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第20話:九尾の眷属セト
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「……くそ、立てない……!」
悠雅は自力では動けず、スマホに手を伸ばした。
すぐに数名の部下が駆けつける。
「狩野様! まさか怪我をされたのですか!?」
「……黙って担げ。すぐ車をまわせ……!」
部下たちは緊張しながらも、彼を丁寧に抱き起こし、黒塗りの車両へと運び込んだ。
車内、悠雅は苦痛に顔を歪めながらも、唇を噛みしめていた。
(三神静馬……あんなやつに、この俺が……)
拳を握る。まだ胃の奥に残る衝撃と屈辱が彼の理性を蝕んでいた。
(許さない……許さないぞ、絶対に……!)
「……覚えていろ、静馬。次に会うときは、お前のその拳を二度と振るえないようにしてやる……!」
だが、その時だった。
車が急停止する。
「なっ……何だ!? どうした!」
「車外に――異常反応! 高位の霊圧です、囲まれて――!」
バキィィッ!!
運転席のフロントガラスが一瞬で粉砕された。
闇夜から飛び込んできたのは、黒い獣のような影。
「なっ……これは……!」
悠雅が言葉を失った。
そこにいたのは、仮面をかぶり、獣の尾を揺らす異形の影。
その背後にはさらに数体の同種が続く。
「……まさか、こいつら……」
部下の一人が悲鳴を上げた。
「九尾の眷属――っ!?」
次の瞬間、車体が横から吹き飛んだ。
悠雅の視界が、暗転する。
焼け焦げる鉄の臭いと、部下たちの悲鳴だけが、夜に残された。
崩れた車体の隙間から、悠雅はよろめきながら立ち上がった。
足元には倒れた部下、車両の残骸。そしてなおも迫る黒い影たち。
「……俺を誰だと思ってやがる」
血の滲む口元を拭い、符を数枚、空中に放つ。
「狩野家秘伝――《八重結界》!」
霊符が空中で発光し、幾重もの光の盾が悠雅の周囲に展開される。
一陣の風が舞い、霊圧が敵影を押し返した。
その瞬間――空気が、変わった。
ずん、と地を這うような重圧。
空間が歪む。
獣の眷属たちが一斉に跪き、悠雅の前から道を開いた。
「……なんだ、これは」
次の瞬間、黒煙をまとうような存在が闇の奥から歩いてきた。
人の姿をしている。だが、異質だった。
赤く輝く瞳に、銀白の髪。
静かに、ただ歩くだけで、周囲の氣が淀んでいく。
「私の名は、セト。九尾様の忠実なる部下。八つの災厄の一人だ」
「八つの災厄……まさか、本当に……!」
その名は、封霊機構ですら記録のみで知る伝承の存在。
九尾の狐に仕える八体の災厄の使徒
次の瞬間、景色が揺れた。
悠雅の結界が音もなく砕け散る。
(何もしていないのに……結界が!?)
「どうだい? 命乞いでもしてみるかい?」
悠雅は歯を食いしばる。
「……誰が……ッ!」
だが、体が動かない。足が地に縫い付けられたかのようだった。
「君のような人間でも、まあ――そこそこ質は悪くない」
煉獄のセトは指先を悠雅に向け、淡く紅い火のようなものを灯す。
「主の完全復活には、大量の氣が必要でね。雑魚でも数が集まれば意味がある。
だから君のも頂くよ」
セトの指先から伸びた細い火が、悠雅の胸元に触れた。
――ズンッ!
腹の奥から力が引き抜かれるような感覚。
「ぐ……ッ、あ、あああっ……!」
体内から流れ出す霊氣が、目に見えるほどの赤い霧となってセトの掌に吸い込まれていく。
「チッ……ナメるなよ、災厄」
悠雅は咄嗟に印を切る。
「狩野家秘伝・《重結界》!」
地面に広がる八枚の符が連動し、反発の霊陣を形成。
吸収の流れを一時的に遮断することに成功する。
「へえ、意外とやるじゃないか」
セトが楽しげに目を細めた。
「……俺は封霊機構の当主になる男だ。貴様のような怪物に負けられるか!」
血反吐を吐きながらも、悠雅は立ち上がる。
体内の氣は既に乱れ、結界の支えは限界に近い。
それでも、その手から次の符を放つ。
「狩野家・秘中の秘――《双転刃》!!」
空間に霊氣の鎖が展開され、双剣のような符具がセトを挟み込むように襲いかかる。
だが――
「おもしろい」
セトはただ指を一振り。
ズン――
双転刃が空中で崩壊する。霊氣の鎖も、燃え尽きたように消滅した。
「でも、それは強いというより、必死って感じかな」
セトの指が悠雅の額に添えられた。
「それでも、君は粘った。そういう人間は、食べ応えがあるんだよね」
次の瞬間、霊氣の吸引が再開される――!
「っ、ああああっ!」
全身の氣が逆流する感覚。目の前が暗転し、内臓が引き抜かれるような激痛。
だが、それでも悠雅は――
「……まだ……まだだ……!」
体内から流れ出す霊氣が、目に見えるほどの赤い霧となってセトの掌に吸い込まれていく。悠雅は地面に崩れ落ち、吐き気とともに意識が遠のく。
「やれやれ、雑魚の割にはうるさい。もう抵抗する力もないかい。まぁそこそこの氣だったよ。ありがたく頂くよ」
くつくつと笑いながら、セトの姿が霧とともに掻き消えた。
残されたのは、意識を失いかけたまま地面に伏す、狩野悠雅の姿。
彼の誇りも、霊氣も、災厄のひとつに喰われた夜だった。
悠雅は自力では動けず、スマホに手を伸ばした。
すぐに数名の部下が駆けつける。
「狩野様! まさか怪我をされたのですか!?」
「……黙って担げ。すぐ車をまわせ……!」
部下たちは緊張しながらも、彼を丁寧に抱き起こし、黒塗りの車両へと運び込んだ。
車内、悠雅は苦痛に顔を歪めながらも、唇を噛みしめていた。
(三神静馬……あんなやつに、この俺が……)
拳を握る。まだ胃の奥に残る衝撃と屈辱が彼の理性を蝕んでいた。
(許さない……許さないぞ、絶対に……!)
「……覚えていろ、静馬。次に会うときは、お前のその拳を二度と振るえないようにしてやる……!」
だが、その時だった。
車が急停止する。
「なっ……何だ!? どうした!」
「車外に――異常反応! 高位の霊圧です、囲まれて――!」
バキィィッ!!
運転席のフロントガラスが一瞬で粉砕された。
闇夜から飛び込んできたのは、黒い獣のような影。
「なっ……これは……!」
悠雅が言葉を失った。
そこにいたのは、仮面をかぶり、獣の尾を揺らす異形の影。
その背後にはさらに数体の同種が続く。
「……まさか、こいつら……」
部下の一人が悲鳴を上げた。
「九尾の眷属――っ!?」
次の瞬間、車体が横から吹き飛んだ。
悠雅の視界が、暗転する。
焼け焦げる鉄の臭いと、部下たちの悲鳴だけが、夜に残された。
崩れた車体の隙間から、悠雅はよろめきながら立ち上がった。
足元には倒れた部下、車両の残骸。そしてなおも迫る黒い影たち。
「……俺を誰だと思ってやがる」
血の滲む口元を拭い、符を数枚、空中に放つ。
「狩野家秘伝――《八重結界》!」
霊符が空中で発光し、幾重もの光の盾が悠雅の周囲に展開される。
一陣の風が舞い、霊圧が敵影を押し返した。
その瞬間――空気が、変わった。
ずん、と地を這うような重圧。
空間が歪む。
獣の眷属たちが一斉に跪き、悠雅の前から道を開いた。
「……なんだ、これは」
次の瞬間、黒煙をまとうような存在が闇の奥から歩いてきた。
人の姿をしている。だが、異質だった。
赤く輝く瞳に、銀白の髪。
静かに、ただ歩くだけで、周囲の氣が淀んでいく。
「私の名は、セト。九尾様の忠実なる部下。八つの災厄の一人だ」
「八つの災厄……まさか、本当に……!」
その名は、封霊機構ですら記録のみで知る伝承の存在。
九尾の狐に仕える八体の災厄の使徒
次の瞬間、景色が揺れた。
悠雅の結界が音もなく砕け散る。
(何もしていないのに……結界が!?)
「どうだい? 命乞いでもしてみるかい?」
悠雅は歯を食いしばる。
「……誰が……ッ!」
だが、体が動かない。足が地に縫い付けられたかのようだった。
「君のような人間でも、まあ――そこそこ質は悪くない」
煉獄のセトは指先を悠雅に向け、淡く紅い火のようなものを灯す。
「主の完全復活には、大量の氣が必要でね。雑魚でも数が集まれば意味がある。
だから君のも頂くよ」
セトの指先から伸びた細い火が、悠雅の胸元に触れた。
――ズンッ!
腹の奥から力が引き抜かれるような感覚。
「ぐ……ッ、あ、あああっ……!」
体内から流れ出す霊氣が、目に見えるほどの赤い霧となってセトの掌に吸い込まれていく。
「チッ……ナメるなよ、災厄」
悠雅は咄嗟に印を切る。
「狩野家秘伝・《重結界》!」
地面に広がる八枚の符が連動し、反発の霊陣を形成。
吸収の流れを一時的に遮断することに成功する。
「へえ、意外とやるじゃないか」
セトが楽しげに目を細めた。
「……俺は封霊機構の当主になる男だ。貴様のような怪物に負けられるか!」
血反吐を吐きながらも、悠雅は立ち上がる。
体内の氣は既に乱れ、結界の支えは限界に近い。
それでも、その手から次の符を放つ。
「狩野家・秘中の秘――《双転刃》!!」
空間に霊氣の鎖が展開され、双剣のような符具がセトを挟み込むように襲いかかる。
だが――
「おもしろい」
セトはただ指を一振り。
ズン――
双転刃が空中で崩壊する。霊氣の鎖も、燃え尽きたように消滅した。
「でも、それは強いというより、必死って感じかな」
セトの指が悠雅の額に添えられた。
「それでも、君は粘った。そういう人間は、食べ応えがあるんだよね」
次の瞬間、霊氣の吸引が再開される――!
「っ、ああああっ!」
全身の氣が逆流する感覚。目の前が暗転し、内臓が引き抜かれるような激痛。
だが、それでも悠雅は――
「……まだ……まだだ……!」
体内から流れ出す霊氣が、目に見えるほどの赤い霧となってセトの掌に吸い込まれていく。悠雅は地面に崩れ落ち、吐き気とともに意識が遠のく。
「やれやれ、雑魚の割にはうるさい。もう抵抗する力もないかい。まぁそこそこの氣だったよ。ありがたく頂くよ」
くつくつと笑いながら、セトの姿が霧とともに掻き消えた。
残されたのは、意識を失いかけたまま地面に伏す、狩野悠雅の姿。
彼の誇りも、霊氣も、災厄のひとつに喰われた夜だった。
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