完結‼️翡翠の歌姫は 後宮で声を隠す〜特殊な眼を持つ歌姫が、2人の皇子と出会い、陰謀に巻き込まれながら王家の隠した真実に迫る

雪城 冴

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三章 後宮編

3-11 執着心と恐怖

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 翠蓮スイレンは、皇后主催の夜宴に出ると決まってから、目の回るような忙しさだった。
 曲の練習、礼儀作法の習得、詩歌の勉強。
 それに加え、調整してくれたとは言え、楽府の業務もあった。
 
 不意に後ろから声がかかった。太凱タオガイが、荷車に乗った楽器に手をかけている。

「翠蓮、これ運んどくからな」

「ありがとう太凱、でもそれ私の仕事で……」

「翠蓮! それくらい太凱に任せちゃいなよ。こっちは私がやっておくから!」
 明鈴メイリンは、安心させるように笑顔を向ける。

「みんな……ありがとう……」

 不安がある中頑張れているのは、仲間が応援してくれているからだった。


 時間が過ぎるのも忘れ、夢中で練習していた。

 翠蓮がふと気がつくと、稽古場で最後の一人になっていた。帰ろうとしていると、声をかけられる。

「色々と大変ね」
 声の主は紫雲だった。

 紫雲から直接嫌がらせをされたことはない。だが、周りの話から翠蓮は、彼女が自分の味方ではないと気づいていた。

(紫雲さんの目的は何なの……?)

 警戒心をよそに、紫雲はにこやかに話しかけてくる。 


「翠蓮、知っていると思うけど私も後宮の夜宴に出るのよ」

「……はい」

「私ね、後宮の歌坊かぼう出身なのよ。だから……」

 紫雲の手が自分に伸びてくる。   
 翠蓮は身構えたが、ひやりとした指が頬に触れただけだった。

「分からないことがあれば、なんでも聞いてちょうだい……」

「ありがとうございます」

 紫雲は目つきを鋭くする。
「ねぇ、翠蓮。あなた炎辰殿下にお会いしたこと……ある?」


――炎辰
 その名を聞くと、後宮での威圧的な態度が思い出される。
 無意識に緊張が走り、声が揺れた。

「はい……あの……少しだけですが」

「翠蓮、あなたって、かわいいのね……食べてしまいたくなるわ……」

 紫雲の冷たい指が、するりと頬から首の方までおりてくる。
 首筋を伝ってその指が喉仏をかすめた時、翠蓮は冷たい汗が背中を伝うのを感じ、身を引いた。
「いやっ――」

「ふふっ……本当に可愛いのね……少し分かった気がするわ……少し、ね」
 紫雲は目を細めて笑顔を作る。

(なんのこと……?)
 困惑する翠蓮をよそに、紫雲は「いい夜宴にしましょう」と言い、稽古場を出て行ってしまった。

 気づけば鳥肌が立っていた。


「なぜ……炎辰殿下の名前を?」
 二人は何か関係があるのだろうか。
 もしや、突然決まった後宮での夜宴も、自分の知らないところで何かがあるのだろうか。

 よろよろと立ち上がり、翠蓮も稽古場を出た。すでに暗くなった帰り道。誰かに見張られているようで怖かった。

 急いで宿舎まで帰り着く。
 自分の喉が渇ききっていることに気がついた。

「……早く寝よう」
 だけど、眠ればまたあの夢を見てしまう。言いしれぬ不安に心が休まらなかった。


「大丈夫……」
 そう呟いて現実から逃げるように布団を頭まで被った。


◇ ◆

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