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第28話:緊急会議
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玉座の間に、緊急の気配が走った。
重厚な扉が乱暴に開かれ、装束を乱した伝令がひざまずく。
「……王よ。報告がございます」
エルヴァンは杯を手にしながら、静かに視線を向ける。
「その様子……よほどの事態と見えるな」
伝令は深く頭を下げたまま、震える声で続けた。
「は……天罰監獄が、陥落しました」
一瞬、空気が止まった。
杯の中で揺れる紅が、まるで世界の均衡を失ったかのように波紋を広げる。
「……詳細を」
「結界は破られ、封印区画もすべて開放された模様。多数の囚人が解き放たれ、現地守備隊との連絡も、今は完全に途絶えております」
「……誰がやった」
「不明です。ただ、黒い軍勢と呼ばれる集団が、監獄全域を制圧した形跡があります。規模は不明ですが、かなりの戦力と統率がある模様。現地司令部のグラディウス将軍も、最後の通信を残して以降……消息不明です」
沈黙が流れる。
やがて、玉座に腰を下ろしたまま、エルヴァンはゆっくりとつぶやいた。
「……天罰監獄が破られたか」
「……追報でございます。監獄内に封じられていた竜《ガルザイル》の存在が……確認されました」
エルヴァンの視線が鋭く走る。
「確認、とは? 奴は封印の中だ。暴れるはずがなかろう」
高官は唇を噛み、しばし言葉を詰まらせた。
「……その封印も、破られておりました。そして……討たれたとの情報がございます」
杯が音を立てて倒れた。だが誰も動けなかった。
エルヴァンの目が、狂気とも驚愕ともつかぬ光を宿す。
「――何だと?」
ガルザイル。
かつて大陸に災厄をもたらし、五大国の連合をもってしてようやく封じた、絶対的な災厄の象徴。
それが討たれたなどという事実を、王は一度では飲み込めなかった。
「馬鹿な。あれを……あれを、倒しただと?想定を超えた存在が動いているということか」
沈黙の後、王は指を鳴らした。
それに反応して神官シルヴァが寄ってくる。
「……よいか。天罰監獄の存在は、我が国の国民はもちろん、王国騎士団の主戦力にすら知られていない」
「はい。存在そのものが、機密指定に分類されております」
「……ならばこそ、迅速に動け。我が名の下に、監獄の共同管理国――四国すべてに緊急通達を出せ。」
シルヴァがすぐに問い返す。
「会議場は、従来通りでよろしいか?」
「いや……違う。今回は、我が王城内で開く。ついでに誰が敵か味方かすらも改める。黒の軍団とやらに協力している国もあるやもしれん」
エルヴァンの目は静かに燃えていた。
「……は。直ちに、四国へ使者を飛ばします」
数日後――。
セレファリア王国の王都の地下深く。
その空間には、世界の秩序を支えてきた五つの王国の王が、かつてない緊張を伴って集まっていた。
それは〈天罰監獄〉の陥落という、秘匿されたはずの大惨事が引き起こした緊急会議だった。
天罰監獄――それは異端者、災厄の子、神の怒りに触れた者たちを封じるため、五か国が共同管理してきた存在しない施設。
国民にも騎士団にもその存在は知らされておらず、その維持と封印には数百年の積み重ねがあった。
だが今、その監獄が陥落し、封印されていた竜ガルザイルまでもが討伐された。
それは神の秩序そのものへの挑戦であり、同時に五か国の体面と均衡が根底から揺らぐ瞬間だった。
会議室には厳重な魔術結界が張られていた。記録も記憶も外へ漏らさぬ、完全な密室。重厚な円卓の上座に立つ、セレファリア王国の王・エルヴァンが沈黙を破る。
「……諸王よ。お集まりいただき感謝する。
天罰監獄が陥落した。この事実をどう受け止めるか、我々は今、歴史の岐路に立っている」
その鋭い視線が、列席する王たちを順に射抜く。
冷静沈着な軍略王、デルオルス連邦の王・ハルヴァインが真っ先に口を開いた。
「まず問いたい。どうしてこのような事態が起きた?
監獄の結界も封印も健在だったはずだ。
それが破られ、ガルザイルまでもが討たれたという……我々は何者と相対しているのか?」
神の権威を重んじる女王、ミレイダ聖王国のカティアが震える声で応じる。
「“神罰の竜”が敗北したと……? それは、常識ではありえません。
我らが封じた異端を超える力……それが現れたのだとすれば、もはや神の秩序が崩れかけています」
誇り高き孤高の皇帝、グラディア帝国のザガレスが苛立ちを隠さず立ち上がった。
「我が帝国の将兵が監獄内に配置されていた。
それが全滅し、情報すら持ち帰れなかったこと……我が国に対する宣戦布告とみなしても良いのではないか?」
場が一気に緊迫する中、最古の王にして知の王、サルディナ自治国のライエルが穏やかに口を開いた。
「……まだ敵が誰かさえ分かってはおらぬ。
それでもなお、各国がこの混乱に乗じて動けば、封印の意味すら失われる。
私は……この会議で、冷静なる決断が下されることを願うよ」
再び発言権を得たエルヴァンは、円卓に両手を置いて身を乗り出す。
「――ならば、提案しよう。我が国が監獄跡の調査と封印の再構築を請け負う。
再発見される前に、その全貌を掌握せねばならぬ」
静寂が室内を支配した。すぐに誰も返答はしなかった。
その言葉が意味するもの――セレファリアが他国より先に監獄の再封印と管理権を得る。それは軍事的、宗教的、政治的にも圧倒的な優位性を意味していた。
やがて、王たちの眼差しが重なり、静かなる対話が始まる。
だがその影では、さらに深い闇がうごめいていた。
神の秩序の崩壊と、異端の胎動――
この会議はまだ、その序章にすぎなかった。
重厚な扉が乱暴に開かれ、装束を乱した伝令がひざまずく。
「……王よ。報告がございます」
エルヴァンは杯を手にしながら、静かに視線を向ける。
「その様子……よほどの事態と見えるな」
伝令は深く頭を下げたまま、震える声で続けた。
「は……天罰監獄が、陥落しました」
一瞬、空気が止まった。
杯の中で揺れる紅が、まるで世界の均衡を失ったかのように波紋を広げる。
「……詳細を」
「結界は破られ、封印区画もすべて開放された模様。多数の囚人が解き放たれ、現地守備隊との連絡も、今は完全に途絶えております」
「……誰がやった」
「不明です。ただ、黒い軍勢と呼ばれる集団が、監獄全域を制圧した形跡があります。規模は不明ですが、かなりの戦力と統率がある模様。現地司令部のグラディウス将軍も、最後の通信を残して以降……消息不明です」
沈黙が流れる。
やがて、玉座に腰を下ろしたまま、エルヴァンはゆっくりとつぶやいた。
「……天罰監獄が破られたか」
「……追報でございます。監獄内に封じられていた竜《ガルザイル》の存在が……確認されました」
エルヴァンの視線が鋭く走る。
「確認、とは? 奴は封印の中だ。暴れるはずがなかろう」
高官は唇を噛み、しばし言葉を詰まらせた。
「……その封印も、破られておりました。そして……討たれたとの情報がございます」
杯が音を立てて倒れた。だが誰も動けなかった。
エルヴァンの目が、狂気とも驚愕ともつかぬ光を宿す。
「――何だと?」
ガルザイル。
かつて大陸に災厄をもたらし、五大国の連合をもってしてようやく封じた、絶対的な災厄の象徴。
それが討たれたなどという事実を、王は一度では飲み込めなかった。
「馬鹿な。あれを……あれを、倒しただと?想定を超えた存在が動いているということか」
沈黙の後、王は指を鳴らした。
それに反応して神官シルヴァが寄ってくる。
「……よいか。天罰監獄の存在は、我が国の国民はもちろん、王国騎士団の主戦力にすら知られていない」
「はい。存在そのものが、機密指定に分類されております」
「……ならばこそ、迅速に動け。我が名の下に、監獄の共同管理国――四国すべてに緊急通達を出せ。」
シルヴァがすぐに問い返す。
「会議場は、従来通りでよろしいか?」
「いや……違う。今回は、我が王城内で開く。ついでに誰が敵か味方かすらも改める。黒の軍団とやらに協力している国もあるやもしれん」
エルヴァンの目は静かに燃えていた。
「……は。直ちに、四国へ使者を飛ばします」
数日後――。
セレファリア王国の王都の地下深く。
その空間には、世界の秩序を支えてきた五つの王国の王が、かつてない緊張を伴って集まっていた。
それは〈天罰監獄〉の陥落という、秘匿されたはずの大惨事が引き起こした緊急会議だった。
天罰監獄――それは異端者、災厄の子、神の怒りに触れた者たちを封じるため、五か国が共同管理してきた存在しない施設。
国民にも騎士団にもその存在は知らされておらず、その維持と封印には数百年の積み重ねがあった。
だが今、その監獄が陥落し、封印されていた竜ガルザイルまでもが討伐された。
それは神の秩序そのものへの挑戦であり、同時に五か国の体面と均衡が根底から揺らぐ瞬間だった。
会議室には厳重な魔術結界が張られていた。記録も記憶も外へ漏らさぬ、完全な密室。重厚な円卓の上座に立つ、セレファリア王国の王・エルヴァンが沈黙を破る。
「……諸王よ。お集まりいただき感謝する。
天罰監獄が陥落した。この事実をどう受け止めるか、我々は今、歴史の岐路に立っている」
その鋭い視線が、列席する王たちを順に射抜く。
冷静沈着な軍略王、デルオルス連邦の王・ハルヴァインが真っ先に口を開いた。
「まず問いたい。どうしてこのような事態が起きた?
監獄の結界も封印も健在だったはずだ。
それが破られ、ガルザイルまでもが討たれたという……我々は何者と相対しているのか?」
神の権威を重んじる女王、ミレイダ聖王国のカティアが震える声で応じる。
「“神罰の竜”が敗北したと……? それは、常識ではありえません。
我らが封じた異端を超える力……それが現れたのだとすれば、もはや神の秩序が崩れかけています」
誇り高き孤高の皇帝、グラディア帝国のザガレスが苛立ちを隠さず立ち上がった。
「我が帝国の将兵が監獄内に配置されていた。
それが全滅し、情報すら持ち帰れなかったこと……我が国に対する宣戦布告とみなしても良いのではないか?」
場が一気に緊迫する中、最古の王にして知の王、サルディナ自治国のライエルが穏やかに口を開いた。
「……まだ敵が誰かさえ分かってはおらぬ。
それでもなお、各国がこの混乱に乗じて動けば、封印の意味すら失われる。
私は……この会議で、冷静なる決断が下されることを願うよ」
再び発言権を得たエルヴァンは、円卓に両手を置いて身を乗り出す。
「――ならば、提案しよう。我が国が監獄跡の調査と封印の再構築を請け負う。
再発見される前に、その全貌を掌握せねばならぬ」
静寂が室内を支配した。すぐに誰も返答はしなかった。
その言葉が意味するもの――セレファリアが他国より先に監獄の再封印と管理権を得る。それは軍事的、宗教的、政治的にも圧倒的な優位性を意味していた。
やがて、王たちの眼差しが重なり、静かなる対話が始まる。
だがその影では、さらに深い闇がうごめいていた。
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この会議はまだ、その序章にすぎなかった。
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