、怒りも興奮もない。
ただ冷静な、獣を見るような静けさ。

「お前の怒りも、プライドも、どうでもいい」

「…………っ」

悠雅は言葉を失い、後ずさった。
その姿は、もはや狩る者ではなかった。

静馬の目が、わずかに細められた。

「一発だけ、返す」

その言葉と同時に、地を蹴る音すら残さず間合いを詰める。

「――っ!?」

悠雅が反応するより先に、静馬の拳が放たれた。
ぶれることなく、躊躇なく、真っすぐに。

「っぐぅ――あああッ!!」

強烈なボディーブローが、悠雅の鳩尾に突き刺さる。
呼吸が抜け、声にならない悲鳴が喉で詰まった。
悠雅の身体が、くの字に折れ、そのまま地面に崩れ落ちる。

「……これは、刃物を抜いた罰だ」

静馬は吐き捨てるように言い、そのまま一歩だけ下がった。
悠雅はうずくまったまま、荒い呼吸を繰り返している。
這いつくばりながら、静馬を睨み上げるが、目には確かな恐れが混じっていた。

「……まだやるか?」

静馬は問うが、返事はない。
答えの代わりに、悠雅はその場で苦悶に呻きながら歯を食いしばるだけだった。

背後から歩いてきたラウラが、ため息交じりに言葉をこぼす。

「ま、こちらを甘く見た結果よね。命があっただけ、感謝するべきだわ」

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