Ancient Artifact(エンシェント アーティファクト)

黒之輪

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第一章 帰還を目指して

07.【前編】ルレインシティ

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 機械と彩星機関の都市、ルレインシティ。
 昔、閉鎖大陸にある都市から流れてきた移民によって発展した都市である。移民の彼らは閉鎖大陸のやりかたに不満を抱き、脱出してきた者達だ。遺伝的な問題で術式を使うことを苦手としていた。特に治癒術が使えないことは生きていく上で不便であった。医療技術を発展させ、今日に至る都市を造り上げた。

 夕暮れ。ライン達は、ついにルレインシティへと辿り着くことができた。

「ここが、機械都市ルレインシティ……」

 聖南があんぐりと口を開けている。自分の背丈よりも遥かに高い高層ビル、チューブ状の道を走る車。見たことのない世界がそこに広がっていた。真国しんこくとは大違いだ。

「オレは一旦出張の報告に役所へ行く。お前達は街を眺めててもいいぞ。この街唯一の緑が生い茂る中央公園で待っていれば、後から合流するぜ」

 フェイラストは手をひらひらさせて皆と別れた。

「俺達は街を見て回ろう」

 ラインの提案にルフィアと聖南は頷いた。初めての機械都市に、わくわくしていた。まるで異世界に来たような街並みに、あっちを見たりこっちを見たり。聖南は口を開けっぱなしだ。

「普通の街には考えられないものがたくさんあるね」
「ここでいう機械というのは、彩星機関さいせいきかんを用いて動かすものを言うらしい」
彩星機関さいせいきかん?」
「純度の高い魔石を核にして動かす機関を、彩星機関さいせいきかんと言うんだ。父さんもここへ来たことがあるって言っていた。その時に話を聞いたんだ」
「魔石を使うのね。じゃあ、ここに見える機械も、魔石を使ったものかな?」
「核が見えるなら、彩星機関だな」
「ラインさん、詳しいー」
「父さんの受け売りだけどな」

 街を歩いてみると、目立つ店を見つけた。武器屋と書いてある。外から覗いてみた。フェイラストの話の通り、剣よりも銃の取り扱いが多かった。

「この都市は銃が多いのか」

 彼の言う通りだ、とラインは思った。大きなビル群を構えた都市は、中心から円を描くように造られていた。ぐるぐる回って歩いて行くと、中央公園へ着いた。ここで一休みだ。ルフィアと聖南はベンチに座る。ラインはそばに立っていた。

「この街すごいね。機械のハコがばびゅーんって筒の中通ったり、シンゴウって言うので人とクルマを分けたり!」

 興奮した聖南がはしゃいでいる。彼女の和装が珍しいのか、好奇の目がこちらを向いていた。本人は全く気にしていないようだ。

「閉鎖大陸の技術の一部が、ルレインシティなんだろうな。父さんの話でしか聞いたことがなかったから、実際に来て、見て、良かった」
「不思議な四角い建物ばかりで驚いちゃった。教会も箱みたいな建物だね。あの大きな高い建物、ビルって言うんだっけ」
「ここから見ても大きいもんね! 近くに行ったらどうなるんだろう」
「見上げたら首が痛くなりそうだ」

 ははは、と笑い声が上がる。突然、ルフィアがはっとして辺りを見回した。

「今、お父さんの力が」

 自分の中に流れる創造の力。彼女の父は、かの創造源神。天上界ファンテイジアで過ごしていたとき、父親から同じ力を持つ人がもう一人いると聞いていた。周囲から一瞬だけ感じた力は、しかし既にどこにもなかった。

「ルフィア、どうしたの?」
「お父さんの力を持っている人がいるの。私以外に地上へ降りた人が一人いるって聞いてるよ」
「ルレインシティにいるのか?」
「もしかしたら、いるかもしれない」

 父親から聞いた話では、自分は三兄妹の末っ子。一人目の妻の間に生まれた長男は、ダーカーの手によって死んだ。二人目の妻の間に生まれた長女は、大人になってから地上へ降りた。三人目の妻の間に生まれたルフィアは、ダーカーによってゲヘナへ誘拐され、操られていたところをラインに助けられた。そして今に至る。

「ルレインシティにいるなら、探してみようよ!」
「つまりお前の家族だろう。気になるなら付き合うさ」
「もしここにいるなら、探してみたい」

 目的は決まった。と、向こうから手を振る男が見えた。フェイラストだ。

「よう。一通りオレの用事は終わったぜ。お前達はどうする?」
「俺達は、ルフィアの家族を探そうとしていたところだ」
「ルフィアの家族?」

 先程の話を伝える。フェイラストがもしかして、と呟いた。

「心当たりがある。ついてきてくれ」
「ほんとに! いくいくー!」
「聖南、この街に来てから元気だね」
「興奮冷めやらぬ、だな」


 フェイラストに連れられて来たところは、一軒の診療所。診療所の入り口ではなく、母屋の玄関へ回って入っていく。

「お邪魔しまーす」

 おずおずと入っていくと、奥から女性が現れた。白髪に橙色が混ざった髪の、青い目の女性だ。

「……あっ」

 ルフィアは確信した。この人だと。女性も異様な気配を感じたのか、ルフィアを見つめたままだ。

「紹介するぜ。同棲してるケティスだ」
「初めまして、ケティスよ。……ねぇフェイ、この子」
「お前に似てるだろ。もしかして姉妹かと思って連れてきたぜ」

 そんな訳ないかー、と彼は笑う。ルフィアは疑いようがない力を感じていた。青い目が交錯する。

「私は、ルフィア。ルフィア・E=C・シェルミンティア。あなたは、あなたのお父さんは――」
「えぇ、そうよ。わたしはケティス・E=C・シェルミンティア。あなたの、姉よ」
「姉さん……!」

 二人は抱き合った。思わぬ邂逅にフェイラストが二人を交互に見た。聖南もラインも目を見開いて驚いている。診療所は、静寂に包まれた。


 二人が落ち着いたのを見計らって、フェイラストはリビングへと移動させた。ソファーにルフィアと聖南、ラインが座っている。向かいにケティスとフェイラストがソファーへ座った。

「……で、二人は三百年も歳の離れた姉妹ってことなんだな?」
「そうよ。父さんから妹ができた話は聞いていたの。でも、ダーカーに誘拐されたって聞いて、会えないと思ったわ」
「びっくりどっきりだねー」
「創造源神の血を引く者が、地上へ何百年もいて大丈夫なのか?」
「えぇ。私は母が人間だった。血が人間に偏ったからさほど強くはないわ。人の子となんら変わりないもの。羽も小さいから、空も飛べないし」

 ケティスはふふ、と笑った。

「妹はトレイトエンジェラーだって聞いて、すごい子が生まれたと思ったわ。ダーカーに狙われることが多くなるでしょうね」

 ラインとルフィアは、これまでのことを掻い摘まんで話す。ダーカーに捕らわれたこと、奴隷鉱山で強制労働させられたこと。旅の途中で聖南と出会ったこと。

「そうだったの。すごく、大変だったわね」
「ラインがいたから、今の私があるの。大切な命の恩人だよ」
「改めて言われるとこそばゆいな」
「あたしにとっては、二人が命の恩人だよ!」

 聖南が笑う。ルフィアも笑った。

「姉妹が無事に出会うことができたとして、だ。お前達、今夜の宿とか決めたのか?」

 あっ、と声がした。外を見ると夜になっていた。

「どうしよう、宿、今からでも間に合うかな」
「もし行くとこないなら今晩止まっていけよ。部屋はあるからな」
「よぉし、そうと決まればお姉ちゃんが腕を奮うわよ!」
「ケティスのメシは美味いぞぉ~」
「食べたいでーす!」
「あたしもー!」

 ルフィアと聖南が手を上げた。ラインはやれやれ、と息を吐く。

「元気がいいな」

 呆れつつも、微笑ましいと感じていた。


 夕食をご馳走になり、皆が寝静まった夜。ルフィアはケティスとナイトティーを飲んでいた。旅の話をし、ケティスに伝えたいことを語る。

「あなたは本当に、大変な目に遭ってきたのね」
「ラインがいたから、今の私がある。もちろん聖南も」
「たくましくなって。お姉ちゃん嬉しいわ」

 ふふ、とケティスは笑う。歳の離れた妹とこうして話すことが幸せだった。

「それで、今度はどこの街に行く予定なの?」
「本当は、フォートレスシティに行くつもりだったの。ラインの家があるから、帰るために」

 ケティスが難しい顔をする。

「今、帝国は王国と一触即発なの。外部から人を入れないようにしているわ」
「閉鎖されてるって聞いてるよ」
「そう。抜け道もないし、国境封鎖が解除されない限り、主要都市には入れないわ」
「やっぱりだめかぁ」

 ルフィアはがっかりした。

「何年もかかるかもしれないわ。だから、今は他の国へ旅に出てらっしゃい。例えば、真国しんこくとか」
真国しんこく……」

 たしか聖南の生まれた国だ。彼女は帰りたいと言っていたし、ちょうどいいのかもしれない。

「姉さん、明日ラインと話してみる。ありがとう」
「いいのよ。じゃ、お開きにしましょ。おやすみなさい」
「おやすみなさい!」

*******

 朝になり、身支度をして診療所を後にする。ルフィアはラインに話をする。ラインも快く聞き入れ、一行は真国しんこくを目指すことを決めた。それを聞いていたフェイラストがぎょっとする。

真国しんこくは今、情勢がやばいって聞くぜ。本気で行くなら支度は万全にしておけ。っていうかオレも同行するぜ」
「本業の医者はいいのか?」
「どのみち真国しんこくには行かなきゃいけないと思っていたからな。それがちょっと早まっただけだ」

 フェイラストも行くことを決めた。ケティスも承諾する。

「やっとおうちに帰れるんだぁ!」

 聖南がわくわくしてぴょんぴょん跳びはねていた。

「なんだ、お前真国しんこくの生まれだったのか」
「フェイラストには言ってなかったっけ。あたし、真国しんこくの第一皇位継承者ってやつなんだよ!」
「皇位継承者ぁ!? つまり、真国しんこくのお姫様かよ!」

 ひゃー、と変な声を出して驚いた。聖南がにこにこ笑っている。

「ケティス、お姫様の護衛に行ってくるけど、大丈夫か?」
「えぇ。待ってるのは嫌いじゃないわ。何かあったら連絡ちょうだいね」

 こうして四人は診療所を後にした。フェイラストが武器屋に一回顔を出すというので、ついていくことに。

「じいさん、いるか?」

 暗がりに呼びかけると、ぬっと姿を現した。聖南がびっくりしてラインの後ろに隠れる。

「おまえさんの頼んでいた物ならできとるよ」

 素っ気ない素振りでカウンターに小包みを置く。受け取ってお金を置いて、挨拶してすぐに出た。

「怖いおじいさんだったぁー」
「オレの銃のメンテナンスをしてくれるじいさんだ。今回特別仕様の弾を注文しておいたんだ」
「なになに?」
「ダーカーは浄化の術式でないと倒せない。これは常識だな。そのダーカーを倒せるようにする弾を特注しておいたんだよ」

 警報。突如、鳴り響いた音にびくりとした。フェイラストが険しい顔になる。街の人達は一斉に避難を始めた。

 侵入者アリ。侵入者アリ。
 一般市民は避難してください。繰り返します……。

 アナウンスと共に、街の床から障壁が何枚も生えてきた。避難間に合わず障壁の間に阻まれた市民もいた。

「フェイラスト、いったい何があったの?」
「魔物が入ってきたぐらいでこんなことにはならねぇ。もしかすると、ダーカーかもしれねぇな」
「早くしないとあの板に挟まれちゃうよ!」

 走り出そうとした聖南の背後から、待て、としゃがれた声がした。

「フェイラスト、こいつを持ってけ」

 先程のおじいさんが、もうひとつの小包みを投げた。彼は片手でキャッチした。

「詩作品だが威力はある。物は試しだ、使ってみろ」
「ありがたく使わせてもらうぜ!」

 最初にもらった小包みをラインに預ける。今もらった小包みを開けると、箱に入ったマガジンが出てきた。

「じいさん仕事が早いぜ」

 マガジンを太もものベルトに装着し、二丁の銃にもセットした。ガンホルダーにしまう。

「よし、いけるぜ」
「これはどうする? 亜空間内にしまっておこうか?」
「便利な収納があるならそこに入れといてくれ。後で必要になるかもしれねぇからよ」

 ラインは小包みを亜空間にしまう。準備はできた。ここも障壁に塞がれてしまっている。向こうから悲鳴と銃声が聞こえた。ルフィアが氷の術式で障壁へ登る道を作る。駆け上がって建物の上へと走った。

「ありゃあ、巨大獣ジャイアントか!」

 遠くからでも巨体ははっきりと確認できた。四つ足の、獣の頭を三つ生やした巨大獣ジャイアントが警備用オートボットを破壊している。踏みつけ、大きな牙で噛みついて振り回し、部品をばらばらにした。

 建物の屋上を走って跳び移る。街の入り口は巨大獣ジャイアントによって滅茶苦茶にされていた。吠える獣は分厚い障壁に爪を立て切り裂く。何度か同じ行動をすれば障壁に穴があいた。障壁に挟まれていた市民に、巨大獣ジャイアントは狙いを定める。

「させるかよ!」

 フェイラストが銃を抜く。特殊加工された銃弾は、巨大獣ジャイアントに当たった瞬間、術式を稼働した。火紋が浮かび上がり爆発する。獣が反動でよろけた。

「術式を込めた弾丸だと?」
「そうさ。これが実用化されれば、術式を苦手とする人間でも使えるようになるってな!」

 こちらに気づいた巨大獣ジャイアントが咆哮を放つ。空気の振動がびりびりと響いた。

「あ、あたしあんなのと戦えるかな」
「大丈夫だよ聖南。前に出した牛さんを呼んで!」

 ルフィアに言われはっとする。聖南は腰帯から鈴を取り出ししゃらんと鳴らす。

嶽丑ガクチュウ、ここに!」

 高らかに呼びかけると、巨大獣ジャイアントと市民の間に赤い光が膨らんだ。四方に散り光は収束、嶽丑ガクチュウが出現した。

「ブルル、手応えのありそうな相手だな」

 鼻息を荒くした嶽丑ガクチュウが、自分よりも二倍はあろう巨大獣ジャイアントめがけて突進する。立派な角と巨大獣ジャイアントの牙がかち合う。その隙に、剣を抜いたラインが上空から迫る。トカゲの尻尾を斬り落とした。暴れだす獣が前足を上げて体を回転させる。ラインを踏みつけようとしてきた。しかし、彼は駿足を以て回避。踏みつけられた地面は大きく陥没した。
 建物の上からルフィアが水の術式を唱える。巨大獣ジャイアントの周りに水紋が現れ、激しい水の攻撃を加えた。さらにフェイラストの銃撃。特殊加工の弾丸が爆発を起こす。よろけたところを嶽丑ガクチュウががっしりと掴み、地に薙ぎ倒した。嶽丑ガクチュウが雄叫びを上げる。

「そぉーれ!」

 聖南が地の術式を発動した。起き上がろうとする巨大獣ジャイアントを、地紋から現れた岩が檻のように連なり封じる。立ち上がった獣は、体をぶつけて岩を砕こうとしていた。ラインが障壁の隅でおびえる市民に駆け寄るが、皆は腰が引けていて動けずにいた。死をもたらす獣を目の前にして怯えている。

「いけぇー!」

 男の声がした。街の入り口から男達が走り込んで、巨大獣ジャイアントへ銃を向ける。発射された弾は強い電撃を帯びていて、巨大獣ジャイアントは痺れてびくびくと痙攣を起こす。程なくして獣は地に伏した。

巨大獣狩猟ジャイアントキラー、ここまで追ってきたのか」
巨大獣狩猟ジャイアントキラー?」
巨大獣ジャイアント専門の討伐隊のことさ。ガーディニア砦の巨大獣ジャイアントのこともあったからな。いや、もしかしたらこいつが砦にいた……」

 巨大獣狩猟ジャイアントキラーは、巨大獣ジャイアントを取り囲んで様子を見ている。
 フェイラスト、ルフィア、聖南は建物から下りた。ラインと嶽丑ガクチュウと合流する。聖南は嶽丑ガクチュウを戻す。部隊の一人がこちらに近づいてきた。

「お前達がやったのか」

 背に大剣を担いだ男がやって来た。気迫がすごい。反論を許さないような雰囲気に固まる。フェイラストが前に出た。

「そうだぜ。獲物を取って悪かったな。オレの街で暴れる奴は許せなかったんでなぁ」
「街の人間か。……いや、こちらにも非がある。砦から取り逃がして、ルレインの街まで侵入させてしまった。御詫びを申し上げる」
「オレじゃなくて市長に言ってくれ。そのうち障壁も下りるだろうから」

 彼の言う通り、危険が去ったことを告げるアナウンスが入った。障壁がゆっくりと下がっていく。生きていた警備用オートボットは、危険が去ったことを認識し、待機所へ帰っていった。

「そういや、ここからちょっと行ったところにある森の中の集落に住んでた奴はいないか?」
「……僕ですけど」

 巨大獣狩猟ジャイアントキラーの一人が前に出てきた。まだまだあどけない表情の少年だ。先日彼の集落に寄ったこと、おじいさんが風邪を引いていて、フェイラストが治療したことを伝えた。

「余計なお世話です」

 ざっくりと切り落とした。フェイラストは眉間にしわを寄せる。

「おいおい、お前のことを心配してたんだぞ」
「だから、余計なお世話です。僕は望んで巨大獣狩猟ジャイアントキラーに志願したんです。今さら引き止めようと思っても無駄ですから」

 少年はイライラした様子で返した。そっぽを向いて隊に戻っていった。

「あいつは森で休んだ時に志願して隊に入ったんだ。けっこう役に立つから、いなくなると困るぜ」
「じゃあ、帰らないんですか?」
「そうみたいだ。本人もああ言ってるからな」

 男は隊の一人に呼ばれて去っていった。背後から大勢の足音が聞こえてくる。振り返ると、ルレインの部隊が銃を構えてやって来た。気がつけば、上空に小型の軍用船が飛んでいた。ライトを向けてくる。

「武器を下ろしてもらおう」

 リーダーらしき男が銃を向ける。皆は武器を片付けた。向こうも銃を下ろす。

「事情を説明してもらおうか」

 きつい口調で彼は言う。フェイラストがルレインの住人として説得にあたる。後ろから巨大獣狩猟ジャイアントキラーのリーダーもやって来て話す。しかし、部隊長の厳しい表情は変わらない。

「お前達は、しばらくルレインから出ていくことを待ってもらおう」

 部隊長が指示を出す。彼らはライン達を取り囲んだ。

「歩け!」

 背中を銃でつつかれる。命令に従うしかなかった。護送車に乗せられる。巨大獣狩猟ジャイアントキラーの面々も、同様に連れていかれた。

*******

 円状の構成をしたルレインシティの外側。郊外の敷地を過ぎると刑務所がある。ライン達はそこに男女分けられ入れられた。

「ちょっと待ってくれ!」
「弁護士が来るまでそこで待っているんだ。変な気は起こすなよ」

 呼び掛け虚しく、男は去っていった。

「はぁ~、まさかブタ箱行きだとは思わなかったぜ……」

 壁に背を預ける。隣の牢に入れられたラインが問う。

「どうするんだ。お前の武器は取られたが、俺とルフィアは亜空間にしまってある。暴れようと思えば暴れられるぞ」
「やめとけやめとけ。ルレインの刑務所は世界一厳重なんだ。だいたい、逃げちまったら逃亡者として一生付きまとわれるぞ」
「それは困るな……」
「大人しく待ってろ。そのうち出られるはずだ」

 フェイラストの言葉を信じ、ラインは待つことを決意した。


 三日が経過しただろうか。
 ライン達は未だ牢の中にいた。ルレインシティのテレスフィアには、街を救った彼らが何故牢に入れられたのか、という内容で放送されていた。

(まだ出られそうにないな)

 ただ牢の中にいるだけで、特に変わったことはない。フェイラストと話せば警備が話すのをやめるよう言ってくる。無言のまま過ごすしかなかった。

(ルフィア達は無事だろうか)

 別室の牢に入れられている二人は何をしているだろうか。考えていたとき、警備がやって来た。牢の鍵を開ける。

「お前の身分を保証する者が現れた。無罪放免だ。出ろ」

 隣のフェイラストも牢から出てきた。警備に連れていかれ、刑務所のエントランスへ移送される。ルフィアと聖南も合流した。武器を返された。

「はぁー、やっと出られたぁー!」

 大声を出す聖南に、警備が静かにするよう注意した。不機嫌そうにむっとする。ルフィアがなだめて、刑務所を後にした。

「やっと出られたね」
「一時はどうなるかと思ったが、無事で何よりだ」
「オレは腰痛めたかな、いてて……ベッドが固かったもんなぁ」

 四人は口々に言い合う。ところで、とラインが言う。

「俺達の身分を保証してくれた人って、誰なんだ?」
「砂漠の国王様じゃない?」
「帝国への渡航許可証と身分証明書はあるが、見てもくれなかったよな」
「じゃあケティスさんとか!」
「テレスフィアを見てケティスが来てくれても、身分を保証する物が無いぜ」

 となると、誰にも分からない人物が動いていたということになる。いったい誰が身分を証明したのだろうか。
 ルフィアが気になって問う。

「フェイラスト、何か街で変なこと起きてる?」
「王国の薬剤師の町に行く前は、なんともなかったぜ。いない間に何かあったと考えた方がよさそうだなぁ」
「謎の身分を証明してくれた人のことも気になるし、真国しんこくに行くのは一旦取り止めにしようよ」
「俺もそう思う。俺達の身分を保証できるほどの人物を探ってみようか」

 皆は一旦真国へ旅立つのを取り止め、この街を調査することに決めた。

「いったい何が動いているんだ……」

 ルレインシティに起きている出来事とは。不穏な気配は、すぐ近くにやって来ていた。
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