永遠故に愛は流離う

未知之みちる

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噛み合わずに空回る理由

( 五 )

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 機嫌悪そうに天音になにがあったのか聞いてきた奏に篤は嫌な感じがした。そして、天音が来ない。
 天音は約束が駄目になっても、いつだって必ず一瞬でも顔を出してから帰って行く。
 仕方ないなと篤は立ち上がった。
 取り敢えず部室に行ったが天音は居なかった。
 彼女が居そうな場所など検討が付かない。面倒さいと思いながら、教室見てみるかと歩き出した。


「ごめん、京子ちゃん」
 そう天音に言われた京子は困った。
「奏、怖かったでしょ?」
 良かれと思ってしたことがまるで失敗で、京子は小さく「うん」と呟いた。
「ねえ、奏君はどうして怒ってたの? どうして理由わからないとダメなのかな……」
 すると天音が小さく笑った。
「奏だから」
「……天音ちゃんの弟さんなのにごめんなさい、あたしあの子苦手だ」
 京子はあんな奏相手に頑張ったのだなと天音は思った。
 ぐすっと涙を飲む音がした。
「ごめんね」
 もう一度謝ってから、天音は思った。

 どうして悲しいのにあたしは泣いてないのだろう。
 なんで泣かないのだろう。
 そもそも、どうしてこんなに悲しくならなきゃいけないのだろう。
 泣いてないなら助けないと奏は言った。じゃあ、京子の他にも助けてくれる誰かはいるだろうか。
 自分ではどうも出来なくて、京子まで巻き込んで途方に暮れるしか出来ないでいる。


「なにしてんの、お前ら」
 天音と京子の有りさまに、篤は思わず素のまま声をかけてしまった。
 京子は天音と仲が良いし、もういいやと開き直った。
「深山、大丈夫?」
 泣いていた京子に声をかけたものの、篤の目はもっと酷い顔をしている天音に釘付けになる。
「悪い、事情も知らない奴にそんなこと訊かれても困るよな」
「……先生、天音ちゃん」
 京子がそう言うと、篤は「うん」と言って天音の前に行った。
「どうしたのお前。すごい顔」
 京子は自分が泣いていても仕方ないからどうにか涙を引っ込めた。
 屈んだ篤が真摯な目で天音を見つめて彼女の頭を手をやった様子に、初めから篤に頼むべきだったのかもしれないと京子は思った。
 天音の知っている篤はこんな顔をするんだと京子は驚きつつ、本当に彼女が言いたかったことはこれなんだろうとぼんやりと思った。
 突然、天音が篤の手をぎゅっと掴んだ。
 掴まれた篤も見ていた京子も唖然とした。
「先生嫌い。あたし、帰る」
 そうして天音は篤の手を跳ね退けて立ち上がり、足早に教室を出て行ってしまった。
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