才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇

文字の大きさ
16 / 96
第1章

第16話:次の目的地

しおりを挟む
鳥居の前。
朝靄の中、白銀の髪をたなびかせた老人が丸太に腰掛けていた。
手には湯気の立つ湯呑み。
蒼真はその姿に見覚えがあることをすぐに思い出した。

「……あなた、あの時の」

「……ほう?」

湯呑みを口に運びかけていた老人が、ぴたりと動きを止めた。
目を見開き、驚きの色をそのままに蒼真をまじまじと見つめる。

「お主……あのとき、修羅の山に入ると言っていた若者か……? まさか、生きて……いや、それにしても……」

しばらく言葉を探すように黙ったあと、老人は小さく息を吐いて言った。

「随分と変わったな。面影はあるが……お主……何を背負った?」

老人の声には畏れと敬意が滲んでいた。

「全部です」と、蒼真は静かに言う。

「羅刹丸という侍から、その生き様と剣を継ぎました」

「羅刹丸……」

「彼はもうこの世にいません。でも、その技と想いは、この剣に残ってる」

老人はしばらく黙ってから、問いかける。

「それで、お主はこれから、どこへ向かう?」

蒼真は風に髪をなびかせながら、はっきりと口にした。

「魔族の地へ。俺は、知りたいんです。魔族が本当に敵なのか。人間が信じてきたものが正しいのか」

「愚かな考えだと、誰かに言われても?」

「……自分の目で確かめずに剣を振るうのは、もっと愚かだと思います」

その言葉に、老人はわずかに目を細めた。

「ならば、行くがいい。だが、迷えば帰れ。剣に溺れそうになったら、ここを思い出せ。」

蒼真は微笑んだ。

「ありがとうございます。……もう、迷いません」

鳥居をくぐるその背中を、老人は長く見送っていた。
そして呟くように、誰にも届かぬ声で言った。

「……羅刹丸。お主が遺したもの、確かに育っておるぞ」

風が吹いた。鳥居の鈴が一つだけ澄んだ音を立てた。

蒼真は山を下りたその足で街道を歩いていた。
空は高く晴れ渡り、鳥の鳴き声すら遠くに響いている。

(……まずは、大陸に渡らないと)

魔族の領地は、ワノクニから離れた別大陸にある。
その先に人々が「魔の地」と呼ぶ世界が広がっている。
蒼真は立ち止まり、空を仰いだ。

(そのためには、まず港町へ行く必要がある。だが……)

ポケットに手を突っ込む。
じゃらり、と音がした。
中にあったのは、修行に入る前に持ってきた最低限の銅貨数枚だけ。

(宿にも泊まれない……飯もギリだな)

現実は剣より重い。
いくら修行を積み強くなったところで、旅の第一歩は金がなければ踏み出せない。

蒼真はため息をついた。
魔族の地へ。その決意は揺るがない。
だが現実は、剣では切り拓けないものもある。

彼は立ち止まり、草むらに腰を下ろした。
靴を脱ぎ、冷たい川の水に足を浸す。

(……まずは、金を稼ぐ。それが先だ)

そのためには――何ができる?
彼は考える。
剣士としての腕、修行で得た氣の制御、そして羅刹丸から受け継いだ型。

「……用心棒でも、賞金首狩りでもいい。何でもやってやる」

舗装もされていない山道を歩いていた蒼真は、ふと足を止めた。
歩きながら、蒼真はふと空を仰いだ。

(……そういえば、琴音さんには手紙だけ残して、あのとき道場を出てきてしまった)

心を決めた修行の旅だった。
迷う暇などなかった。だが、あれから随分と経つ。

(心配してるだろうな……朱音のことも、俺のことも)

思えば、あの道場での日々は蒼真にとって家のようなものだった。
厳しくも温かく、誰よりも真剣に剣を教えてくれた人。
あの人の言葉の一つ一つが、今でも胸に刻まれている。

(……一度、道場にも戻ってみるか)

魔族の地に行けば、何が待っているか分からない。
大陸を越えた先にある未知の世界。
下手をすれば、二度とこの地には戻って来られないかもしれない。

(琴音さんにも、当分会えないだろう)

自分の剣の礎を築いてくれた人。
だからこそ、せめて――
挨拶くらいはしておきたかった。

「……行こう。俺の原点へ」

蒼真は向きを変える。
陽射しは穏やかで、足元の土は少し湿っている。
道端には、見覚えのある草花が咲き、遠くから子どもたちの笑い声が風に乗って届いてくる。

「……変わらないな」

ぽつりと呟いた声は、小さく風にかき消された。
髪は伸び、背も高くなった。
だがそれよりも、歩き方が変わっていた。迷いのない、静かな一歩。

村に近づくにつれ、道場の屋根が見えてくる。
木々の合間から覗くあの屋根は、かつて自分が何度も見上げた場所。

(……ただいま、とは言えないか)

けれど、胸の奥にほんの少しだけ温かい感情が湧いた。

「琴音さん……」

その名を口にした瞬間、歩みは自然と速くなっていた。
会わねばならない。
今度こそ、自分の言葉で別れを告げるために。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

処理中です...