才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇

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第1章

第39話:勇者の理想と現実

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船出から数日後。
風が静かに吹き抜けたあと、蒼真が、ふと思い出したように口を開く。

「そういえばさ……セリス、お前は勇者たちのこと、どう思ってるんだ?」

セリスは少し驚いたように目を瞬き、やがて視線を遠くへ向けた。

「……どう、というのは難しいですね。でも、感じていることはあります」

彼女は静かに言葉を紡いでいく。

「……私にとって勇者とは、ただ強いというだけじゃなくて、人々に強さを信じさせる存在です。でも……理想と現実には、やはり差がありますね」

「へえ?理想と現実、か」

蒼真が小さく相槌を打つと、セリスは続けた。

「隼人さんは、たしかに圧倒的な力を持っています。でも、それ以上に重さを感じていない人なんです。自分に託されているものの重大さを理解しながらも、どこか風のようにそれを受け流している。だから私は、彼に恐ろしさを感じない。……逆に、安心すらするんです」

「なるほどな。あいつが飄々としてるのは演技じゃないってことか」

セリスは少し表情を曇らせる。

「ただ……隼人さん以外の三人。他国の勇者たちには、まだ疑いが拭えません。彼らの中に……力を手にしたことで、心を乱されている者がいるかもしれません。知っていますか?今、勇者と呼ばれているのは、隼人さんを含めて四人です」

蒼真が眉を寄せて彼女を見やる。

「四人……ああ、そういえば。そんな話を耳にしたことがあるな」

セリスは小さく頷き、少し遠くを見るような目をして続けた。

「他の三人は、違う国の……?」

「はい。それぞれ別の王国で、独自に召喚された勇者たちです」

セリスは静かに頷いた。

「彼らは召喚された時期も手段も異なりますが、今では世界を救う希望として、それぞれの国で力を認められています。そして今、その四人がひとつの大義のもとに集いつつあるんです」

「……連合ってわけか」

蒼真が腕を組みながら低くつぶやく。
セリスは言葉を継ぐ。

「国同士の思惑も絡んでいます。力を合わせることは確かに希望をもたらすかもしれません。でも……それだけでは済まない緊張も生まれている。勇者が複数いるという事実は、均衡と不安の両方を生むんです」

蒼真はしばらく黙り、海を見つめたままつぶやいた。

「つまり……仲間ってだけで安心はできないってことか」

セリスは小さく頷いた。

「ええ。私は、隼人さんの心のありようは信じています。でも……他の三人――彼らの中には、何かを抱えている者がいるかもしれません」

蒼真は腕を組んで、低くうなるようにつぶやく。

「つまり、野心に呑まれかけてる奴がいるかもってことか……?」

「はい。彼らは、それぞれの国の希望として召喚されました。国の期待、民の視線、王の命令。すべてが彼らの肩に重くのしかかっています。そして勇者であることに酔う危うさも」

セリスの声には、どこか遠くを見るような哀しさがあった。

「もちろん、今のところは表立った問題はありません。でも、何かが起きる予感が……胸の奥に、ずっと引っかかっているんです」

蒼真はしばらく黙ってから、真剣な眼差しで言った。

「勇者だからって正義とは限らないってことか」

「ええ。彼らは間違いなく、この国を救う希望です。でも同時に、その歩みに誰も逆らえなくなるような、そんな危うさも感じます」

言葉の端に、言い知れぬ不安が滲んでいた。
蒼真はしばし考え込むように眉を寄せた。

「そっか……お前の目がそう感じるなら、きっと何かあるんだろうな」

セリスは小さく頷いた。
蒼真が問い返すと、セリスはほんの一瞬、言葉を選ぶように口を閉ざした。

「問題は……隼人以外の三人の勇者か。隼人と同等の力を持っているのなら、力に溺れる奴がいてもおかしくないな」

セリスはわずかに頷く。

「ええ。名声や地位、そして勇者の名のもとに許される力……それに溺れている者がいても不思議ではありません。皆、力を持ち始めています。中には……その力を試したいと感じている人も」

蒼真の表情が引き締まった。

「……つまり、誰かが暴走する可能性があるってことか」

「はい。現状ではまだ何も起きていません。でも、王も人々も、勇者という言葉に盲目的な信頼を置きすぎている。だからこそ、私は怖いんです。何かが起きてからでは、もう止められない気がして」

その声には、ほんの微かな震えが混じっていた。

「隼人さんが制御できればいいのですが……彼は他人にはあまり干渉しない人です。『それがその人のやり方なら、それも正しい』って、どこか達観しているというか……」

蒼真はしばらく黙って考え込んだあと、低くつぶやいた。

「お前の目がそう言うなら……今のうちに知っておいた方がいいな。その危うい三人のことも、ちゃんと」

セリスは小さく頷き、遠くの水平線を見つめた。

「……はい。王国に着いたら、私なりに調べてみます。あなたに話せることがあれば、必ず伝えます」

「助かる。こっちも気にしておくよ」

吹き抜ける風の中、互いの言葉が静かに重なった。
遠くに見えるのは、まだ見ぬ王国の影。
だが、その地に何が待つのかは、まだ誰にも分からなかった――。
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