永遠故に愛は流離う

未知之みちる

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彼女がきれいな理由

( 三 )

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 甲斐はその日、仕事を終えると部屋で自分でも驚くほどぼんやりとしていた。 
 タバコの灰を灰皿の外に落としてしまい、まるで無駄な時間の使い方にため息を吐いた。
 仕事中は何事もなかったのだ。いつも通りの自分だった。ただ、店に来ていた玲二が会話の中でぽつりと言った一言が頭の端っこにこびり付いて離れてくれない。

「俺、早く会いたい。俺の一番綺麗な人に会いたい」

 単純に、いつものように玲二の愚痴を甲斐は聴いていただけだった。
 玲二はとにかく喋る。思うように仕事を出来ていない自分への自己嫌悪を吐き出す為に、いつも誰かしら捕まえては止めどなく愚痴る。
 自分の中で一番美しい綺麗な人を知っている友人達なら、自分が何を言いたいのかをわかってくれるから、彼らにしか愚痴は言わない。
 彼は彼の最善を尽くしていて、それに対して最善を尽くさない相手に嫌悪感を抱き、酷なことを言う。
 玲二は上部を施す仕事をしている。内側を引き出す為に上部を施しているのに、内側をきちんと出そうとしないモデルに対してひどく冷徹だ。
 施す側と施される側は一体なのに、それが成されない現実を悲観しつつ、それでも自分の手に在る大切なものを手放せない。まるで上手くいかない自分だけれども、再会した時、きっと彼女は喜んでくれる。
 ふと甲斐は、誰よりも彼女に会いたくて会いたくて仕方ないのは玲二かもしれないと思った。
 玲二には玲二の拘りがあって、自分のそれとは違う。自分だって、会えるものなら本当は会いたい。ただ、みんなを見ていると、自分よりも彼女に出会えないことを淋しがっているように見えた。
 無条件で綺麗な彼女がどこかで美しく微笑んでいてくればそれが良いのだと思っていたが、最近はどうしようもなく不安になることがある。
 今の彼女は自分の知る美しい微笑みを知っているだろうか。
 彼女はいつだって美しかった。
 美しくないことなんてない。
 少なくとも、彼にとって、彼のとなりに居る時の彼女は全てが美しかった。
 彼女がとなりに居ないことなんて今までなかったことに今更恐れを抱いた。
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