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第37話:過去の仲間との対峙
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天幕のような静寂を切り裂くように、扉が開かれた。
「報告です! 北都市が襲撃を――! ドラゴン……いえ、黒い竜です!」
「……黒い、竜?」
玉座の前に立つ男は、長身にして黒衣の将軍服をまとっていた。
グラディア帝国・現王――ザガレス。
この男の顔に、かすかな陰が差す。
「まさか、本当にあの封印が解かれたというのか……デルオルスの噂は真実だったか」
ザガレスは報告官から地図を受け取ると、即座に赤線を引いた。
「前線都市は囮にすぎん。真の狙いは中枢に向けた突破口だ。敵は動いている」
重厚な声で将軍たちに命令を飛ばす。
「第一防衛師団を高地へ再配置。第二重装部隊は後方の要塞に回せ」
参謀たちは次々に命を受け取り散っていく。
ザガレスは最後に地図の上に指を置いた。
「グラディアを同じようにはさせん。帝国の矜持は貴様らの遊戯の舞台ではない」
彼は剣を抜き、その刃に誓うように静かに言葉を刻んだ。
「帝国は……滅びぬ」
闇に包まれた空が、わずかに青みを帯び始めた頃。
地を揺らす重厚な足音と、甲冑の擦れる音が静寂を破った。
騎士団の紋章を掲げる旗が翻る。
先頭に立つのは、ロイ。
その背には、剣を握るミリアム、槍を構えるガレス、そして最後方には静かに歩むフィリアの姿があった。
「ここが……グラディアの最前線か」
ミリアムが息を呑む。
焼け落ちた砦、竜の爪痕、瓦礫の中で泣く子どもたち。かつての王都とはまるで違う、戦場の現実。
「まだ間に合う。敵は撤退していない」
ガレスが低く呟き、槍の柄を握りしめた。
ロイはその場に立ち止まり、振り返る。
「この戦いの敵は、かつて我らが支えた男、カインだ」
一瞬、空気が凍る。
フィリアが唇をかみ、ミリアムが目を伏せた。
「俺たちは、今ここで国を守る。罪もなき人々が奪われるのを、ただ黙って見ているわけにはいかない」
カインは騎士団の到着の報告を受けていた。
それは、かつてカインが共に戦った者たち王国騎士団だった。
風に揺れるマント、整然と進軍する重装の列。
その先頭に立つのは、間違いなくロイ姿だった。
カインは黙ってそれを見下ろしながら、剣を指先で叩く。
隣に立つアリアが、口角をわずかに上げて問う。
「来たわね。……本当に、戦えるの? かつての仲間たちよ?」
カインは視線を外さず、わずかに息を吐く。
「……多少の情はある。だがもう、それすらもどうでもいい」
彼の声音には、哀しみでも怒りでもない――ただ静かな決意だけがあった。
「裏切られた時点で、あいつらの選択は済んでる。
いまさらやっぱり間違ってたと泣きつかれても、俺は立ち止まらない」
アリアがふっと目を細める。
「冷たいわね。でも……私は好きよ、そういうとこ」
「感傷なんてものは、剣を鈍くする」
カインは踵を返し、部隊へと向かう。
「全軍配置につけ。あの丘を越えさせるな。
たとえそれが、かつて共に笑った顔でも今は敵だ」
闇に包まれた戦場の空に、再び咆哮が響いた。
それは、過去との決別を告げる音だった。
戦火の中。吹き荒れる風が、地に積もった灰と血の臭いを運ぶ。
カインが歩を進める先、重厚な鎧を身に纏った男が一人、無言で立ちはだかった。
「……ガレス」
名を呼んだその声に、微かに眉を動かすだけの応え。
長年、背中を預け合い、数えきれぬ死地を共に越えた男。
だが今、その手には槍が握られ、王の命を受けた殺意を宿していた。
「……もう何も言うことはねえ」
低く、地を這うような声。
「俺は、お前が好きだった。強くて、真っ直ぐで、誰よりも味方でいようとしてた。……だから許せねえんだ。あの頃のカインが、もういないってことがよ」
槍が地を蹴った。
大地が裂けるほどの突き。だが、カインは紙一重でかわし、黒剣を構える。
「ガレス、お前に恨みはない。……でも、もう俺は引き返せない」
「だから、斬るんだろ? 上等だ……俺も、斬るさ」
槍と剣が何度もぶつかる。
一撃ごとに地が裂け、空気が震える。まるで、お互いの過去と覚悟がぶつかり合うように。
だが、次第にガレスの動きが鈍る。
彼の肩口に、黒剣の斬撃が走った。
「……ぐっ……」
膝をつき、それでも立ち上がろうとする。
「……もっと早く……騎士団なんてやめりゃよかったぜ……そうすりゃ、迷わずに済んだのに……」
カインは無言で槍の先を払い、その胸に剣先を突きつけた。
「……殺せ。もう自由にしてくれよ」
ガレスの目は、どこか清々しい諦めと、後悔の入り混じった色をしていた。
カインはわずかに瞼を閉じ、そして斬った。
その身体がゆっくりと崩れ落ちる。
「……すまない」
ただ一言、かつての戦友に贈られたものだった。
風が、戦場を駆け抜ける。
その先に、次なる因縁が、待っていた。
「報告です! 北都市が襲撃を――! ドラゴン……いえ、黒い竜です!」
「……黒い、竜?」
玉座の前に立つ男は、長身にして黒衣の将軍服をまとっていた。
グラディア帝国・現王――ザガレス。
この男の顔に、かすかな陰が差す。
「まさか、本当にあの封印が解かれたというのか……デルオルスの噂は真実だったか」
ザガレスは報告官から地図を受け取ると、即座に赤線を引いた。
「前線都市は囮にすぎん。真の狙いは中枢に向けた突破口だ。敵は動いている」
重厚な声で将軍たちに命令を飛ばす。
「第一防衛師団を高地へ再配置。第二重装部隊は後方の要塞に回せ」
参謀たちは次々に命を受け取り散っていく。
ザガレスは最後に地図の上に指を置いた。
「グラディアを同じようにはさせん。帝国の矜持は貴様らの遊戯の舞台ではない」
彼は剣を抜き、その刃に誓うように静かに言葉を刻んだ。
「帝国は……滅びぬ」
闇に包まれた空が、わずかに青みを帯び始めた頃。
地を揺らす重厚な足音と、甲冑の擦れる音が静寂を破った。
騎士団の紋章を掲げる旗が翻る。
先頭に立つのは、ロイ。
その背には、剣を握るミリアム、槍を構えるガレス、そして最後方には静かに歩むフィリアの姿があった。
「ここが……グラディアの最前線か」
ミリアムが息を呑む。
焼け落ちた砦、竜の爪痕、瓦礫の中で泣く子どもたち。かつての王都とはまるで違う、戦場の現実。
「まだ間に合う。敵は撤退していない」
ガレスが低く呟き、槍の柄を握りしめた。
ロイはその場に立ち止まり、振り返る。
「この戦いの敵は、かつて我らが支えた男、カインだ」
一瞬、空気が凍る。
フィリアが唇をかみ、ミリアムが目を伏せた。
「俺たちは、今ここで国を守る。罪もなき人々が奪われるのを、ただ黙って見ているわけにはいかない」
カインは騎士団の到着の報告を受けていた。
それは、かつてカインが共に戦った者たち王国騎士団だった。
風に揺れるマント、整然と進軍する重装の列。
その先頭に立つのは、間違いなくロイ姿だった。
カインは黙ってそれを見下ろしながら、剣を指先で叩く。
隣に立つアリアが、口角をわずかに上げて問う。
「来たわね。……本当に、戦えるの? かつての仲間たちよ?」
カインは視線を外さず、わずかに息を吐く。
「……多少の情はある。だがもう、それすらもどうでもいい」
彼の声音には、哀しみでも怒りでもない――ただ静かな決意だけがあった。
「裏切られた時点で、あいつらの選択は済んでる。
いまさらやっぱり間違ってたと泣きつかれても、俺は立ち止まらない」
アリアがふっと目を細める。
「冷たいわね。でも……私は好きよ、そういうとこ」
「感傷なんてものは、剣を鈍くする」
カインは踵を返し、部隊へと向かう。
「全軍配置につけ。あの丘を越えさせるな。
たとえそれが、かつて共に笑った顔でも今は敵だ」
闇に包まれた戦場の空に、再び咆哮が響いた。
それは、過去との決別を告げる音だった。
戦火の中。吹き荒れる風が、地に積もった灰と血の臭いを運ぶ。
カインが歩を進める先、重厚な鎧を身に纏った男が一人、無言で立ちはだかった。
「……ガレス」
名を呼んだその声に、微かに眉を動かすだけの応え。
長年、背中を預け合い、数えきれぬ死地を共に越えた男。
だが今、その手には槍が握られ、王の命を受けた殺意を宿していた。
「……もう何も言うことはねえ」
低く、地を這うような声。
「俺は、お前が好きだった。強くて、真っ直ぐで、誰よりも味方でいようとしてた。……だから許せねえんだ。あの頃のカインが、もういないってことがよ」
槍が地を蹴った。
大地が裂けるほどの突き。だが、カインは紙一重でかわし、黒剣を構える。
「ガレス、お前に恨みはない。……でも、もう俺は引き返せない」
「だから、斬るんだろ? 上等だ……俺も、斬るさ」
槍と剣が何度もぶつかる。
一撃ごとに地が裂け、空気が震える。まるで、お互いの過去と覚悟がぶつかり合うように。
だが、次第にガレスの動きが鈍る。
彼の肩口に、黒剣の斬撃が走った。
「……ぐっ……」
膝をつき、それでも立ち上がろうとする。
「……もっと早く……騎士団なんてやめりゃよかったぜ……そうすりゃ、迷わずに済んだのに……」
カインは無言で槍の先を払い、その胸に剣先を突きつけた。
「……殺せ。もう自由にしてくれよ」
ガレスの目は、どこか清々しい諦めと、後悔の入り混じった色をしていた。
カインはわずかに瞼を閉じ、そして斬った。
その身体がゆっくりと崩れ落ちる。
「……すまない」
ただ一言、かつての戦友に贈られたものだった。
風が、戦場を駆け抜ける。
その先に、次なる因縁が、待っていた。
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