才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇

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第1章

第53話:最も恐れた勇者がいた(セリスside)

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壇上に立ったのは、デルオルス王国の神託官。そしてその隣に寄り添うように、蒼き衣をまとった勇者――アメリア・アルフォードが立っていた。

「――ここ数週間、我が国の北部霊境にて、霊的な失踪・消滅の報告が相次いでおります。本来であれば霊脈に守られたはずの地において、精霊たちの気配が絶たれ、その源流が……何かに飲み込まれているようなのです」

静かに、だが力強く語られる言葉。
ホールの空気が少し、冷たく揺れた。

その様子を、後方の一角から静かに見つめていたのは、聖女セリスだった。

王命により臨席を許された彼女は、祈りの白衣に身を包み、聖印の杖を膝に置いたまま、そっと目を伏せてから顔を上げた。

(……彼女は、やはり見えている)

壇上のアメリアから感じられる気配は、霊との交信に長けた巫女に似ていた。言葉の端々に感情は少なく、けれど確かな信念が宿っている。

(責任を、自分で背負おうとしてる……)

彼女は非常に責任感が強く、勇者としても申し分のない人物だ。自然と好感が持てる存在でもある。

結城レンの報告が始まった。

「えーっと、俺の方は……魔獣、五体討伐済みです。ええ。しかも、全部一人でね? 他の連中が逃げたから、俺がやるしかなかったっていうか……」

やたらと大きな声。語尾はどこか落ち着かず、目線も泳いでいる。
誇示しようとする言葉の裏に、不安と焦りが透けて見えた。

(……やっぱり、虚勢)

セリスは静かに目を伏せた。
その少年――結城レンの言葉には、自信ではなく、不安の裏返しが満ちていた。

彼は誰かに認められたい。頼られたい。でも、それがうまくできない。
誰かに否定されることを何よりも怖れて、先に大きな言葉で蓋をしている。

(きっと……誰よりも、怖いのね)

自分を実際以上に見せようとする態度は感心できないが、危険な印象は受けない。ただ、内面の脆さが少し気がかりだ。

「次に――リグゼリア王国より召喚された瀬名 隼人からの報告を」

宰相の声に続いて、王立騎士団の副官が前に出る。手に持った報告書を開いたが、その表情はどこか困惑気味だった。

「……同勇者は、召喚より一週間は王都近郊にて自主的な散策と観察に勤しみ、戦闘訓練および戦略会議への参加率は――三割未満です」

セリスの眉がぴくりと動いた。

副官はさらに続ける。

「その後、勇者の意向により人心と文化への理解を名目として市街地の食堂巡りや演劇鑑賞に費やされた日が複数確認されており、最も長時間滞在したのは……甘味処となっております」

その言葉に、セリスが目を細め、紫苑が顔を覆い、美咲が肩を震わせていたのとは対照的に――朱音は、こめかみに青筋を立てていた。

「……は? あいつ……遊び歩いてたってこと?」

低く呟いた声は、怒気を含んでいた。
膝の上でぎゅっと拳を握りしめ、ぎらりと隼人の後頭部を睨みつける。

蒼真のことを思い出して、少し落ち込んでいた彼女の気持ちは――
完全に怒りに上書きされていた。

「朱音……?」

隣にいた美咲が恐る恐る声をかけると、朱音は無言で立ち上がりかけ――

「……一発ぶん殴っても、怒られないよね?」

「落ち着いてって! さすがにこの場ではマズいから!」

美咲が慌てて袖を引っ張る。
紫苑もようやく手を下ろし、朱音に小声で言った。

「あなたが殴ったら、隼人さんじゃなくてこっちが報告書に載ることになるわよ」

「くっ……!」

唇を噛んで座り直す朱音だったが、その視線は変わらず隼人を射抜いていた。

一方で――
当の隼人は、後ろから突き刺さるような殺気にまったく気づいていない様子で、セリスの方を振り返り、軽く手を挙げて見せた。

「ねぇセリス、俺の報告聞いてどう思った?」

にこやかに笑うその顔に――
セリスはさらに深くため息を吐き、静かに目を閉じた。

(やっぱり、蒼真の方が百倍マシです……)

そして、心の奥でそっと付け加える。

宰相の読み上げる報告が、各国の勇者たちへと順に移っていく。
そして、重々しい声が次の名を告げた。

「次に……グラディア王国より召喚された勇者、レグナ・ブラッドフォードについて、軍令部より報告を」

控えていた将校が一歩前に出て、文書を開いた。

「同勇者は、召喚後ただちに王国北部の戦線へ派遣され、わずか三日で敵対勢力を掃討。殲滅数は百二十名に及び、損耗はゼロ。現地司令部は、その武力と突破力に最大級の評価を与えております」

「ふん、当然だな」

レグナが鼻で笑う。足を組み替え、重厚な鎧が軋む音を響かせる。
将校は一瞬たじろぎながらも、報告を続けた。

「……しかしながら、民間人の巻き添えや施設の破壊、王族命令の無視、並びに軍規違反の行為も複数確認されております。報告された中には、“戦場外での私闘”、“貴族令嬢との醜聞”、“宿舎での騒動”などが……」

「くだらねぇ」

レグナは無造作に立ち上がり、報告書を読む将校を睨みつけた。

「俺がやったのは、戦争だ。ガキのお遊びじゃねぇんだよ。てめぇらが傍観してる間に、俺がどれだけ働いたと思ってんだ。女くらい、好きにさせろよ。それくらいの褒美、当然だろ?」

ざわり、と空気が揺れる。
その言葉には正論と暴力が入り混じり、議場全体に不穏な重さを落とした。

セリスはそっと息を呑む。
冷たい視線をレグナに向けながら、心の中で言葉を綴っていた。

(――この人は危険だ。最も厄介で、最も恐れていた人物だ)

間違いなく強い。だが制御されていない。
力に飲まれ、他者を道具のように扱う者――その先にあるものは、決して平和ではない。

(この男が、暴走すれば……被害は国を越える)

彼女の指先が、膝の上でわずかに震えた。

(蒼真、あなたは今、どこに……)

この場にいない剣士の顔を、セリスは脳裏に浮かべた。

(あなたなら――きっと見抜ける。彼の危うさも、心の在りようも)

その胸の奥で、まだ名乗られぬ一人の剣士の影が、静かに息づいていた。


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