全てを奪われた日、異能喰いに目覚めた僕はすべてに復讐する

雷覇

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第13話:周りの違和感

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「なあ、アイリ……最近、なんか変じゃないか?」

稽古の後、ユウはふとつぶやいた。
アイリは水を飲みながら、目だけで返事をする。

「……感じてる。私も」

特別な事件があったわけじゃない。
誰かが倒れたわけでも、喧嘩が起きたわけでもない。

むしろ、何もないこと自体が――おかしいのだ。

皆が、妙に仲がいい。
ユイ、カナ、シズカ、ユリナ……
あれだけ性格も立場も違ったはずの彼女たちが、最近はまるで同じ意志で動いているようだった。

言葉のトーン、歩き方、視線の交わし方。
どこか整いすぎている。それでいて、笑顔は自然で、口調もやわらかい。
だからこそ、不気味だった。

「誰かが命令してるわけじゃない。でも……同じ空気に染まってる」

アイリがぽつりとつぶやく。

「稽古も、掃除も、食事も。カイザさんが来てから、みんな変わった気がする。
でも変わってないように見えるから、余計に違和感を覚える」

ユウは頷く。
道場の壁は、以前より綺麗に磨かれていた。
備品の並びも無駄がなくなっていた。
誰がやっているかもわからないまま、すねて快適になっていた

まるで――何かに最適化されていくように。

何がどう変わったのか、まだ言葉にできない。
だが――明らかに“何かが違う”。

「カイザさんが道場に来てからだよな。でも一体何が変わったんだろう?」

その違和感だけを今は2人をだけが感じれていた。

昼下がりの道場。
稽古が終わり、道着を整えていたアイリのもとに、
静かな足音が近づいてきた。

「……アイリ」

振り返ると、そこには母親のキサラが立っていた。
その表情が以前より柔らかく見えたのは気のせいだろうか。

「なに?」

「少し話があります。こちらに来て」

アイリは頷き、縁側に腰を下ろした。

「カイザさんのことです」

その名前が出た瞬間、アイリの背筋がわずかに強張る。
だが、キサラの口調に敵意はなかった。

むしろ、それは――どこか“敬意”すら混じったものだった。

「彼は強い……技でも、氣でも。
ああいう男は、そういない。あなたもそう思うでしょう?」

「……うん。まあ、確かに」

本心ではまだ疑っていた。
だが母親に対して否定から入るのは、気が引けた。

「最近、皆が少しずつ……彼に教わる時間を取ってる。
私も最初は警戒してたけど、考えを改めた。無駄がない。見えているものが違う」

「それって……」

キサラがアイリの目をまっすぐに見つめて言った。

「アイリ、お前も、一度……カイザ殿に稽古をつけてもらうといい。
たぶん、何か“掴める”と思う。あんたには、それが必要かもしれない」

その言葉に、アイリは返事ができなかった。

勧め方は自然だった。
押しつけがましくもなく、命令でもない。

ただ、心から“良いと思っている者”が、
大切な誰かにそれを共有したくなった――そんな雰囲気だった。

だが、それが逆に――ぞっとした。
まるで、ほんの少しだけ“遠く”から話しかけられているような距離感。

「……考えとくよ」

そう返すのが精一杯だった。

キサラはそれ以上何も言わず、ただ頷いて立ち去った。
背を向けた彼女の肩越しに、何かを“果たした者の安堵”がにじんで見えた。

稽古場の隅、夕陽が畳を染め始める時間。
アイリは、まだ一歩も動けずにいた。

行くべきか、行かざるべきか。
いや、そもそも“なぜ迷っているのか”すら、はっきりとわからなかった。

キサラの言葉が頭から離れなかった。
「きっと、何か掴めると思う」

それは決して強制ではなかった。
押しつけられたわけでも、無理にねじ込まれたわけでもない。

でも、カイザと向き合うというのは――
“この道場で、確実に何かが変わりつつある”という事実に、足を踏み入れることを意味していた。

目を閉じる。
脳裏に浮かぶのは、最近の皆の“微笑み”。

自然に見える。
けれど、どこか均一で、どこか静かすぎる。

(私だけが、外に取り残されてる?)

そんな思いが、一瞬、胸をよぎった。
それが恐ろしかった。

まるで、「みんなが先に楽になっているのに、自分だけが重荷を背負っている」ような感覚。
その正体が“孤立”と名づけられるものだと気づく前に――

アイリは、立ち上がっていた。

足が、自然に廊下へ向かっていた。
頭では止めようとするのに、身体が先に動いている。

(……聞くだけ。ちょっと話をするだけ)

そう言い聞かせながら、
カイザの部屋へと続く廊下に足を向ける。

心の中の声は、確かに警告を発していた。
でもその声よりも――
“一人で残される恐怖”のほうが、わずかに勝っていた。
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